有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ

文字の大きさ
上 下
93 / 104
過去との対話_奉日本_5

奉日本_5-8

しおりを挟む
 ホテルの駐車場に車を停め、受付に行くとスムーズに場所を教えてくれた。話していた通り、伊東が段取ってくれていたようだ。
 俺は手紙を片手にユースティティアの二人が入っている部屋の前まで来た。

 どんな状況でも割り込め、と言われたからにはそうする他ないのだが、行為の最中である可能性を考えると気が滅入った。最悪の使いだ。
 だが、持っている手紙――ご丁寧にも開封されていないことを保証する為にシーリングワックスで閉じられたそれを急ぎで渡しに来たのだから、これは相手にとっても重要なはずだ。
 俺は溜め息を一つ挟むと、ドアを力強くノックした。


 数回は無視されることを覚悟したが、男はすぐにドアを開けてくれた。上半身だけ裸で明らかに不機嫌な顔と声で俺に相対したが、伊東の言付けと手紙を渡すと表情を一変させた。

「クソが、これからがお楽しみだったってのに……仕方ないか。おい、車で来てるんだろ? キーを貸せ。車は俺が使うからお前は歩いて帰れ。伊東にも車は後日返す、と伝えておけ」
「わかりました」

 その男に逆らうことなく、俺がキーを渡すと男は素早く身支度を終えて、部屋から出て行った。
 残されたのは俺と未だ意識を失っている先程の女性だけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第二話。 少しずつではあるが結果を残し、市民からの信頼を得ていく治安維持組織『ユースティティア』。 『ユースティティア』の所属する有栖は大きな任務を目前に一つの別案件を受け取るが―― 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第五話。 マザー・エレクトロン株式会社が開催する技術展示会『サイバーフェス』 会場は『ユースティティア』と警察が共同で護衛することになっていた。 その中で有栖達は天才・アース博士の護衛という特別任務を受けることになる。 活気と緊張が入り混じる三日間――不可解な事故と事件が発生してしまう。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『幸福のブラックキャット』

ぴえ
ミステリー
警察と相対する治安維持組織『ユースティティア』に所属する有栖。 彼女は謹慎中に先輩から猫探しの依頼を受ける。 そのことを表と裏社会に通じるカフェ&バーを経営する奉日本に相談するが、猫探しは想定外の展開に繋がって行く―― 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『チープな刻の中で』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第四話。 誰しも時間は平等に流れている。 治安維持組織『ユースティティア』にも警察にも。 それが束の間の平穏だとしても。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第七話。 全てはここから始まった―― 『過去』と『現在』が交錯し、物語は『未来』へと繋がっていく。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

騙し屋のゲーム

鷹栖 透
ミステリー
祖父の土地を騙し取られた加藤明は、謎の相談屋・葛西史郎に救いを求める。葛西は、天才ハッカーの情報屋・後藤と組み、巧妙な罠で悪徳業者を破滅へと導く壮大な復讐劇が始まる。二転三転する騙し合い、張り巡らされた伏線、そして驚愕の結末!人間の欲望と欺瞞が渦巻く、葛西史郎シリーズ第一弾、心理サスペンスの傑作! あなたは、最後の最後まで騙される。

マクデブルクの半球

ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。 高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。 電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう─── 「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」 自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

処理中です...