有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

過去との対話_奉日本_5

奉日本_5-5

　そのあと、予想通りの展開となった。

　女性が酩酊状態――いや、おそらく薬による昏睡に近い状態になって意識を失った。ユースティティアの面々は少し戸惑いながら対応に困っていると、

「飲ませたのは俺だから、こいつは送っていくよ。マスター、タクシー呼んでくれる？」

　男が伊東にそう言うと、彼は決まっていた行動のように速やかに店の電話へと移動し、タクシーを呼びに行った。

「あと十五分ほどで来るそうです」

　予約を終えた、伊東がユースティティアの面々にそう告げると、

「あとは俺がなんとかしとくから、お前らは帰れ。ほら」

　用意していた定型文を取り出すように使用してテンポ良く、状況が進んでいく。他のユースティティアの男達は少し心配そうな表情をしていたが、男に逆らえないのか帰らされた。
　そして、十五分後にタクシーが来たので、テーブル席で待っていた男は眠っている女性に肩を貸し、引きずるように出入口へむかう。
　俺はようやくいなくなる、とそんな風にその近くにいた他の客を接客しながら横目で見ていたのだが――そこで、また事態が動いたのだ。

　伊東が慌てた様子で男に駆け寄った。
　そして、耳打ち。俺は少しだけ漏れ出る音を聞き､唇の動きを見る。

「……あの男が……動くかも。代わりの……車で……」

　それを聞いた男の目が伊東を睨むようなものへと変えた。真剣な表情とも見れるし、不機嫌な表情とも読み取れた。
　そして、男は再び女性を連れて、テーブル席へと戻り、伊東は来ていたタクシーにチップを渡して帰らせた。そのまま俺の方へと近づいて来て、

「奉日本、裏の車使ってあの二人の客を指定のホテルに送ってくれ」

　そう告げたのだった。