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過去との対話_奉日本_5
奉日本_5-4
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事態が動いたのは宴会の後半だった。
ユースティティアのグループから二人がテーブル席から離れ、カウンター席へと移動した。伊東が懇意にしている一番偉そうな男と唯一の女性だ。その様子を仕事をこなしながら横目で窺う。
「マスター、いつもの二つ」
男がそのように注文すると伊東が頷いた。常連ならではの注文の仕方――それだけのようにも思える。だけど、男が何か話したあと、女性が席を立った。トイレらしい……それは問題ない。だけど、その姿が完全に見えなくなると、伊東が動いた。カクテルを作る手を止めて、少し移動。手慣れた動作で引き出しから『何か』を取り出し、片方のグラスに素早くそれを入れた。そして、カクテル作りを再開し、出来上がった液体を二つのグラスに均等に注ぐ。片方のグラスでは『何か』がしゅわり、と溶けた。そして、通常通り注がれたグラスを先に男へと渡した。
その様子を見ることもなく、女性が戻ってきて席に座る。そして、彼女へ伊東がもう一方のグラスを差し出した。
「こちらグランドスラムになります」
珍しいカクテルではない。そして、当然だが作ったカクテルを注ぐ前に溶ける『何か』を入れる工程もない。
女性は一口だけそのカクテルを飲んだ。彼女もきっと席に戻る前にグラスが置かれていたなら、男が何かを細工をしたかもしれない、と警戒したかもしれないがマスターから直接渡されたことでそこに対する警戒は甘くなった。マスターと男が共謀しているとまでは思わなかったのだろう。
「二人だけの秘密」
俺はグランドスラムのカクテル言葉をぼそりと呟く。
本来なら男女が口説いたり、蜜月を過ごしたり、とそのような大人な関係を思わせる言葉だが、今回ばかりは伊東とその男の協力関係を表しているようだった。
ユースティティアのグループから二人がテーブル席から離れ、カウンター席へと移動した。伊東が懇意にしている一番偉そうな男と唯一の女性だ。その様子を仕事をこなしながら横目で窺う。
「マスター、いつもの二つ」
男がそのように注文すると伊東が頷いた。常連ならではの注文の仕方――それだけのようにも思える。だけど、男が何か話したあと、女性が席を立った。トイレらしい……それは問題ない。だけど、その姿が完全に見えなくなると、伊東が動いた。カクテルを作る手を止めて、少し移動。手慣れた動作で引き出しから『何か』を取り出し、片方のグラスに素早くそれを入れた。そして、カクテル作りを再開し、出来上がった液体を二つのグラスに均等に注ぐ。片方のグラスでは『何か』がしゅわり、と溶けた。そして、通常通り注がれたグラスを先に男へと渡した。
その様子を見ることもなく、女性が戻ってきて席に座る。そして、彼女へ伊東がもう一方のグラスを差し出した。
「こちらグランドスラムになります」
珍しいカクテルではない。そして、当然だが作ったカクテルを注ぐ前に溶ける『何か』を入れる工程もない。
女性は一口だけそのカクテルを飲んだ。彼女もきっと席に戻る前にグラスが置かれていたなら、男が何かを細工をしたかもしれない、と警戒したかもしれないがマスターから直接渡されたことでそこに対する警戒は甘くなった。マスターと男が共謀しているとまでは思わなかったのだろう。
「二人だけの秘密」
俺はグランドスラムのカクテル言葉をぼそりと呟く。
本来なら男女が口説いたり、蜜月を過ごしたり、とそのような大人な関係を思わせる言葉だが、今回ばかりは伊東とその男の協力関係を表しているようだった。
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