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過去との対話_奉日本_5

奉日本_5-2

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 伊東の店の手伝い、というのは本当に雑用に近いことを任されただけだった。どうやら、これまで働いていたバイトがいたそうだが、辞めたらしい。詳細は聞かなかったが、聞くまでもないことだろう。

 覚えることは簡単で注文を聞いてそれを伊東に伝えたり、注ぐだけでいい酒やソフトドリンク、軽食を提供したり、会計をしたり、と本当に雑用だった。一方で伊東はカウンターの向こうで優雅に酒を作ってはカウンター席の客に提供したり、俺に渡すだけ。なんだかその姿を自慢げに見せたいだけのようにも思えた。

 働く上で、スキルを向上させるような実りはなかったが、違う収穫はあった。一週間ほど働いたあたりでチラホラと散見されたのがカウンター席に裏社会の人間が座り、伊東と怪しげな話をしたり、メニューにない注文をすることがあることだ。
 そして、そのあとに伊東がバックヤードに入って帰ってくるなどの怪しげな行動を取ること。

 尋ねることも、言及することもなかったが良からぬことをしているのは明らかだった。わざわざ藪を突いて蛇を出して咬まれる必要なんてない。だから、何も言わない。
 それにカウンター席に座る裏社会の人間達も、俺が要注意人物や関わらないでおこうと認識している奴がほとんどだ。あんな奴らと付き合っていたら、いつかは破滅する。それを伊東は上手く付き合っているつもりなのだろう。甘い汁だけを啜っている――なんて過信してはいけないのが裏社会での付き合い方だ。上手くいっているときほど警戒しないといけない。俺の目から見れば、全員が伊東より一枚も二枚も上手のように感じた。

 そこから導かれるのは、これを機に伊東との付き合いは完全に断ち切ることだった。極限まで追い込まれた状況になると縋れるものには縋るものだ。そのときに巻き込まれないようにしなければならない。

 残り一週間、となったときに、伊東からこう告げられた。

「今日はこのあと太い客が来る。ユースティティアの上の方の人間だ。丁寧な接客を頼む」

 素直に返事をしたものの、珍しい関係を結んでいるんだな、と思ったものだ。警察ならともかく、ユースティティアとは俺もまだ情報を収集できる人間との関係はなかったからだ。

「あと、基本はテーブル席だと思うが、カウンター席に移動したら細かい指示を出すかもしれない。そのときは何も聞かず従ってくれ」

 伊東は不敵に笑って、そう付け加えた。
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