有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ

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過去との対話_奉日本_4

奉日本_4-3

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 休業してからの暴力は体だけではなく、顔に容赦なくとんできた。家でしか偉ぶることができなった父にとって、その家の中で唯一屈辱を与えた母と似ている俺の顔が気にくわなかったのだろう。

 顔への暴力は跡に残ることもあったので、そうなった場合は学校を休むことになった。理由は父の方から先生に連絡がされた。どうやらこの当時の俺は体が弱い、という設定になったようだ。

 そして、今でも夢で思い出す場面がある。

 馬乗りになられ、身動きが出来なくなった状態で首を絞められる。
 そして、血走った父の目がまるでそこだけが浮かんでいるように俺の方を睨む。
 荒い呼吸と共に、赤い光が近づいて来る――煙草だ。それはゆっくりと俺の目に近づき、眼球を焼く――直前で軌道を変えて、右のこめかみに押しつけられる。
 じゅっ、と音を立てて、皮膚が焼ける。熱くて、痛くて、叫びたいのに首を絞められているので声が出ない。涙を流し、可能な限り身体をねじる。だけど、どれも無意味だった。
 俺の前にある浮いている目玉が喋る。

「俺が眼球を焼かないのは、お前を愛しているからだ。お前も俺のこと愛しているか? 愛しているよな?」

 そこで少しだけ首を絞める力が弱まり、呼吸と発言が許可される。

「はい、僕はお父さんを愛しています。お父さんも僕に酷いことはしません」

 これは何度も繰り返された愛を確認する儀式だった。
 これにより、俺の右こめかみには消えない跡が残っている。何度も根性焼きで、煙草を押しつけられた跡だ。これを髪で隠せるようになるまでは学校には行かせてもらえなかった。結果的に、小学校の卒業式には出られなかったっけ。
 中学生に上がる頃には、今と同じように右目を隠す髪型になったので、なんとか学校には行かせてもらえた。

 この頃には、俺も自分の住む家が異常であることには気づいていた。それでも、どこかで震災の頃の記憶もあり、

 父は本当に俺のことを愛していて、それを表に出すのが不器用なだけ

 そんな風に思っていたんだと思う。
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