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過去との対話_奉日本_4

奉日本_4-1

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 母が出て行き、離婚は成立した。どのような経緯でそれが成立したかは、俺には解らない。一度ぐらいは会えるかと思っていたけど、母と会うことは叶わず、

「母さんはもう帰ってこない。アイツは俺もお前のことも愛してなかったんだ」

 父からそう告げられたのは、覚えている。
 今考えれば馬鹿馬鹿しく、愚かなことだが父は母との間に愛があるのだと思っていたらしい。だから、彼からすれば裏切りだったのだろう。そして、同時に屈辱も与えた。
 幸せな家庭を周囲にアピールしていたのに、それを継続できなかったことは、周囲から駄目な人間のように見られたり、見栄を張っていた、嘘をついていたのだ、と思われることが耐えられなかった。

「外で男を作って逃げた」
「誰かが彼女を唆した」

 誰にも聞かれていないのに、まるで言い訳のようにそんなことを周囲に吹聴しては、自身に問題がないように振る舞った。
 そこから家事全般は俺がやることになった。
 最初のうちは不出来でも大目に見てもらっていたけれど、一ヶ月もすれば少しのミスで暴力を振るわれるようになった。

 このときには、父はどうやら部下から無能扱いされ、邪魔者扱いされていたのがより顕著になったようだ。
 仕事が出来ないならば、それを受け止め、理解し、努力することを見つければいいのに、父はそれができなかった。

「ちょっといい大学を出てるからって偉そうにしやがって」

 酩酊状態でそのようなことを言っていたのを覚えている。高卒で成果を出しているときは良かった。でも、今はそのようにできないことを彼自身が学歴が理由だと思ってしまったのだろう。
 彼はずっと――学歴コンプレックスを抱えていたのかもしれない。
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