上 下
54 / 104
現在_我孫子

我孫子_3

しおりを挟む
「はぁ? 知らないね……何のことだぁ? というか、ここを出たら覚えてろよ? こっちは怪我してんだ。この証拠でいくらでも訴えてやることが出来るんだからな」

 この聴取が始まる前に佐倉と京は話し合っていたので、彼女が我孫子を数発殴ることを知っていた。だが、その行為があまりにも淡々と、だが、明らかに怒りが込められていたものだったので、驚いた。その感情は部下を思ってのことだろうが、この行動は上司として部下に見せてはいけないな、とも思った。今も彼女が見る我孫子への視線は残忍で、拳銃の所持と発砲の許可があればためらいなく撃つだろう。

「別に構わない。この聴取を終えて、お前が訴えたい、とまだ思えていたならな」
「どういう意味だ?」
「今回の件、何故お前を隔離するような聴取が可能で、何故警察はお前を助けにこないんだろうな?」
「ユースティティア内の出来事に警察が干渉するわけないだろ。それに、お前達の行動が珍しく早かったってのもあるだろうが……」
「そうだな。確かに、俺達の行動は早かった。そして、俺も今回の件で警察が干渉するのはかなりの無理を通す必要があるから、可能姓は低いと考えていた。だけど、それは常識で考えての話だ」
「常識?」
「今の警察は常識の範囲外にいる、と考えるべきだろう? 無理を通すことも、理不尽な行動も、ユースティティアへの干渉もいくらでも可能だ。警察の都合の良いストーリーに変更することができる。だって、『レシエントメンテ』があるのだから――そうだろ?」
「…………」
「『レシエントメンテ』を手にした奴は頭の回転が異常に早く秀才かつ狡猾だ。仮にお前が内通者であるならば、今回の行動も知られていると考えるべきだろう。お前の行動は筒抜けだと考えてしかるべきだ。しかし、その警察がお前を助けに来ない。理由なんていくらでも作れるよな? 俺達が違法な聴取をしている、とか、内々で不祥事をもみ消そうとしている、とか。まぁ、お前が内通者ではない、という可能姓は……考えるだけ無駄だな。こっちも長い間調べてきたんだからな」
「……ふん」
「可能姓の高い方で考えよう。お前が警察の内通者であるのにも関わらず、警察が無理をしてでも助けにこないのは何故か? 用済みだから――だとしたら、警察が近いうちに消すだろう。そんな大事な仕事を疎かにするとは考えにくい。では、お前を消せない理由がある――だったら、無理をしてでも助けにくるはずだ。何かの手違いで損失が出ることは避けたいからな」
「…………何が言いたい?」
「お前は自分が警察には消されない手段を持っているつもりかもしれないが、それは警察が本気を出せばどうとでもなるものだ、と俺は考えている。だが、警察はあえてお前に手を出せない振りをして、『今のこの状況を作らせた』んだよ。警察からすれば、お前は脅威ではない。利用価値のある道具なんだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第二話。 少しずつではあるが結果を残し、市民からの信頼を得ていく治安維持組織『ユースティティア』。 『ユースティティア』の所属する有栖は大きな任務を目前に一つの別案件を受け取るが―― 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『幸福のブラックキャット』

ぴえ
ミステリー
警察と相対する治安維持組織『ユースティティア』に所属する有栖。 彼女は謹慎中に先輩から猫探しの依頼を受ける。 そのことを表と裏社会に通じるカフェ&バーを経営する奉日本に相談するが、猫探しは想定外の展開に繋がって行く―― 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第五話。 マザー・エレクトロン株式会社が開催する技術展示会『サイバーフェス』 会場は『ユースティティア』と警察が共同で護衛することになっていた。 その中で有栖達は天才・アース博士の護衛という特別任務を受けることになる。 活気と緊張が入り混じる三日間――不可解な事故と事件が発生してしまう。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『チープな刻の中で』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第四話。 誰しも時間は平等に流れている。 治安維持組織『ユースティティア』にも警察にも。 それが束の間の平穏だとしても。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第七話。 全てはここから始まった―― 『過去』と『現在』が交錯し、物語は『未来』へと繋がっていく。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

ダブルネーム

しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する! 四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。

10日間の<死に戻り>

矢作九月
ミステリー
火事で死んだ中年男・田中が地獄で出逢ったのは、死神見習いの少女だった―…田中と少女は、それぞれの思惑を胸に、火事の10日前への〈死に戻り〉に挑む。人生に絶望し、未練を持たない男が、また「生きよう」と思えるまでの、10日間の物語。

変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~

aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。 ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。   とある作品リスペクトの謎解きストーリー。   本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。

処理中です...