39 / 104
過去との対話_有栖_6
有栖_6-9
しおりを挟む
我孫子と『私』はカウンター席に移動した。
「マスター、いつもの二つ」
我孫子の注文にマスターが静かに頷く。『私』が何を注文したのか不思議そうにマスターの方を見ていると、
「俺はな、真剣な話をするときに飲む酒は決めてるんだよ。まぁ、それが仕事しろ、女を口説くときにしろ同じ酒なわけだ」
得意気に我孫子は鼻を鳴らす。
「あんまり強い酒は飲めませんよ」
「おぉ、そうか。確かに少し強めの酒だ。一口飲んで厳しそうなら無理して飲む必要はない」
「……解りました」
「ところで、俺は話の腰を折られるのが大嫌いだ。カウンター席に移動したのも他の奴らの余計な意見を聞きたくないからだ。だから、トイレとか行っとくなら今のうちだぞ。もし途中で席を立つようなら同じ話はしない」
「一応済ませてきます」
「懸命な判断だな。どうせ酒ができるまでに少し時間はある」
『私』は離席し、トイレに行き用を済ませた。そして、戻ると我孫子の前には一つのカクテルが置かれていた。『私』も隣に座るとマスターが同じもの差し出してくれた。
「こちらグランドスラムになります」
カクテルグラスの中には薄い茶色の大人びた雰囲気のある液体が注がれていた。
「乾杯」
「……はい」
我孫子がグラスを持ち、急かすように『私』に突き出す。グラス同士を軽く触れさせると、我孫子がくいっと一口、二口と飲む一方で『私』は初めてみる酒に恐る恐る口をつける。
少しスパイスが聞いた味とラム酒のような香りが鼻孔を刺激した。正直、アルコールも強く、あまり好きな味ではなかったので顔をしかめてしまった。
「無理して飲む必要はない。大事なのは今から話すことだからな」
我孫子の言葉に甘え、『私』はグラスをカウンターに置いた。
「マスター、いつもの二つ」
我孫子の注文にマスターが静かに頷く。『私』が何を注文したのか不思議そうにマスターの方を見ていると、
「俺はな、真剣な話をするときに飲む酒は決めてるんだよ。まぁ、それが仕事しろ、女を口説くときにしろ同じ酒なわけだ」
得意気に我孫子は鼻を鳴らす。
「あんまり強い酒は飲めませんよ」
「おぉ、そうか。確かに少し強めの酒だ。一口飲んで厳しそうなら無理して飲む必要はない」
「……解りました」
「ところで、俺は話の腰を折られるのが大嫌いだ。カウンター席に移動したのも他の奴らの余計な意見を聞きたくないからだ。だから、トイレとか行っとくなら今のうちだぞ。もし途中で席を立つようなら同じ話はしない」
「一応済ませてきます」
「懸命な判断だな。どうせ酒ができるまでに少し時間はある」
『私』は離席し、トイレに行き用を済ませた。そして、戻ると我孫子の前には一つのカクテルが置かれていた。『私』も隣に座るとマスターが同じもの差し出してくれた。
「こちらグランドスラムになります」
カクテルグラスの中には薄い茶色の大人びた雰囲気のある液体が注がれていた。
「乾杯」
「……はい」
我孫子がグラスを持ち、急かすように『私』に突き出す。グラス同士を軽く触れさせると、我孫子がくいっと一口、二口と飲む一方で『私』は初めてみる酒に恐る恐る口をつける。
少しスパイスが聞いた味とラム酒のような香りが鼻孔を刺激した。正直、アルコールも強く、あまり好きな味ではなかったので顔をしかめてしまった。
「無理して飲む必要はない。大事なのは今から話すことだからな」
我孫子の言葉に甘え、『私』はグラスをカウンターに置いた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第二話。
少しずつではあるが結果を残し、市民からの信頼を得ていく治安維持組織『ユースティティア』。
『ユースティティア』の所属する有栖は大きな任務を目前に一つの別案件を受け取るが――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『幸福のブラックキャット』
ぴえ
ミステリー
警察と相対する治安維持組織『ユースティティア』に所属する有栖。
彼女は謹慎中に先輩から猫探しの依頼を受ける。
そのことを表と裏社会に通じるカフェ&バーを経営する奉日本に相談するが、猫探しは想定外の展開に繋がって行く――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第五話。
マザー・エレクトロン株式会社が開催する技術展示会『サイバーフェス』
会場は『ユースティティア』と警察が共同で護衛することになっていた。
その中で有栖達は天才・アース博士の護衛という特別任務を受けることになる。
活気と緊張が入り混じる三日間――不可解な事故と事件が発生してしまう。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『チープな刻の中で』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第四話。
誰しも時間は平等に流れている。
治安維持組織『ユースティティア』にも警察にも。
それが束の間の平穏だとしても。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第七話。
全てはここから始まった――
『過去』と『現在』が交錯し、物語は『未来』へと繋がっていく。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
ダブルネーム
しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する!
四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。
変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~
aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。
ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。
とある作品リスペクトの謎解きストーリー。
本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。
ファクト ~真実~
華ノ月
ミステリー
主人公、水無月 奏(みなづき かなで)はひょんな事件から警察の特殊捜査官に任命される。
そして、同じ特殊捜査班である、透(とおる)、紅蓮(ぐれん)、槙(しん)、そして、室長の冴子(さえこ)と共に、事件の「真実」を暴き出す。
その事件がなぜ起こったのか?
本当の「悪」は誰なのか?
そして、その事件と別で最終章に繋がるある真実……。
こちらは全部で第七章で構成されています。第七章が最終章となりますので、どうぞ、最後までお読みいただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる