有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ

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過去との対話_有栖_6

有栖_6-8

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 二次会の場所は我孫子の行きつけのバーだった。薄暗い照明にカウンター席とテーブル席が数卓。カウンター席の前ではバーテンダーが立っていて、お酒を振る舞ってくれるらしい。バーという場所には初めて来た『私』だったが、テレビドラマとかで見た光景と似ているんだな、という間抜けな感想が浮かんだものだ。ただ唯一想像と違ったのは、マスターは渋めの妙齢の男性ではなく、三十代ぐらいの若さだったことぐらいだ。

 二次会には他の男性隊員も数人来ていた。『私』一人ではない、ということは確実に安堵感を与えていたと思う。一方で、数人でバーに来たので、テーブル席を勧められ座ることになった。この場合、バーテンダーはどのように接客するのだろう、と疑問に思っていた。他にも客は疎らにカウンターに座っている。バーテンダーが慌ただしく動き回る姿はこの店の雰囲気には適していないように思えた。

「こちらメニューになります」

 そんな疑問はテーブル席に座った『私』達に注文を聞きに来た青年が解決してくれた。薄暗く照明が当たらないところに立っているので、しっかりと顔は見えないが若い男性がバーテンダー以外にもいたらしい。彼が注文を受けて、バーテンダーに伝えて、また彼が注文した品を持ってくる、となっているようだ。

 そこから始まった二次会。我孫子のリサイタルのように、彼の武勇伝が語られ、それを取り巻きが感服したかのような反応を見せるの繰り返し。上機嫌なのか普段も二次会の振る舞いはそうなのかは定かではないが、我孫子がここを奢るらしく酒をドンドン頼むように言った。
 他の隊員が様々な酒を飲む中、『私』はカクテルとチェイサーに水を頼んで悪酔いしないように努めた。

 だらだらと続く我孫子の話を聞いている限り、

 ――女性隊員の話はしないな、これは

 そう察して、諦め、視線を別のところに向けているときだ。

「そうだった、そうだった。有栖、お前と仕事の話をしないと駄目だったな」

 と、まさかの我孫子の方から話を切り出したので驚いた。彼は手に持っていたウイスキーのロックを一気に飲み干すと、

「真面目な話だ。無粋な横槍も面倒だしな、カウンター席で話そう」

 そう言ってグラスをテーブルに置いて、立ち上がった。
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