35 / 104
過去との対話_有栖_6
有栖_6-5
しおりを挟む
周囲もいつかは、と考えていた大問題が起きたのはそれから一ヶ月後のことだった。
我孫子がまたも大きな事件を解決し、実績を残し、その祝勝会が強制参加で開かれた。参加しなかったことについて後日ネチネチと文句を言われるのが嫌で仕方なく参加している人が半分、我孫子に媚びを売って自身の出世に繋げたい人が半分、とまぁ、心から祝勝していない会だった。
当然、『私』も参加していた。とはいえ、一次会で帰るつもりだった――最初は。
その祝勝会はユースティティアの近くにある個人経営の居酒屋を貸し切って行われた。ここは忘年会などでもよく使われる場所だったらしく、幹事はどこを選んでも文句を言われることを解っていたからこそ味にも酒の種類にも実績がある無難な選択をしたのだろう。仮に行ったことのない場所を選んだとしても値段や味に一つでも納得のいかないところがあれば文句を言われ、自分が行ったことがある自信のある場所を選んでも否定されれば嫌な気分になる……それは誰だって避けたい。
「カンパーイ」
その合図で始まった祝勝会は前半は通常の飲み会だった。我孫子にアピールしたい人達は彼の近くに座り、関わりたくない人は遠くにグループを作って座る。そして、歓談を交えながら、コースで出てくる料理をシェアしていく。
「相変わらず普通の味だな。まぁ、普通が一番か?」
店主にも聞こえるような失礼な発言。
「幹事ももうちょっと新規開拓にチャレンジしろよな」
気にくわなかったら何日も文句を言うのに誰もチャレンジするわけない。
我孫子の無駄に大きい声に誰もが心の中で同じことを考えていたと思う。しかも、たちの悪いことに我孫子は酒豪だった。少しでも飲んで静かになるなら皆もどれだけ助かっただろうか。神様は才能を与えるときに適性審査はしていないらしい。
祝勝会が中盤になったあたりから、少し空気が変わった。
「女に酌してもらいてぇな」
我孫子がそんなことを言ったのである。そして悲劇的なことに、その場にいる女性は『私』と隣の席の女子隊員しかいなかった。また、『私』への嫌がらせが始まるのか、とうんざりしていたが、我孫子は予想外のことを言った。
「有栖じゃない方の女……俺の横に来て、酌しろよ」
我孫子がまたも大きな事件を解決し、実績を残し、その祝勝会が強制参加で開かれた。参加しなかったことについて後日ネチネチと文句を言われるのが嫌で仕方なく参加している人が半分、我孫子に媚びを売って自身の出世に繋げたい人が半分、とまぁ、心から祝勝していない会だった。
当然、『私』も参加していた。とはいえ、一次会で帰るつもりだった――最初は。
その祝勝会はユースティティアの近くにある個人経営の居酒屋を貸し切って行われた。ここは忘年会などでもよく使われる場所だったらしく、幹事はどこを選んでも文句を言われることを解っていたからこそ味にも酒の種類にも実績がある無難な選択をしたのだろう。仮に行ったことのない場所を選んだとしても値段や味に一つでも納得のいかないところがあれば文句を言われ、自分が行ったことがある自信のある場所を選んでも否定されれば嫌な気分になる……それは誰だって避けたい。
「カンパーイ」
その合図で始まった祝勝会は前半は通常の飲み会だった。我孫子にアピールしたい人達は彼の近くに座り、関わりたくない人は遠くにグループを作って座る。そして、歓談を交えながら、コースで出てくる料理をシェアしていく。
「相変わらず普通の味だな。まぁ、普通が一番か?」
店主にも聞こえるような失礼な発言。
「幹事ももうちょっと新規開拓にチャレンジしろよな」
気にくわなかったら何日も文句を言うのに誰もチャレンジするわけない。
我孫子の無駄に大きい声に誰もが心の中で同じことを考えていたと思う。しかも、たちの悪いことに我孫子は酒豪だった。少しでも飲んで静かになるなら皆もどれだけ助かっただろうか。神様は才能を与えるときに適性審査はしていないらしい。
祝勝会が中盤になったあたりから、少し空気が変わった。
「女に酌してもらいてぇな」
我孫子がそんなことを言ったのである。そして悲劇的なことに、その場にいる女性は『私』と隣の席の女子隊員しかいなかった。また、『私』への嫌がらせが始まるのか、とうんざりしていたが、我孫子は予想外のことを言った。
「有栖じゃない方の女……俺の横に来て、酌しろよ」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第二話。
少しずつではあるが結果を残し、市民からの信頼を得ていく治安維持組織『ユースティティア』。
『ユースティティア』の所属する有栖は大きな任務を目前に一つの別案件を受け取るが――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『幸福のブラックキャット』
ぴえ
ミステリー
警察と相対する治安維持組織『ユースティティア』に所属する有栖。
彼女は謹慎中に先輩から猫探しの依頼を受ける。
そのことを表と裏社会に通じるカフェ&バーを経営する奉日本に相談するが、猫探しは想定外の展開に繋がって行く――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第五話。
マザー・エレクトロン株式会社が開催する技術展示会『サイバーフェス』
会場は『ユースティティア』と警察が共同で護衛することになっていた。
その中で有栖達は天才・アース博士の護衛という特別任務を受けることになる。
活気と緊張が入り混じる三日間――不可解な事故と事件が発生してしまう。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『チープな刻の中で』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第四話。
誰しも時間は平等に流れている。
治安維持組織『ユースティティア』にも警察にも。
それが束の間の平穏だとしても。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第七話。
全てはここから始まった――
『過去』と『現在』が交錯し、物語は『未来』へと繋がっていく。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
ダブルネーム
しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する!
四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。
10日間の<死に戻り>
矢作九月
ミステリー
火事で死んだ中年男・田中が地獄で出逢ったのは、死神見習いの少女だった―…田中と少女は、それぞれの思惑を胸に、火事の10日前への〈死に戻り〉に挑む。人生に絶望し、未練を持たない男が、また「生きよう」と思えるまでの、10日間の物語。
変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~
aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。
ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。
とある作品リスペクトの謎解きストーリー。
本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる