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過去との対話_有栖_6
有栖_6-1
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ユースティティアに正式に入隊して『私』を待っていたのは希望とはほど遠い世界だった。というのも、入隊してからのユースティティアの所属部署である刑事課の考えが古かったのだ。
男女平等とは言葉ばかりの職場だった。養成学校は革新的な考えだったが、それはまだ組織に中にまで浸透していない。女性を前線部隊に所属させた実績がないので、刑事課に配属されても捜査にまでは参加させてもらえなかった。
実務となる捜査などの業務は男性。女性は事務とお茶くみなどの雑務と完全に区切られていた。『私』もその例外にはなれず、雑務を押しつけられることになった。養成学校時代の成績、というのは全く考慮されなかったのだ。
そういった雰囲気はすぐに変わるものではない――それは『私』も解っていた。だから、当時の『私』は女性隊員の服をルールを守って着ていた。
白いブラウスの制服にスカート。普段はパンツスタイルだったから違和感はあった。それでも新入社員だったこともあり、いきなり型破りなこともできないので、ちゃんと守っていた。髪型だって後ろでまとめて綺麗にセットしていたっけ。
それでも前線や現場での活動希望は伝え続けてきた。
他の女子隊員もいたけれど、その子は大学から入隊した事務希望だったので、自身の仕事に違和感はなく専属補佐のように雑務をしていた。
「私、どうせ結婚したら辞めるんで」
一緒に働いているとき、そんなことを言われたことがある。彼女にとってここでの就職は人生経験の一つであり、寄り道みたいなものなのだろう。だけど、それを否定するつもりはなかったし、彼女とは友好な関係だった。
『私』にネイルをしてくれたり、オシャレやトレンドを教えてくれた。
「有栖さんも女の子なんだから、こういうのを覚えていても損はないから」
『私』が前線での活動を希望していることを理解しながらも、別の道もあることを提示してくれていたんだと思う。
「大丈夫だって、きっと実力が認められるから」
養成学校を卒業生した男性隊員は『私』を励ますように言ってくれた。その言葉は本当に嬉しかったし、励みにもなった。
だけど――
「おいおい、なんだお前ら仲良さそうに。そういう関係か? だったら、進捗状況は上司に報告しろよ」
不快な笑い声と口調。馴れ馴れしい態度に自身が面白いと勘違いしている上に場の空気も読めない。
それが当時の『私』の上司――我孫子だった。
男女平等とは言葉ばかりの職場だった。養成学校は革新的な考えだったが、それはまだ組織に中にまで浸透していない。女性を前線部隊に所属させた実績がないので、刑事課に配属されても捜査にまでは参加させてもらえなかった。
実務となる捜査などの業務は男性。女性は事務とお茶くみなどの雑務と完全に区切られていた。『私』もその例外にはなれず、雑務を押しつけられることになった。養成学校時代の成績、というのは全く考慮されなかったのだ。
そういった雰囲気はすぐに変わるものではない――それは『私』も解っていた。だから、当時の『私』は女性隊員の服をルールを守って着ていた。
白いブラウスの制服にスカート。普段はパンツスタイルだったから違和感はあった。それでも新入社員だったこともあり、いきなり型破りなこともできないので、ちゃんと守っていた。髪型だって後ろでまとめて綺麗にセットしていたっけ。
それでも前線や現場での活動希望は伝え続けてきた。
他の女子隊員もいたけれど、その子は大学から入隊した事務希望だったので、自身の仕事に違和感はなく専属補佐のように雑務をしていた。
「私、どうせ結婚したら辞めるんで」
一緒に働いているとき、そんなことを言われたことがある。彼女にとってここでの就職は人生経験の一つであり、寄り道みたいなものなのだろう。だけど、それを否定するつもりはなかったし、彼女とは友好な関係だった。
『私』にネイルをしてくれたり、オシャレやトレンドを教えてくれた。
「有栖さんも女の子なんだから、こういうのを覚えていても損はないから」
『私』が前線での活動を希望していることを理解しながらも、別の道もあることを提示してくれていたんだと思う。
「大丈夫だって、きっと実力が認められるから」
養成学校を卒業生した男性隊員は『私』を励ますように言ってくれた。その言葉は本当に嬉しかったし、励みにもなった。
だけど――
「おいおい、なんだお前ら仲良さそうに。そういう関係か? だったら、進捗状況は上司に報告しろよ」
不快な笑い声と口調。馴れ馴れしい態度に自身が面白いと勘違いしている上に場の空気も読めない。
それが当時の『私』の上司――我孫子だった。
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