有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ

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過去との対話_有栖_3

有栖_3-7

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「『自分』の為です」

 その言葉は即答だった。何かを一瞬でも考えていたら、その速度では口から出ないぐらいに。まるでずっと『私』の中から出たかったみたいだった。
 あまりに即答だったせいか、目の前の男は呆気に取られ、そして、

「……お前もかよ」

 と小さく呟くと、少し間を空けたあとで堪えきれなかったように笑い出した。

 何で笑われているのか?
 何か回答を間違えたのか?

 困惑しながら笑う男を見ていると、

「悪い、悪い。気にするな、お前みたいに即答したのが二人目だったから笑っちまっただけだ。いや、本音で即答出来る奴――しかも、俺が望むような答えを聞けるなんて思ってなかったからな」

 区切るように一呼吸挟んで、男は真面目な表情を作って『私』を見た。

「今まで、何人もの奴が噂を聞いて俺に教えを請おうとしてきた。その度に今の質問をしてきた」

 やはり彼に教えを請おうとした人が何人もいるんだな、と聞きながら納得する。

「大体の奴が一呼吸考える。俺が何を言って欲しいのかその言葉を探す為だ。その回答は嘘だから意味がないし、そんな奴に教えても会得できない。まぁ、たまに一呼吸挟んで本音を言う奴もいたが、それも駄目。それは俺が望む本音じゃないからな」
「本音は本音では?」
「違うんだよ。俺が望む本音は、常に渇望しているからこそ出てくる言葉だ。だからこそ、嘘はなく、本当の言葉しか出てこない」

 男は目線を『私』から外し、小さな虫でも飛んでいたかのように視線を空に漂わせながら過去を思い出して話してくれた。

「今までに多かったのは誰かを護る為とか、武を極めたいとか……そんなだったな。けど、そんなのは俺に気に入られたい為の嘘か、自身でも気づいていない建前だ」

 嘲る様に噛み殺した笑いを見せると、視線は『私』に戻ってきた。

「『自分』の為だ。『自分』の延長線上に他の何があるだけだ。『自分』を護ったり、『自分』を満たす為に力にせよ、金にせよ、他の何にせよ必要なんだよ。まぁ、ここまで言うと世の中にいる強欲な奴らと変わらないように聞こえるかもしれないが、基本は変わらん。『自分』の欲で動く、という点ではな。目的が力か金か……それぐらいだ。だけど、唯一違う点もある。俺のような力を得る為に、犠牲にするの他人じゃない。犠牲にするのは――『自分』だ。『自分』を安全圏に置いて得られるほど陳腐なもんじゃないんだ。つまり――」

 そこで男は『私』を見たまま言葉を止めた。

「俺の言いたいことは充分伝わってるみたいだな。楽しそうな目をしやがって」

 そういった男の顔も楽しそうだった。たぶん、『私』は彼の言葉に共感していた。そう、渇いた何かが潤っていくように。

「教えてやるよ。ただ俺の戦い方ってのは俺のオリジナルだ。名前はない。あるのは志みたいなもんだけだ」

 男は『私』へ真っ直ぐに真理のように伝えた。

「突くなら砕く。蹴るならば刈り取る。掴むなら投げる。投げたなら極める。極めたなら、折り、締める。全ての手法を尽くし相手を潰す――これぞ千変万化」
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