20 / 104
過去との対話_有栖_3
有栖_3-7
しおりを挟む
「『自分』の為です」
その言葉は即答だった。何かを一瞬でも考えていたら、その速度では口から出ないぐらいに。まるでずっと『私』の中から出たかったみたいだった。
あまりに即答だったせいか、目の前の男は呆気に取られ、そして、
「……お前もかよ」
と小さく呟くと、少し間を空けたあとで堪えきれなかったように笑い出した。
何で笑われているのか?
何か回答を間違えたのか?
困惑しながら笑う男を見ていると、
「悪い、悪い。気にするな、お前みたいに即答したのが二人目だったから笑っちまっただけだ。いや、本音で即答出来る奴――しかも、俺が望むような答えを聞けるなんて思ってなかったからな」
区切るように一呼吸挟んで、男は真面目な表情を作って『私』を見た。
「今まで、何人もの奴が噂を聞いて俺に教えを請おうとしてきた。その度に今の質問をしてきた」
やはり彼に教えを請おうとした人が何人もいるんだな、と聞きながら納得する。
「大体の奴が一呼吸考える。俺が何を言って欲しいのかその言葉を探す為だ。その回答は嘘だから意味がないし、そんな奴に教えても会得できない。まぁ、たまに一呼吸挟んで本音を言う奴もいたが、それも駄目。それは俺が望む本音じゃないからな」
「本音は本音では?」
「違うんだよ。俺が望む本音は、常に渇望しているからこそ出てくる言葉だ。だからこそ、嘘はなく、本当の言葉しか出てこない」
男は目線を『私』から外し、小さな虫でも飛んでいたかのように視線を空に漂わせながら過去を思い出して話してくれた。
「今までに多かったのは誰かを護る為とか、武を極めたいとか……そんなだったな。けど、そんなのは俺に気に入られたい為の嘘か、自身でも気づいていない建前だ」
嘲る様に噛み殺した笑いを見せると、視線は『私』に戻ってきた。
「『自分』の為だ。『自分』の延長線上に他の何があるだけだ。『自分』を護ったり、『自分』を満たす為に力にせよ、金にせよ、他の何にせよ必要なんだよ。まぁ、ここまで言うと世の中にいる強欲な奴らと変わらないように聞こえるかもしれないが、基本は変わらん。『自分』の欲で動く、という点ではな。目的が力か金か……それぐらいだ。だけど、唯一違う点もある。俺のような力を得る為に、犠牲にするの他人じゃない。犠牲にするのは――『自分』だ。『自分』を安全圏に置いて得られるほど陳腐なもんじゃないんだ。つまり――」
そこで男は『私』を見たまま言葉を止めた。
「俺の言いたいことは充分伝わってるみたいだな。楽しそうな目をしやがって」
そういった男の顔も楽しそうだった。たぶん、『私』は彼の言葉に共感していた。そう、渇いた何かが潤っていくように。
「教えてやるよ。ただ俺の戦い方ってのは俺のオリジナルだ。名前はない。あるのは志みたいなもんだけだ」
男は『私』へ真っ直ぐに真理のように伝えた。
「突くなら砕く。蹴るならば刈り取る。掴むなら投げる。投げたなら極める。極めたなら、折り、締める。全ての手法を尽くし相手を潰す――これぞ千変万化」
その言葉は即答だった。何かを一瞬でも考えていたら、その速度では口から出ないぐらいに。まるでずっと『私』の中から出たかったみたいだった。
あまりに即答だったせいか、目の前の男は呆気に取られ、そして、
「……お前もかよ」
と小さく呟くと、少し間を空けたあとで堪えきれなかったように笑い出した。
何で笑われているのか?
何か回答を間違えたのか?
困惑しながら笑う男を見ていると、
「悪い、悪い。気にするな、お前みたいに即答したのが二人目だったから笑っちまっただけだ。いや、本音で即答出来る奴――しかも、俺が望むような答えを聞けるなんて思ってなかったからな」
区切るように一呼吸挟んで、男は真面目な表情を作って『私』を見た。
「今まで、何人もの奴が噂を聞いて俺に教えを請おうとしてきた。その度に今の質問をしてきた」
やはり彼に教えを請おうとした人が何人もいるんだな、と聞きながら納得する。
「大体の奴が一呼吸考える。俺が何を言って欲しいのかその言葉を探す為だ。その回答は嘘だから意味がないし、そんな奴に教えても会得できない。まぁ、たまに一呼吸挟んで本音を言う奴もいたが、それも駄目。それは俺が望む本音じゃないからな」
「本音は本音では?」
「違うんだよ。俺が望む本音は、常に渇望しているからこそ出てくる言葉だ。だからこそ、嘘はなく、本当の言葉しか出てこない」
男は目線を『私』から外し、小さな虫でも飛んでいたかのように視線を空に漂わせながら過去を思い出して話してくれた。
「今までに多かったのは誰かを護る為とか、武を極めたいとか……そんなだったな。けど、そんなのは俺に気に入られたい為の嘘か、自身でも気づいていない建前だ」
嘲る様に噛み殺した笑いを見せると、視線は『私』に戻ってきた。
「『自分』の為だ。『自分』の延長線上に他の何があるだけだ。『自分』を護ったり、『自分』を満たす為に力にせよ、金にせよ、他の何にせよ必要なんだよ。まぁ、ここまで言うと世の中にいる強欲な奴らと変わらないように聞こえるかもしれないが、基本は変わらん。『自分』の欲で動く、という点ではな。目的が力か金か……それぐらいだ。だけど、唯一違う点もある。俺のような力を得る為に、犠牲にするの他人じゃない。犠牲にするのは――『自分』だ。『自分』を安全圏に置いて得られるほど陳腐なもんじゃないんだ。つまり――」
そこで男は『私』を見たまま言葉を止めた。
「俺の言いたいことは充分伝わってるみたいだな。楽しそうな目をしやがって」
そういった男の顔も楽しそうだった。たぶん、『私』は彼の言葉に共感していた。そう、渇いた何かが潤っていくように。
「教えてやるよ。ただ俺の戦い方ってのは俺のオリジナルだ。名前はない。あるのは志みたいなもんだけだ」
男は『私』へ真っ直ぐに真理のように伝えた。
「突くなら砕く。蹴るならば刈り取る。掴むなら投げる。投げたなら極める。極めたなら、折り、締める。全ての手法を尽くし相手を潰す――これぞ千変万化」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【か】【き】【つ】【ば】【た】
ふるは ゆう
ミステリー
姉の結婚式のために帰郷したアオイは久しぶりに地元の友人たちと顔を合わせた。仲間たちのそれぞれの苦痛と現実に向き合ううちに思いがけない真実が浮かび上がってくる。恋愛ミステリー
有栖と奉日本『幸福のブラックキャット』
ぴえ
ミステリー
警察と相対する治安維持組織『ユースティティア』に所属する有栖。
彼女は謹慎中に先輩から猫探しの依頼を受ける。
そのことを表と裏社会に通じるカフェ&バーを経営する奉日本に相談するが、猫探しは想定外の展開に繋がって行く――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『チープな刻の中で』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第四話。
誰しも時間は平等に流れている。
治安維持組織『ユースティティア』にも警察にも。
それが束の間の平穏だとしても。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第二話。
少しずつではあるが結果を残し、市民からの信頼を得ていく治安維持組織『ユースティティア』。
『ユースティティア』の所属する有栖は大きな任務を目前に一つの別案件を受け取るが――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
騙し屋のゲーム
鷹栖 透
ミステリー
祖父の土地を騙し取られた加藤明は、謎の相談屋・葛西史郎に救いを求める。葛西は、天才ハッカーの情報屋・後藤と組み、巧妙な罠で悪徳業者を破滅へと導く壮大な復讐劇が始まる。二転三転する騙し合い、張り巡らされた伏線、そして驚愕の結末!人間の欲望と欺瞞が渦巻く、葛西史郎シリーズ第一弾、心理サスペンスの傑作! あなたは、最後の最後まで騙される。
マクデブルクの半球
ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。
高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。
電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう───
「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」
自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第七話。
全てはここから始まった――
『過去』と『現在』が交錯し、物語は『未来』へと繋がっていく。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる