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過去との対話_有栖_3

有栖_3-2

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 高校生活は順調だった。『私』の周りではイジメのような陰湿なことはなかったし……いや、気づかなかっただけかもしれないけど。仲の良い固定グループは変わらなかったから、他のグループのようにハブられてメンバ―が入れ替わるようなこともなかった。

 もちろんスクールカーストのようなものは存在した。
 いわゆる上位に該当する学校で目立つ生徒や、それとは気が合わない大人しい生徒。そういうのが集まって形成さるピラミッドの中で『私』は治外法権のような立ち位置だったかもしれない。

 格闘技経験があることで運動神経が良かったせいか体育の授業やスポーツテストでは部活でトップクラスの生徒達にも負けなかった。当時の『私』は帰宅部だったことから余計に目立ったかもしれない。
 持ち前の性格もあって人見知りもなく、スクールカーストの上位とか下位とか関係なく誰とでも明るく楽しく話せたし、友達にもなった。ボーイッシュ、というキャラを周囲からつけられたこともあり男子とも気兼ねなく話したし、仲が良かった。
 今思えば勘の良い子達は、敵に回すべきではない、と思ったのかもしれない。

 さて、『私』の高校生活は三年間どの部活にも入らず帰宅部だった。運動神経の良さ、スポーツテストでは全国で上位に入る成績、そして中学生の時の柔道部での経歴を知る人達から勧誘はたくさんあったけど、どれも断った。
 理由は――たぶん、どの部活に入っても『物足りなさ』を感じるような気がしたからだ。もちろん充実感はあっただろうけど、それが渇きにも近い『物足りなさ』を潤すようには思えなかった。

 一方でキックボクシングのジムには通っていた。
 実力的にはプロデビューしている先輩達ともスパーリングで負けないほどだったので、スタッフや周囲からプロテストを受けることを薦められたが、高校一年のときに断り、そこからずっと断ることになる。

 高校一年のときはプロになりたいのか、と自問したときに答えが出なかったから断った。もし『私』が一つの出会いを経験してなかったら、高校二年生にはプロの道しかないと視野が狭まり、受諾していたかもしれない。

 そういった意味では衝撃的で、運命的だった――そんな出会いだったような気がする。
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