11 / 104
過去との対話_有栖_2
有栖_2-3
しおりを挟む
「よし、特別にレッスンしてやろう」
それは偉そうで傲慢な言い方だったと思う。けど、『私』はそうは思わなかったし、たぶんありがたく思っていたような気がする。
そのように声を掛けてくれたのは男子柔道部の顧問だった。百キロに近い大柄で筋肉質の体格に色黒で短髪で一見して体育会系の男性。当時で三十代半ばだった気がする。体育の教師で男子からは少し怖がられて、一部の女子からは人気がある――そんな教師だった。名前は……覚えていない。
ただ彼は学生時代に中学、高校と柔道で全国大会に出場しており当時は名の知れた選手だったらしい。厳しい指導で男子柔道部や素行の悪い生徒達に対応しており、他の教師達からも信頼が厚かった。そんな彼は時々、女子柔道部の指導もしており、女子の顧問も柔道経験者ではあったが全国大会に出場した経験がない為か、どこかその男子顧問に頭が上がらない様子だった。
一年生で結果を残し、さらなる飛躍を目指したい『私』に、その男子顧問は特別に指導をしてくれる、と言ってくれた。
「よろしくお願いします」
『私』は即答した。実力のある人との組手や指導は『私』としても望んでいたことだ。断る理由がない。『私』の回答に男子顧問も満足そうだった。
「今度は有栖さん?」
「大丈夫かな?」
ひそひそ、とした声が聞こえた。
嫉妬? いや、違う。もっと別の――
そのあと、女子顧問も呼び出され練習スケジュールの調整をし、『私』も普段通りの練習に戻った。そのあとの休憩時間、一人の先輩が駆け寄って来てくれた。
「あの人の特別レッスンを受けるんだよね?」
「はい」
「その……気をつけてね」
「え? そんなに厳しいんですか?」
「いや、違うの……あの人のレッスン受けた部員で辞める人が結構多いから……」
歯に何かが詰まった言い方。伝えたいことがあるけど、明言はしない。
相手の目には不安、恐れ、そして――哀れみ。
今思えば、そんな目で見られていたと思う。でも、当時の『私』には解らなかった。
それは偉そうで傲慢な言い方だったと思う。けど、『私』はそうは思わなかったし、たぶんありがたく思っていたような気がする。
そのように声を掛けてくれたのは男子柔道部の顧問だった。百キロに近い大柄で筋肉質の体格に色黒で短髪で一見して体育会系の男性。当時で三十代半ばだった気がする。体育の教師で男子からは少し怖がられて、一部の女子からは人気がある――そんな教師だった。名前は……覚えていない。
ただ彼は学生時代に中学、高校と柔道で全国大会に出場しており当時は名の知れた選手だったらしい。厳しい指導で男子柔道部や素行の悪い生徒達に対応しており、他の教師達からも信頼が厚かった。そんな彼は時々、女子柔道部の指導もしており、女子の顧問も柔道経験者ではあったが全国大会に出場した経験がない為か、どこかその男子顧問に頭が上がらない様子だった。
一年生で結果を残し、さらなる飛躍を目指したい『私』に、その男子顧問は特別に指導をしてくれる、と言ってくれた。
「よろしくお願いします」
『私』は即答した。実力のある人との組手や指導は『私』としても望んでいたことだ。断る理由がない。『私』の回答に男子顧問も満足そうだった。
「今度は有栖さん?」
「大丈夫かな?」
ひそひそ、とした声が聞こえた。
嫉妬? いや、違う。もっと別の――
そのあと、女子顧問も呼び出され練習スケジュールの調整をし、『私』も普段通りの練習に戻った。そのあとの休憩時間、一人の先輩が駆け寄って来てくれた。
「あの人の特別レッスンを受けるんだよね?」
「はい」
「その……気をつけてね」
「え? そんなに厳しいんですか?」
「いや、違うの……あの人のレッスン受けた部員で辞める人が結構多いから……」
歯に何かが詰まった言い方。伝えたいことがあるけど、明言はしない。
相手の目には不安、恐れ、そして――哀れみ。
今思えば、そんな目で見られていたと思う。でも、当時の『私』には解らなかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第二話。
少しずつではあるが結果を残し、市民からの信頼を得ていく治安維持組織『ユースティティア』。
『ユースティティア』の所属する有栖は大きな任務を目前に一つの別案件を受け取るが――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第五話。
マザー・エレクトロン株式会社が開催する技術展示会『サイバーフェス』
会場は『ユースティティア』と警察が共同で護衛することになっていた。
その中で有栖達は天才・アース博士の護衛という特別任務を受けることになる。
活気と緊張が入り混じる三日間――不可解な事故と事件が発生してしまう。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『幸福のブラックキャット』
ぴえ
ミステリー
警察と相対する治安維持組織『ユースティティア』に所属する有栖。
彼女は謹慎中に先輩から猫探しの依頼を受ける。
そのことを表と裏社会に通じるカフェ&バーを経営する奉日本に相談するが、猫探しは想定外の展開に繋がって行く――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『チープな刻の中で』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第四話。
誰しも時間は平等に流れている。
治安維持組織『ユースティティア』にも警察にも。
それが束の間の平穏だとしても。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第七話。
全てはここから始まった――
『過去』と『現在』が交錯し、物語は『未来』へと繋がっていく。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
騙し屋のゲーム
鷹栖 透
ミステリー
祖父の土地を騙し取られた加藤明は、謎の相談屋・葛西史郎に救いを求める。葛西は、天才ハッカーの情報屋・後藤と組み、巧妙な罠で悪徳業者を破滅へと導く壮大な復讐劇が始まる。二転三転する騙し合い、張り巡らされた伏線、そして驚愕の結末!人間の欲望と欺瞞が渦巻く、葛西史郎シリーズ第一弾、心理サスペンスの傑作! あなたは、最後の最後まで騙される。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
月夜のさや
蓮恭
ミステリー
いじめられっ子で喘息持ちの妹の療養の為、父の実家がある田舎へと引っ越した主人公「天野桐人(あまのきりと)」。
夏休み前に引っ越してきた桐人は、ある夜父親と喧嘩をして家出をする。向かう先は近くにある祖母の家。
近道をしようと林の中を通った際に転んでしまった桐人を助けてくれたのは、髪の長い綺麗な顔をした女の子だった。
夏休み中、何度もその女の子に会う為に夜になると林を見張る桐人は、一度だけ女の子と話す機会が持てたのだった。話してみればお互いが孤独な子どもなのだと分かり、親近感を持った桐人は女の子に名前を尋ねた。
彼女の名前は「さや」。
夏休み明けに早速転校生として村の学校で紹介された桐人。さやをクラスで見つけて話しかけるが、桐人に対してまるで初対面のように接する。
さやには『さや』と『紗陽』二つの人格があるのだと気づく桐人。日によって性格も、桐人に対する態度も全く変わるのだった。
その後に起こる事件と、村のおかしな神事……。
さやと紗陽、二人の秘密とは……?
※ こちらは【イヤミス】ジャンルの要素があります。どんでん返し好きな方へ。
「小説家になろう」にも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる