有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ

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過去との対話_有栖_1

有栖_1-2

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 近くにあった空手道場。それが『私』の格闘技を学ぶ始まりだった。近所の子供達も多く通っていたけど、女子は少なかったかな。男子達に混じり、正拳突きや型などを繰り返して覚えていく。
 周囲の男子達は派手な回し蹴りなんかを覚えたいらしく、基礎は教えてくれる師範がいるときだけ練習していた。飽きやすい子供にとって反復練習は苦痛だったんだと思う。
 だけど、『私』は違った。基礎の繰り返しが好きだった。
 真っ直ぐに拳が伸びると嬉しかったし、どのタイミングで力を入れれば拳は速く放てるか、どのように体重移動すれば動きはスムーズになるか。そんなことばかり気になって、誰よりも基礎の反復練習をしていたと思う。道場に通っていない日も、家の中で自主練をしていた。

「この道場で一番上達しているのは有栖だな」

 小学生の高学年になった頃、師範からそう言われた。『私』もその自負はあった。
 誰よりも基礎に練習時間を費やしたからか、そのあとに習う応用の型や技も容易にできるようになった。身体の使い方、というのを理解できたんだと思う。

 さぁ、これからも頑張ろう、と思っていた矢先に事件は起こる。

 師範に気に入られている『私』を妬んだ男子達からのイジメだ。
 最初は面倒だから無視をしてた。靴を隠されたり、陰口叩かれたりするぐらいだったし。だけど、抵抗がないことをその男子達は面白がった。次第にエスカレートして……

「痛っ!」

 師範が不在で掃除をしていたときだった。いきなり横から蹴られたのだ。
 ニヤニヤと笑う男子達、さすがに『私』も我慢の限界だった。
『私』はその男子達を睨み、向かいあった。とはいえ、ケンカは御法度。それは男子達も解っていた。
 だから、提案されたのは試合形式の組み手だった。子供の浅知恵で『私』が怪我をして、師範に問い詰められても組み手だった、と言い訳するつもりだったんだろう。まぁ、そんな言い訳が通じないことが解らないところが子供なんだけど。
『私』は了承して組み手をすることになった。相手は一つ上の上級生。これだけならまだ問題なかったと思うけど、後に問題となるのはフルコンタクト――つまり、寸止めではなく、相手への直接打撃がオーケーだったこと。

『私』はそのルールを承知した上で、戦った。
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