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現在_有栖_1

有栖_1

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「それでは、これより事情聴取を行います」

 厳かにそう告げたのはユースティティアの佐倉だった。彼が口火を切った、ということはこの聴取の代表ということでもある。その他にも彼の右隣に一色京もいた。
 左隣には第三者機関の人物も座っている。真っ黒なスーツに真っ黒なネクタイ。まるで通夜に出席するような服装に、綺麗に七三に分けられた髪からは几帳面さが垣間見える。四角いメガネのレンズは分厚くその先の目は蛍光灯の光を反射させ見えない。不気味なぐらいに表情も変わらなければ、微動だにしない。冷静で冷血なロボットのような印象を受ける。見た目だけで判断するならば三十代後半だ。
 三者が目の前のテーブルにノートパソコンを置き、その向かいの少し離れた位置に椅子だけがあり、有栖陽菜はそこに座っていた。
 場所はユースティティアの取調室の一つ。今から行われるのはデータベース改ざんの疑いにおける容疑者への聴取と正しいデータを得る為の聴取の両方だ。

「本聴取は社規第九条に則り行われます。ただ従来、データ改ざんの報告だけならば、気づいた経緯とその内容の確認になりますが、今回は改ざん対象が当人である以上、改ざんの容疑も並行で聴取します。宜しいですね?」
「はい」

 佐倉の問いに有栖は真っ直ぐに答える。

「容疑がかかる以上、証拠隠滅を避ける為、貴女はしばらくの間ユースティティアに拘束されます。早期に解放されることを望むなら、嘘偽りのない回答をお願いします」
「はい」
「それでは始めましょう。まずは――」

 こうして聴取は始まった。
 その詳細はユースティティア内の二人の隊員データにおけるデータ改ざんについて。
 隊員の一人は有栖 陽菜。彼女が気づき、報告したが改ざん内容が彼女自身のデータである以上、容疑も同時にかけられる。
 もう一人の隊員は我孫子 武。同じく、データが改ざんされていた。
 それは二人に関わる内容であることと同義でもあり、有栖自身、何が、どのように改ざんされたか解っていた。解っていたからこそ、その過去と向き合うことは覚悟が必要だった。それは可能であるならば目を背けたい過去でもあるからだ。

 過ぎ去った過去、そして、当時に思い描いていたのとは違う未来でもある現在。それらを乗り越えて何処かにあるはずの希望という未来を探す為、有栖は今、ここにいるのだ。
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