有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ

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――二年前。

「安直だな……まぁ、安直すぎて解らないかもしれないな」
 その白髪の女性――いや、俺からすればまだまだ子供にも見えるその人は俺の答えた内容を嘲るように笑った。
「そうなるとヒントは――」
 カタカタ、と彼女はパソコンの画面に何かを打ち込む。それが何かを聞いてはいけない。そういう契約で、そういう仕事だ。
「ちなみに、何故それを?」
 彼女が俺に問いかける。
「……なんとなくです」
 少し考えたあと、俺は嘘を回答した。そこに深い意味があったわけじゃない。ただ伝えても意味がないこと。そして、今更そんなことを語る自分に心底軽蔑したからだ。
「そうか。では、これがパスワードのヒントだ」
 彼女はプリントアウトした一枚の紙とUSBメモリーを俺に差し出す。
「コーポ松下に行き、指定の場所にあるパソコンにそのUSBを挿す。あとはその紙を管理人に渡してくれ」
「はい、解りました」
「今、パスワードは私とキミの頭の中にしかない。くれぐれも失敗しないように」
「はい」
「では、よろしく」
 そういうと彼女は再び、パソコンと向かいあう。
「まだ作業が?」
「いや、安全面の確保する作業はキミの仕事が上手くいけば完了だ。今から行う作業は――本番だ。まぁ、気にするな。キミが関わることは一生無いことだ」
「わ、解りました」
 一生関わることはない――それはこっちも望むことだ。これさえ終われば、金が手に入る。それさえあれば、こんな危ない仕事にはもう関わりたくはない。
「失礼します」
 俺はその部屋から出て行く。そのとき、
「『ならず者』を宜しく」
 俺の背中に彼女はそう言った。
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