上 下
3 / 104
プロローグ

プロローグ

しおりを挟む
――二年前。

「安直だな……まぁ、安直すぎて解らないかもしれないな」
 その白髪の女性――いや、俺からすればまだまだ子供にも見えるその人は俺の答えた内容を嘲るように笑った。
「そうなるとヒントは――」
 カタカタ、と彼女はパソコンの画面に何かを打ち込む。それが何かを聞いてはいけない。そういう契約で、そういう仕事だ。
「ちなみに、何故それを?」
 彼女が俺に問いかける。
「……なんとなくです」
 少し考えたあと、俺は嘘を回答した。そこに深い意味があったわけじゃない。ただ伝えても意味がないこと。そして、今更そんなことを語る自分に心底軽蔑したからだ。
「そうか。では、これがパスワードのヒントだ」
 彼女はプリントアウトした一枚の紙とUSBメモリーを俺に差し出す。
「コーポ松下に行き、指定の場所にあるパソコンにそのUSBを挿す。あとはその紙を管理人に渡してくれ」
「はい、解りました」
「今、パスワードは私とキミの頭の中にしかない。くれぐれも失敗しないように」
「はい」
「では、よろしく」
 そういうと彼女は再び、パソコンと向かいあう。
「まだ作業が?」
「いや、安全面の確保する作業はキミの仕事が上手くいけば完了だ。今から行う作業は――本番だ。まぁ、気にするな。キミが関わることは一生無いことだ」
「わ、解りました」
 一生関わることはない――それはこっちも望むことだ。これさえ終われば、金が手に入る。それさえあれば、こんな危ない仕事にはもう関わりたくはない。
「失礼します」
 俺はその部屋から出て行く。そのとき、
「『ならず者』を宜しく」
 俺の背中に彼女はそう言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第二話。 少しずつではあるが結果を残し、市民からの信頼を得ていく治安維持組織『ユースティティア』。 『ユースティティア』の所属する有栖は大きな任務を目前に一つの別案件を受け取るが―― 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『幸福のブラックキャット』

ぴえ
ミステリー
警察と相対する治安維持組織『ユースティティア』に所属する有栖。 彼女は謹慎中に先輩から猫探しの依頼を受ける。 そのことを表と裏社会に通じるカフェ&バーを経営する奉日本に相談するが、猫探しは想定外の展開に繋がって行く―― 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第五話。 マザー・エレクトロン株式会社が開催する技術展示会『サイバーフェス』 会場は『ユースティティア』と警察が共同で護衛することになっていた。 その中で有栖達は天才・アース博士の護衛という特別任務を受けることになる。 活気と緊張が入り混じる三日間――不可解な事故と事件が発生してしまう。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『チープな刻の中で』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第四話。 誰しも時間は平等に流れている。 治安維持組織『ユースティティア』にも警察にも。 それが束の間の平穏だとしても。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第七話。 全てはここから始まった―― 『過去』と『現在』が交錯し、物語は『未来』へと繋がっていく。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~

aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。 ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。   とある作品リスペクトの謎解きストーリー。   本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

ファクト ~真実~

華ノ月
ミステリー
 主人公、水無月 奏(みなづき かなで)はひょんな事件から警察の特殊捜査官に任命される。  そして、同じ特殊捜査班である、透(とおる)、紅蓮(ぐれん)、槙(しん)、そして、室長の冴子(さえこ)と共に、事件の「真実」を暴き出す。  その事件がなぜ起こったのか?  本当の「悪」は誰なのか?  そして、その事件と別で最終章に繋がるある真実……。  こちらは全部で第七章で構成されています。第七章が最終章となりますので、どうぞ、最後までお読みいただけると嬉しいです!  よろしくお願いいたしますm(__)m

処理中です...