上 下
16 / 24

異端食。ここに極まれり

しおりを挟む
 「ほぉ⋯⋯これがノアの言っとった例のものか?」
 「もう俺は、お前の虜だぜ」
 「お前はダルイから放置な」

 俺達は今、アリィの家のリビングにいる。 
 まぁ異世界の一般的な家だから、完璧な調理道具なんぞある訳もなく。 
 まぁもちろん? 俺は魔法鞄があるから全く問題の方はないのだが、匂いや、その噂から色々広まるのを阻止したい結果⋯⋯すっかり茶碗蒸しの虜になったアリィがウチで作れとなって現在に至る。

 まぁ秘密の家で秘密の事をするという秘密組織(臨時)だ。

 「ノア、やはりお前さんは料理人に向いておるようだな。その背中、まるで歴戦のようだ」
 「本当。宮廷料理人って言われても不思議じゃねぇよ」
 「本当? なら良かったよ」

 言いつつ、俺は今、マルチタスクの極みだ。
 魚を何匹も焼きながら味噌を準備し、具材を切っている。野菜はこの世界だとそこまで高価って訳でもないが、時期による。
 
 高くても日本の価格よりは圧倒的に安い。
 価値にするとかなり難しいが。

 魔法鞄から、一晩寝かせておいた大量の出汁を取り出して沸かせる。
 ん~、故郷の匂いだ。

 「おぉ⋯⋯これはあの時の匂いだな」
 「ええ。今から二人の食生活に多大な影響を及ぼすと思うぜ」
 「それは楽しみだ。今やノア以上の料理を食べた事がある者はいない訳だからな」

 あれからまだ時間が経過していないが、既に俺を貴族レベルの料理人として勘違いしている。 
 まぁこの世界が魔法やそっちで成長している世界だから、発酵や料理の進歩がまるでないというのも大きい。
 それに中央集権が続いている以上、平民と貴族で分かれていれば平民がそうやって色々なことに挑戦できる事すらないわけだから、やっぱりそういう意味だと厳しいのかな。

 こちらとしては、力ある者がこうして楽に過ごせるというのは大変有り難い事ではある。
 あくまで今の俺は、だが。これで弱かったりなんかしたら、溜まったものではない。

 「すでに良い匂いが充満しておる」

 後ろで何やら言っているが、いよいよ最後だ。

 大豆と分かりゃ、豆腐も作れた。
 何回か試行錯誤しながら豆腐に行き着いたが、昔の人はどれ程の労力をかけてきたかを考えると、尊敬しか思い付かない。

 焼き魚が出来たら二人の前に配膳して、邪魔にならない程度に鶏肉とだし巻き卵、そしてメインの味噌汁を並べる。
 具材は豆腐、キューという大根に近い物とネギや人参に当たるものなどを加えた地球よりも豊富なラインナップで揃えた一品だ。

 ⋯⋯本当はここにご飯があれば最高なのだが、まだ精米までは行ききっていない。
 とりあえずは味噌汁が飲みたかったので、計画の一部としては大成功だ。

 「「⋯⋯⋯⋯」」
 「とりあえずの所の味噌汁だ。まだ本当はこれに合う食べ物があるんだが、そっちは自信と制作が上手くいったらその時は呼ぶさ」

 二人は黙って仮の日本食を口に運んでいく。
 良い歳の二人が無言で涙を流す様子はこの間見たので感動は薄いのだが、やはりこの世界の住人からすれば、神の食事と言っても過言ではないレベルの美味さだろう。

 僅か3分程でおかわりコールがやってくる。
 何度もよそってやって満足するくらいまで食わせる。

 良い意味でゼェゼェと息を荒げながら食べていく様子は、一生懸命頑張る子供を見ているようでとても温かい光景だった。
 
 この世界ではこんな家庭が一体どれくらいあるのだろう? と、この温かな光景を見ていると、ふと思い出す。  
 取引した相手、仲の良い冒険者、従業員。彼らの多くは家庭環境が劣悪で、復讐という単語がいつまで尽きないような者ばかりだった。

 これを機に貧しい子供たちを使ってビジネスをする為にも、こうして色々試していく必要があるな。


 「戦争?」
 「あぁ。確かな筋からの情報だ」
 「おいおい⋯⋯またかよ」

 ここにいる3人全員、一応戦争経験者だ。
 俺は前線に行ってはいないが、ここ二人は一時的にでも出兵していて、戦争の地獄を知っている奴らだ。

 「どうせまたレンシアだろ?」
 「らしいね」
 「はぁ⋯⋯」

 レンシアは、言うならば帝国的な国色だ。
 一言でいえば、かなり武力に注力していて、王国と比べてもかなり強いのだが、食糧や固有の生産物があまりない。
 なので戦争によってメリットを多く受ける為に周辺各国によく仕掛ける大変迷惑な国なのだ。

 文句も言いたい所だが、実際彼らは強いので誰も文句を言えん。

 「これは素直に助かる情報だな⋯⋯この借りは高く付きそうだ」
 「じゃあ今度色々依頼しちゃおうかな」

 情報をいち早く知っておく事で、食糧や武器の予備やメンテが済むのはデカイ。それにパーティーメンバーも周知出来るのは利点でしかない。
 
 「この街にまでは流石に来ないよな?」
 「いつものように境界線で遊ぶだけでしょ? 腐っても王国の牙が待機してるんだから」
 「⋯⋯ならいいけどよ」

 お食事会は終わり、俺は一度宿に戻って部屋のベッドで横になり、色々思い浮かべる。
 さて、俺もどうしようかな? 出兵は基本的には避けられない。

 「あんまり目立ちたくないんだよなぁ」

 ま、考えてもしょうがないか。
 今はそんな事よりも稲の品種改良と土地のことを考えなきゃな。
 あの時もそうだったが、戦争って単語を聞くとどうにもブルーになるな。

 ⋯⋯今日は寝るか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...