13 / 24
昔の話
しおりを挟む
「ノアの奴、行っちまったな」
「まぁ仕方ねぇだろ。アイツは寝床と飯、あとは部屋の潔癖さは人間じゃねぇんだから」
リドルとアリィがそんな事を話していると、ギルドの扉は勢い良く開かれ、見覚えのある水色ヘアーが注目を浴びる。
「ノアー?」
「おいおい、あんな大声で探されるのなんかアイツ嫌がるだろ」
「ビビ、ノアはもうここには居らんぞ」
「そうなの?何処に行ったの?」
ズンズン二人の前に現れては、ガタンと雑に前傾姿勢で座る。
「リドルがノアの好きな飯についての情報を話したら魔法のように消えていったぜ?」
「まぁ、そうとも言うな」
「そうとしか言えねぇだろ」
「あ、そう」
「おいおい待てよ、それで終わりか?」
もう情報を持っていないかとわかるや、ビビはすぐに立ち上がった。
咄嗟に腕を掴むアリィをキッと睨みつける。
「んだよ。知らねぇ仲ってわけでもねぇんだから、少しくらい話してけって」
「アンタみたいな飲んだくれと話して何になるのよ」
「ほーん? じゃあアイツはなんて言うんだかな?」
「⋯⋯っ」
揶揄うアリィに図星を突かれて押し黙るビビ。
未だに上から乗り掛かっているリドルは軽くアリィの脇腹を叩く。
「⋯⋯つ、何すんだよ!」
「あんま言ってやるな。年頃なんだから。理屈で動く訳でもないんだ」
「はっ、あんな理屈まみれのマセガキが、男だけは感情で選ぶってか? 将来の旦那は可哀想だなぁ」
「アーリィ⋯⋯!!!」
「何だビビ?俺が今間違えたことでも言ったのか? 否定したかったらどうぞ言い返してみろよ。いつものお好きな理屈とやらでな」
嘲笑うアリィ。だが、ビビは黙ってその場で立ち尽くしていた。
「おい、ビビ?」
「アリィ。貴様、うちの弓師になんてことをしてくれたんじゃ!」
「事実を言っただけだろう? 人を口撃するんだからされたときのことを考えてもらわないと困るぜ?」
だが、一向にビビは動くことをしようとしない。
「おい、本当に病んじまったのかぁ? ⋯⋯おーい」
ビビの目の前で手を何回も振るアリィ。
***
昔、私は臆病で無知だった。
小さな村で育った私は⋯⋯その中では優秀で、いつも一番だった。
「私より強いヤツはいないわ!」
私の周りにはいつも人が居て、
まるでその世界が全てみたいに思って。
そして成人前。本来なら成人してからが普通だが、ほとんどの人間は成人前に旅立つ。
「行ってきます!」
「ビビ、お前ならやれるからな!期待してるぞ!」
両親共に、私の男勝りな力を疑わない程だった。
村の誰も、私より凄い人が居ないかのような振る舞いだった。
⋯⋯だから、無知だった事にすら自分を含めて疑いすら向けなかった。
「ちょっ⋯⋯んっ!!!」
上京してすぐ。私はこのシャルの街にやって来た。
今程ではなかったけど、そこそこ栄えていたこの街でギルド登録を終えた私は、人を疑ったり、自分より強い奴が居るなんて事すら知らずに、ギルド内で自分を売り込んでいた。
そうしたらすぐに引っ掛かり、私の出世街道が見えていた。だが、そんな甘くない事はないとすぐ思い知る。
パーティーで外に行き、森に入っていく。
私ともう一人⋯⋯今もパーティーを組んでいるけどレガッタという私と同い年の女がいる。
それ以外の大多数は男で、無知な私達は集団で犯されそうになっていた。
所謂計画的⋯⋯ってやつだ。
「気が強え女結構好きなんだよなぁ⋯⋯」
「は、離して!!」
自分の勝っていた力など、ただの水滴に過ぎなかったのだ。目の前の男たちは生物的にも筋力があり、ギフト持ちなのだ。次元が違う。
ビリッと私の脆弱な鎧はとれ、肌が見えてしまう。
「ひゅ~」
一人の下卑た口笛と顔は一生忘れない。
女という道具でしか自分を見つめない汚い顔を。
「俺乳あるそっちがいい」
「やめて!!!!いやぁ!!!」
「なんだよ⋯⋯そっちなら楽しめそうだわ。こっちはじっくり掛けて俺好みになってもらわんと」
「中々っすね!アマゾさん!」
「女は自分好みにしてナンボだからな!あっはははは!」
死ね。クソッ!
こっちは道具じゃないんだよ!!早く⋯⋯!
「一々抵抗するなよ」
「ゴホッ!!」
ギフト持ちは次元が違う。たかがビンタでもかなりの一撃だということをその時初めて知った。
と同時に、底知れない恐怖を味わった。
目の前の男が悪魔にしか見えなかったのだ。
神様は、何故こんな男に能力を与えたのか。
理解できなかった。
「おぉ⋯⋯乳ねぇの意外と気にしてんの?結構重ねてんじゃん」
「離して!!!」
「ほら、抵抗すんなって。ここに誰も味方はいないんだから」
「そうだぜぇ~?今から楽しむ奴らしかいねぇし」
初めて、全身から叫んだ。
これ以上ないくらい。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌」
「はははははっ、あんな強いアピールしといて、こんな事でそんな顔すんのかよ。5年後にはイイ感じに○〇〇ってるだろうぜ」
「これだから田舎モンはやりがいあるんすよねぇ?」
「あぁ、どいつもこいつも親も馬鹿でちょっと凄けりゃあ持て囃すんだ。そこを狙って来た女をこうして味わってから将来旦那となる奴に自慢すんだよ⋯⋯「お前の女は昔散々味わい尽くしましたってよ」」
気持ち悪い男たちから発する大笑いの渦。
頭が真っ白になった。
これからどうなるだろう?まだ結婚も付き合ってもないのに。
知らない男に⋯⋯嫌だ。
「おいおいビビっておもらししてるぞ」
誰か助けて⋯⋯。お願いします。
「成人前でまだ大人が怖いんすよ!しっかりと教育しないとっすね!」
「いやぁ乳はねぇけど愛嬌はありそうだよな!」
下衆な会話が永遠。私は殺意すら抱く事を忘れ、もう全てが終わりだと、早く殺してくれとすら思っていた。
⋯⋯そんな時だった。
「てかさ、コイツら処女なの?」
私からすれば、最悪の一言目だった。
見上げると、村にも街にもいなさそうな美男子がそこには居た。
綺麗な顔。この辺りじゃ珍しいハーフだ。
アストリアとレンシアの遺伝子を受け継いでる。
長い髪だ。金髪だけど、襟足はうっすら黒い。
まるで朝と夜。
端正な顔立ちだが、口元には小さくはあるが傷跡がある。
まるで貴族かと疑いたくなるような小物を指にはめている彼が顔を覗くようにしてリーダー格の男に尋ねていた。
「なんだ?うちの奴らじゃねぇはずだが⋯⋯」
「そうそう。たまたまこの辺りで薬草を採取しててさ、悲鳴が聞こえて来てみれば、こんな状態で」
彼がそう言うと、全員が一斉に手を止めて武器に手を伸ばしていた。
だが次の瞬間、彼は揶揄うように私を地獄に堕とす。
「いやいや、そんな怖い顔されても⋯⋯。二人とも食っちゃうの?」
「なんだよ、お前もその口かよ」
一斉に笑う声が響き渡る。
私は最悪な気持ちで力が全身から抜けていく。
男はみんなそういう生き物だと。
「おぉ⋯⋯!!」
リーダーの男が嬉しそうに服を脱がし、皆に私の肌が見られてしまう。しっかりと。
「意外と着痩せするタイプなんだな」
「勉強になります兄貴!」
レガッタの方も同じように歓声が上がっていた。
「やめて!!」
「もうそういう奴にしか見えねぇよ。これも楽しめってことだろ?」
絶望。だけど、何かがおかしい。
「兄貴?」
「おい!ゾク、お前⋯⋯!」
手が止まったので、思わず二人を見上げると、まるで老人のように退化していた。
「⋯⋯な、何が⋯⋯」
その瞬間、生々しく弾ける音が聞こえた。
バシャ。何かが地面に落ちた音だ。
落ちたのは、先程まで嬉しそうに私の身体を見て下卑た表情をしていた彼だ。
生首が落ちると、辺りは静寂に包まれる。
正気に戻っていた私は、奴らを全員見渡すと、全員が同じように老人のようになっており、気がつけば一斉に首が切断され鮮血が宙に舞っている。
レガッタと私は、まるで理解が追いつかず、とりあえず服を着ようと鎧と下着を取る。
「ほら、あげる」
「っ!!あんたは!」
まだ残党が⋯⋯そう思った私の前には、先程の同い年くらいの男が立っていた。
彼の手には大きい袋があり、私に投げつけてきた。
「こ、これは?」
「ボッタくられてた報酬の金。⋯⋯じゃ」
「ちょっとまっ──」
手を伸ばした時にはありえないくらいの速度で彼はこの場から消えていた。
思わずレガッタと私は目が合い、ひとまず助かったと安堵した。
「⋯⋯あぁ、多分ノアさんの事ですかね」
「誰ですかその人」
あれから数ヶ月が過ぎ、少しずつ立ち直っていった。
外に出るのが怖くなってギルド内でできる仕事をこなし、依頼の報告ついでにあの子が気になって受付に訊いていた。
「彼、そういうタイプには思えないんですけどね」
「何がですか」
聞けば、彼はかなり冷酷な人間だと言う。
臨時とはいえパーティーを組んだ時も、盗賊に狙われて死んだ仲間の事を放置したり、色々評判が悪いらしい。
ましてや、人を助けるなんてもってのほかみたいなタイプらしいのだ。
「まぁ⋯⋯色々問題はあるタイプですけど、一定の何かはあるはずなので、私は意外と平等に見てますが」
「そうなんですか」
「ええ。ですから、逆に気になるなと」
「助ける事がですか?」
縦に頷く受付。基本ギルドは冒険者の揉め事に介入してこない。それに、女関連の問題も似たような感じで、罪に問われない。
現場を押さえていないからという問題もあったり、大きい力が動いたらもうどうしようもない。
「⋯⋯⋯⋯ノア」
気になる。頭の中でそう呟いた時だった。
「ねぇ、そこに可愛い子ちゃん。パーティー組もうよ」
トラウマが復活したような気分だった。
まさに似たような連中が私に声を掛けてきたから。
「退いて」
「いやいや、ちょっと話くらい⋯⋯」
なんとか逃げようとギルドの扉の方へ向かっていた時、またその彼と再会したのだ。
「あ、あの時の」
「⋯⋯貴方は」
ゴミが落ちていた時の様なつぶやき。
なんか少々苛立ちを覚えたが、すぐに正気に戻る。
受付の話によると、普段彼は姿を見せないという。
確かに。あれから時間は経ったけど、一回も会えていなかった。
「また狙われてるの?」
「ま、まぁ」
私の後ろにいるであろう彼らを見上げて、彼、ノアはそう無表情に呟いた。
「はぁ⋯⋯」
溜息をついた──次の瞬間。
「グァァァッ!!」
感覚的には、巨人が真横に思い切り拳を握って振ったような威力だった。しかし実際には軽く手を振っただけで、数メルは飛んでかなり遠くの壁に声を掛けていた男は埋まっていた。
そうしてノアはその埋まった壁に近付いて、男を取り出すと髪を掴んで引き摺り回しては外へと出ていった。
それから彼はしばらく姿を現さなかった。
あの事件があってからというもの、ノアを恐れる者が一定層いて、未だに横を通り過ぎるだけで一礼する者がいる程だ。
あの時代のノアを知っている人間からすると、今のノアが信じられない。
トラウマが出来てから、私は男を嫌悪するようになった。当然と言えば当然。
後に彼は、「流石にタダで助けたら勿体無いから。ご馳走様でした」と言った時は色々沸騰しかけたが、彼なりのスタイルなのだと理解した。
最初は恐怖と絶望に支配されていた私の心に、次第にノアへの興味が芽生えだした。
興味湧いてからは、彼を追った⋯⋯色々。
その度に、私は助けてもらったから気になってるのか、それとも他の理由が思いつかずそのままだ。
だから目の前でそう言ってきたアリィに、私は何て返せばいいのかが分からなかった。
『君、可愛いんだからもっとしっかりとした服装にしたら?』
『それと、あんな男に騙されないように勉強しなよ』
『おいノア、お前娼館使わねぇの?』
『⋯⋯んー別に。一人でもどうにか出来るでしょ?』
『いや女が居るんだからそれでいいじゃねぇかよ』
『まぁ確かに? 結婚したら多分しつこいくらいするかもだけど、わざわざ娼館利用する程でもないかなぁ~』
私はチョロくない。絶対に。
だけど、気がついたら⋯⋯彼を追ってしまっている。
理屈ではなくて、感情なのかも。
「ノアは南に行ったのよね?」
「「ん?あぁ⋯⋯」」
だから、こうしてノアを探して私がチョロくないって証明するんだ。今日も。
『どんな人が好みなの?』
『んー⋯⋯普通そうな女の子が好きかな。のんびりだらだらしてるような。⋯⋯って、なんでそんな笑ってるんだ?ビビ』
「ふふっ」
「黙ったと思ったら、ニヤニヤしてどうしたんだ?あいつ」
「若いっていいな」
「何知った気になってんだリドル」
「うっさいわ!」
あの経験は私を変えた、間違いなく。
恐れを知って、同時に強さが必要だということを教えてくれた。そして何よりも、人を見る目を養えるようになった。
今の私は、まだまだこれからだけど、あの頃の無知で臆病な少女とは違う。年々とノアを追いかける理由も、きっと変わっていく。
⋯⋯今度はどんな話を持っていこうかな。
「まぁ仕方ねぇだろ。アイツは寝床と飯、あとは部屋の潔癖さは人間じゃねぇんだから」
リドルとアリィがそんな事を話していると、ギルドの扉は勢い良く開かれ、見覚えのある水色ヘアーが注目を浴びる。
「ノアー?」
「おいおい、あんな大声で探されるのなんかアイツ嫌がるだろ」
「ビビ、ノアはもうここには居らんぞ」
「そうなの?何処に行ったの?」
ズンズン二人の前に現れては、ガタンと雑に前傾姿勢で座る。
「リドルがノアの好きな飯についての情報を話したら魔法のように消えていったぜ?」
「まぁ、そうとも言うな」
「そうとしか言えねぇだろ」
「あ、そう」
「おいおい待てよ、それで終わりか?」
もう情報を持っていないかとわかるや、ビビはすぐに立ち上がった。
咄嗟に腕を掴むアリィをキッと睨みつける。
「んだよ。知らねぇ仲ってわけでもねぇんだから、少しくらい話してけって」
「アンタみたいな飲んだくれと話して何になるのよ」
「ほーん? じゃあアイツはなんて言うんだかな?」
「⋯⋯っ」
揶揄うアリィに図星を突かれて押し黙るビビ。
未だに上から乗り掛かっているリドルは軽くアリィの脇腹を叩く。
「⋯⋯つ、何すんだよ!」
「あんま言ってやるな。年頃なんだから。理屈で動く訳でもないんだ」
「はっ、あんな理屈まみれのマセガキが、男だけは感情で選ぶってか? 将来の旦那は可哀想だなぁ」
「アーリィ⋯⋯!!!」
「何だビビ?俺が今間違えたことでも言ったのか? 否定したかったらどうぞ言い返してみろよ。いつものお好きな理屈とやらでな」
嘲笑うアリィ。だが、ビビは黙ってその場で立ち尽くしていた。
「おい、ビビ?」
「アリィ。貴様、うちの弓師になんてことをしてくれたんじゃ!」
「事実を言っただけだろう? 人を口撃するんだからされたときのことを考えてもらわないと困るぜ?」
だが、一向にビビは動くことをしようとしない。
「おい、本当に病んじまったのかぁ? ⋯⋯おーい」
ビビの目の前で手を何回も振るアリィ。
***
昔、私は臆病で無知だった。
小さな村で育った私は⋯⋯その中では優秀で、いつも一番だった。
「私より強いヤツはいないわ!」
私の周りにはいつも人が居て、
まるでその世界が全てみたいに思って。
そして成人前。本来なら成人してからが普通だが、ほとんどの人間は成人前に旅立つ。
「行ってきます!」
「ビビ、お前ならやれるからな!期待してるぞ!」
両親共に、私の男勝りな力を疑わない程だった。
村の誰も、私より凄い人が居ないかのような振る舞いだった。
⋯⋯だから、無知だった事にすら自分を含めて疑いすら向けなかった。
「ちょっ⋯⋯んっ!!!」
上京してすぐ。私はこのシャルの街にやって来た。
今程ではなかったけど、そこそこ栄えていたこの街でギルド登録を終えた私は、人を疑ったり、自分より強い奴が居るなんて事すら知らずに、ギルド内で自分を売り込んでいた。
そうしたらすぐに引っ掛かり、私の出世街道が見えていた。だが、そんな甘くない事はないとすぐ思い知る。
パーティーで外に行き、森に入っていく。
私ともう一人⋯⋯今もパーティーを組んでいるけどレガッタという私と同い年の女がいる。
それ以外の大多数は男で、無知な私達は集団で犯されそうになっていた。
所謂計画的⋯⋯ってやつだ。
「気が強え女結構好きなんだよなぁ⋯⋯」
「は、離して!!」
自分の勝っていた力など、ただの水滴に過ぎなかったのだ。目の前の男たちは生物的にも筋力があり、ギフト持ちなのだ。次元が違う。
ビリッと私の脆弱な鎧はとれ、肌が見えてしまう。
「ひゅ~」
一人の下卑た口笛と顔は一生忘れない。
女という道具でしか自分を見つめない汚い顔を。
「俺乳あるそっちがいい」
「やめて!!!!いやぁ!!!」
「なんだよ⋯⋯そっちなら楽しめそうだわ。こっちはじっくり掛けて俺好みになってもらわんと」
「中々っすね!アマゾさん!」
「女は自分好みにしてナンボだからな!あっはははは!」
死ね。クソッ!
こっちは道具じゃないんだよ!!早く⋯⋯!
「一々抵抗するなよ」
「ゴホッ!!」
ギフト持ちは次元が違う。たかがビンタでもかなりの一撃だということをその時初めて知った。
と同時に、底知れない恐怖を味わった。
目の前の男が悪魔にしか見えなかったのだ。
神様は、何故こんな男に能力を与えたのか。
理解できなかった。
「おぉ⋯⋯乳ねぇの意外と気にしてんの?結構重ねてんじゃん」
「離して!!!」
「ほら、抵抗すんなって。ここに誰も味方はいないんだから」
「そうだぜぇ~?今から楽しむ奴らしかいねぇし」
初めて、全身から叫んだ。
これ以上ないくらい。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌」
「はははははっ、あんな強いアピールしといて、こんな事でそんな顔すんのかよ。5年後にはイイ感じに○〇〇ってるだろうぜ」
「これだから田舎モンはやりがいあるんすよねぇ?」
「あぁ、どいつもこいつも親も馬鹿でちょっと凄けりゃあ持て囃すんだ。そこを狙って来た女をこうして味わってから将来旦那となる奴に自慢すんだよ⋯⋯「お前の女は昔散々味わい尽くしましたってよ」」
気持ち悪い男たちから発する大笑いの渦。
頭が真っ白になった。
これからどうなるだろう?まだ結婚も付き合ってもないのに。
知らない男に⋯⋯嫌だ。
「おいおいビビっておもらししてるぞ」
誰か助けて⋯⋯。お願いします。
「成人前でまだ大人が怖いんすよ!しっかりと教育しないとっすね!」
「いやぁ乳はねぇけど愛嬌はありそうだよな!」
下衆な会話が永遠。私は殺意すら抱く事を忘れ、もう全てが終わりだと、早く殺してくれとすら思っていた。
⋯⋯そんな時だった。
「てかさ、コイツら処女なの?」
私からすれば、最悪の一言目だった。
見上げると、村にも街にもいなさそうな美男子がそこには居た。
綺麗な顔。この辺りじゃ珍しいハーフだ。
アストリアとレンシアの遺伝子を受け継いでる。
長い髪だ。金髪だけど、襟足はうっすら黒い。
まるで朝と夜。
端正な顔立ちだが、口元には小さくはあるが傷跡がある。
まるで貴族かと疑いたくなるような小物を指にはめている彼が顔を覗くようにしてリーダー格の男に尋ねていた。
「なんだ?うちの奴らじゃねぇはずだが⋯⋯」
「そうそう。たまたまこの辺りで薬草を採取しててさ、悲鳴が聞こえて来てみれば、こんな状態で」
彼がそう言うと、全員が一斉に手を止めて武器に手を伸ばしていた。
だが次の瞬間、彼は揶揄うように私を地獄に堕とす。
「いやいや、そんな怖い顔されても⋯⋯。二人とも食っちゃうの?」
「なんだよ、お前もその口かよ」
一斉に笑う声が響き渡る。
私は最悪な気持ちで力が全身から抜けていく。
男はみんなそういう生き物だと。
「おぉ⋯⋯!!」
リーダーの男が嬉しそうに服を脱がし、皆に私の肌が見られてしまう。しっかりと。
「意外と着痩せするタイプなんだな」
「勉強になります兄貴!」
レガッタの方も同じように歓声が上がっていた。
「やめて!!」
「もうそういう奴にしか見えねぇよ。これも楽しめってことだろ?」
絶望。だけど、何かがおかしい。
「兄貴?」
「おい!ゾク、お前⋯⋯!」
手が止まったので、思わず二人を見上げると、まるで老人のように退化していた。
「⋯⋯な、何が⋯⋯」
その瞬間、生々しく弾ける音が聞こえた。
バシャ。何かが地面に落ちた音だ。
落ちたのは、先程まで嬉しそうに私の身体を見て下卑た表情をしていた彼だ。
生首が落ちると、辺りは静寂に包まれる。
正気に戻っていた私は、奴らを全員見渡すと、全員が同じように老人のようになっており、気がつけば一斉に首が切断され鮮血が宙に舞っている。
レガッタと私は、まるで理解が追いつかず、とりあえず服を着ようと鎧と下着を取る。
「ほら、あげる」
「っ!!あんたは!」
まだ残党が⋯⋯そう思った私の前には、先程の同い年くらいの男が立っていた。
彼の手には大きい袋があり、私に投げつけてきた。
「こ、これは?」
「ボッタくられてた報酬の金。⋯⋯じゃ」
「ちょっとまっ──」
手を伸ばした時にはありえないくらいの速度で彼はこの場から消えていた。
思わずレガッタと私は目が合い、ひとまず助かったと安堵した。
「⋯⋯あぁ、多分ノアさんの事ですかね」
「誰ですかその人」
あれから数ヶ月が過ぎ、少しずつ立ち直っていった。
外に出るのが怖くなってギルド内でできる仕事をこなし、依頼の報告ついでにあの子が気になって受付に訊いていた。
「彼、そういうタイプには思えないんですけどね」
「何がですか」
聞けば、彼はかなり冷酷な人間だと言う。
臨時とはいえパーティーを組んだ時も、盗賊に狙われて死んだ仲間の事を放置したり、色々評判が悪いらしい。
ましてや、人を助けるなんてもってのほかみたいなタイプらしいのだ。
「まぁ⋯⋯色々問題はあるタイプですけど、一定の何かはあるはずなので、私は意外と平等に見てますが」
「そうなんですか」
「ええ。ですから、逆に気になるなと」
「助ける事がですか?」
縦に頷く受付。基本ギルドは冒険者の揉め事に介入してこない。それに、女関連の問題も似たような感じで、罪に問われない。
現場を押さえていないからという問題もあったり、大きい力が動いたらもうどうしようもない。
「⋯⋯⋯⋯ノア」
気になる。頭の中でそう呟いた時だった。
「ねぇ、そこに可愛い子ちゃん。パーティー組もうよ」
トラウマが復活したような気分だった。
まさに似たような連中が私に声を掛けてきたから。
「退いて」
「いやいや、ちょっと話くらい⋯⋯」
なんとか逃げようとギルドの扉の方へ向かっていた時、またその彼と再会したのだ。
「あ、あの時の」
「⋯⋯貴方は」
ゴミが落ちていた時の様なつぶやき。
なんか少々苛立ちを覚えたが、すぐに正気に戻る。
受付の話によると、普段彼は姿を見せないという。
確かに。あれから時間は経ったけど、一回も会えていなかった。
「また狙われてるの?」
「ま、まぁ」
私の後ろにいるであろう彼らを見上げて、彼、ノアはそう無表情に呟いた。
「はぁ⋯⋯」
溜息をついた──次の瞬間。
「グァァァッ!!」
感覚的には、巨人が真横に思い切り拳を握って振ったような威力だった。しかし実際には軽く手を振っただけで、数メルは飛んでかなり遠くの壁に声を掛けていた男は埋まっていた。
そうしてノアはその埋まった壁に近付いて、男を取り出すと髪を掴んで引き摺り回しては外へと出ていった。
それから彼はしばらく姿を現さなかった。
あの事件があってからというもの、ノアを恐れる者が一定層いて、未だに横を通り過ぎるだけで一礼する者がいる程だ。
あの時代のノアを知っている人間からすると、今のノアが信じられない。
トラウマが出来てから、私は男を嫌悪するようになった。当然と言えば当然。
後に彼は、「流石にタダで助けたら勿体無いから。ご馳走様でした」と言った時は色々沸騰しかけたが、彼なりのスタイルなのだと理解した。
最初は恐怖と絶望に支配されていた私の心に、次第にノアへの興味が芽生えだした。
興味湧いてからは、彼を追った⋯⋯色々。
その度に、私は助けてもらったから気になってるのか、それとも他の理由が思いつかずそのままだ。
だから目の前でそう言ってきたアリィに、私は何て返せばいいのかが分からなかった。
『君、可愛いんだからもっとしっかりとした服装にしたら?』
『それと、あんな男に騙されないように勉強しなよ』
『おいノア、お前娼館使わねぇの?』
『⋯⋯んー別に。一人でもどうにか出来るでしょ?』
『いや女が居るんだからそれでいいじゃねぇかよ』
『まぁ確かに? 結婚したら多分しつこいくらいするかもだけど、わざわざ娼館利用する程でもないかなぁ~』
私はチョロくない。絶対に。
だけど、気がついたら⋯⋯彼を追ってしまっている。
理屈ではなくて、感情なのかも。
「ノアは南に行ったのよね?」
「「ん?あぁ⋯⋯」」
だから、こうしてノアを探して私がチョロくないって証明するんだ。今日も。
『どんな人が好みなの?』
『んー⋯⋯普通そうな女の子が好きかな。のんびりだらだらしてるような。⋯⋯って、なんでそんな笑ってるんだ?ビビ』
「ふふっ」
「黙ったと思ったら、ニヤニヤしてどうしたんだ?あいつ」
「若いっていいな」
「何知った気になってんだリドル」
「うっさいわ!」
あの経験は私を変えた、間違いなく。
恐れを知って、同時に強さが必要だということを教えてくれた。そして何よりも、人を見る目を養えるようになった。
今の私は、まだまだこれからだけど、あの頃の無知で臆病な少女とは違う。年々とノアを追いかける理由も、きっと変わっていく。
⋯⋯今度はどんな話を持っていこうかな。
45
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる