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気概ってやつ

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 時間が過ぎるのは自分たちが思っている以上に早い。
 もうこの世界に転生してから13年。意識が戻ったのが3歳だから、もうすっかり現地人と言っても差し支えない程この世界に馴染みつつある。
 ⋯⋯てか馴染んでるだろう。

 敬語がまだあやふやだが、まぁいい感じに喋れているだろう。

 そうだ、出生について話してなかったか。
 俺はこの街で生まれというわけでなく、ここから三ヶ月くらい馬車で行ったところの、今では無き街となったエレール村で育った。
 
 少し大きい話をする。
 この国、『アストリア王国』はこの大陸で一番の領土を誇る。
 その隣、そこはすぐに別の国でレンシアがあるのだが、その境界線にあったのが俺の生まれたエレール村を含めた小さな村々だ。

 一言でいえば、この2つの国は死ぬほど仲が悪い。
 よく戦争をする。そのせいで戦火に巻き込まれた俺の故郷は滅びた。偶々生き残った俺は、このシャルの街までやってきて、当時8歳の自分は色んなことをしながら上手く生き残った。
 よくよく考えれば、俺は記憶があるからどうにでもなったのだが、普通の8歳がこうして生き残る為に様々なことをしていかないといけないのは中々酷だなと思う。

 若干逸れたが、アストリア人は背が高い者が多くレンシア人は小さい者が多い。
 あとは察してくれ。人種差別だなんだが起こってる。
 巻き込まれる側の事も考えてほしい。

 「おぉ⋯⋯ノア」
 「ライアンじゃん。今日も依頼か?精が出るな」

 俺よりも年上だが、キャリアの違いでこういう感じだ。
 鎧にデケェ大剣を背負って依頼ボードを眺めている。
 背は175くらいかな。俺が180と少しだから、少し低い程度。顔は体育会系といえば通じる?
 
 「ノア!なんで依頼を受けないんだ!?銅ランクなんて恥だぞ!?」
 「おおおお始まったわ。助けてえ~アリエモン~」
 
 ライアンはこういう気概を持っている人間だ。俺とは全く気が合わん。 
 基本的に冒険者としてはライアンのような人間がほとんどを占めるのだが、俺としては生き残る方が優先なのでわざわざ死にに行くような危険な依頼は避けている。

 「とりゃあ!」

 空中には、ラインハルトが開発した誰でも出来る土の泥団子機で作成した団子をアリィが投げつけたのである。
 
 「っ!あのゴミ拾いしかしない奴らが!⋯⋯アリィ!」
 「ノア!おい!助けろよ!」
 「逃げるぞ!」
 
 わぁ~と俺とアリィは結局ギルド内で鬼ごっこを開催し、最終的には捕まってゲンコツを喰らうというのがお決まり。

 「ノア⋯⋯こっちは分かるが、お前がそうなる必要はないんだぞ?」
 「だって死にたくないもん」
 「冒険者なんだから薬草採取なんて依頼をやってどうする! 初心者用の依頼だぞ?」
 「採取は大事だぞ! 命関わることだってある!」
 
 そうだ!そうだ!と一緒に正座をしているアリィも一緒に抗議する。

 「限度ってもんがあるだろ!ノアは剣が使えるだろう?アリィだってそうだ! 力ある者がその力を振るわないなどありえん!」

 まぁ言わんとすることは分かるんだけど⋯⋯命は一個しかないんだぞ。

 「はぁ⋯⋯二人はなんでこうも変わらないのだか」

 必死に俺はリーファたちに救いの眼差しを向けているのだが、絶賛無視。
 多分ライアンの言い分に分かるところがあるからだろう。

 フィジギフ(仮)もあるし、アリィも魔術師だ。
 本来なら、アリィはこんな所にいる人間ではない。
 魔術師はかなり需要があって引っ張りだこ。

 要するに、俺もアリィも地球人っぽい思考回路なのだ。

 「毎年毎年なんで俺がこんな説教を垂れないといけないんだかっ⋯⋯⋯⋯て!そうだった!」
 
 依頼紙をとってカウンターへ向かうライアン。
 その間に俺達はそそくさと元のギルド酒場の椅子に座る。

 「そういえばさぁ⋯⋯」
 「んんー?」
 「ノアって飯作れたよなー?」
 「うんー⋯⋯」

 互いに突っ伏しているせいか語尾が永遠に伸びている俺達。

 「なんか作れよぉー」
 「嫌だよぉー⋯⋯金くれよー」
 「銅貨2枚ならなー」
 「性格悪いぞー金貨寄越せー」
 「お前もなぁー⋯⋯銀貨2枚」
 「⋯⋯急に現実的」
 「腹減って死にそうだ」
 「た⋯⋯の⋯⋯め⋯⋯よ⋯⋯っ」

 話しながら爆笑する俺に、アリィも自分で変な事を言っている自覚があるように釣られている。

 基本的に俺達はいつもこうだ。
 朝からギルド酒場でこうしてのらりくらり意味不明な会話を繰り広げ、誰かを叩いたりああでもこうでもないと言い合う。

 ⋯⋯そんな1日だが、ギルド玄関から嫌な気配が漂う。
 バタンと開きズンズン言っていそうな歩き方とオーラを放つ一人の女性がキョロキョロ見回し、酒場の俺達を見るとピコンと照準があったようだ。
 ──奴が来たか。

 「ノアー!」
 「おぉモテ男。さすがじゃねぇかよ」
 「うるせぇ」

 やってきたのは、水色のツインテールをしている10代後半の美少女だ。
 ビビ。彼女は弓師のギフトを貰っており、リドルのパーティーである狩猟の宴の若いメンバーだ。
 ハキハキしてて仕事も出来るし、面倒見もいい。
 欠点があまりないのが怖い所だが、そんな彼女は男が嫌いで、結構な潔癖だったり色々問題点多い人間なのだ。
 ⋯⋯あと胸は無いわけではないけど、な。

 「ノア、今度ウチと合同で行きましょう!」
 「行かないよ⋯⋯俺とアリィを見てくれよ」

 俺達の状態を見たビビは数秒の沈黙の後、腰に手を当てて元気よく答えた。

 「知らない。行くよ!」

 ぐでんとしている俺達の事なんて無視ですか⋯⋯そうですか。

 「てかビビがリーダーでもないのにそんなこと決めていいのかよ」
 「うん? そもそもみんなノアならいつでも大歓迎だって言ってるわよ?」
 「俺いつからそんなに人気になったんだ?」
 「ノアは器用だから分かるぜぇ⋯⋯料理も夜番も戦闘も斥候も平均以上にこなせるしな」
 「珍しく褒めるじゃん」
 「おいおい失礼だろー? 別に事実はいつも言ってるだろ」
 「それで?良いよね?」
 「よくないって言ったらどうするの?」
 「無理やり連れて行く」

 そんなに興奮しないでください(某政治家)。
 
 「じゃあ聞いちゃ駄目じゃん」
 「あっ!今日暇? 武器見に行こうよ!」

 なぁ、俺達のこの体勢を見て、動きたい人間に見えてるらしいぜ?信じられない。
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