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異世界転移編

75話 情報部隊キッズの始まり

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「あ、ありがとうございます!」
「ん? 何が?」

 三人で街の中を歩く中、ガゼルに対して少女とジアンが何度も会釈を繰り返す。

「お、お助けいただいたことです!」
「別に気にすることはない。どうせ依頼だ」
「⋯⋯い、依頼?」
「うん! 私が労働力になるからマキを助けてくださいって頼んだの!」

 ジアンが嬉しそうにそう言う中、やっと実情を知ったマキは震え上がったようにジアンの肩をつかんだ。

「ちょっと! 有り難いけど! 何されるかわからないのよ!?」
「え? でもこのお兄さん良い人だと思ったんだけど」

 ⋯⋯馬鹿なのか? 

「良いやつだろうとなんだろうと、俺にはどうでもいい。とりあえず労働力が確保できれば問題ない」
「すいません、その契約、私もお願いします」
「こちらは願ってもないが、良いのか?裏切りはそもそもできんが」
「問題ありません。私はジアンだけ連れて行かれるのが嫌なだけです」

 熱い友情だな。

「なら、お前とも後で契約しよう」

 歩き話は続き、ウチの近くにある場所にまで差し掛かった時、連絡が入る。

『ご主人様、先程仰っていた件、東地区の子供達は契約に乗ると言っていますが、連れてきますか?』
『何人いる?』
『おそらく100以上です。詳しい数計算しますか?』
『いや、いい。とにかく家に連れて行ったら風呂と最低限の作法、次の日からは料理を教えてやれと伝えろ』
『料理ですか?』

 かつて昔の時代──携帯や通信機器がなかった時代の話だ。

 戦いをしていた人間たちがどうやって情勢や情報を操っていたのだろうか?

 ⋯⋯答えは簡単。
 食事・酒場では皆情報をこぼす。
 そして、一体にある酒場の店員として日々情報を残して主に伝える。
 時には利用して新しい情報として流し込み、敵味方を巻き込んでいく。

 ──そうやって昔の奴らは情報戦を制してきた。

 俺はこの異世界でもこの戦い方を使い、大陸全ての情報を集め、貴族を打倒する。

『ひとまずそれで確定だ』
『かしこまりました』


***


 そして時間はすぐに過ぎ去り、数日が経過した。

「おはようございます、ご主人様!」
『おはようございます!!』

 ガルの一言で沢山の子供たちが通路の両脇に張り付いて90度お辞儀。

 寝起きにガゼルが見たものだった。
 子供達と奴隷の子らが両脇にピタリと並んで身体を折りたたんで出迎えている。

 全くいつになったらこれをやめるつもりなんだ。

「こんなことにする暇があったら、1秒でもサボってろ」
「そんなわけにはいきません! 我々の救世主てあるご主人様に何もお返しができないなど⋯⋯一生のイキジゴクになるでしょう!」

 ⋯⋯一丁前に否定してんじゃねぇか。
 さて、今日はアイツらを呼びつけてあるし、軽く運動してから食事にでもするか。




「ガゼル様!」

 昼前には二人が訪ねてきた。
 俺としては早いほうがありがたかったから助かる。

「どうだ順調か?」
「勿論でございます! やはり今までにないやり方でありますから、こうして様々な商品が飛ぶように売れています」
「俺が頼んだ傾向調査表は持ってきているな?」
「こちらに」

 ガスパルから束の紙を受け取り目を通す。

「やはり20代くらいの容姿が多いようだな」
「はい、おそらくガゼル商店はまだ超新星の域であり、まだまだ浸透率は悪い状況です」
「間違いないな。大体カネを落とすのはその上と冒険者だ」
「仰る通りです」

 やっぱり冒険者が使う系は飛ぶように即売れか。
 冒険者は流行が移り変わりやすいと傾向が読み取れている今、すぐに品を変える必要がある。生活用品はおおよその市場調査どおり。

 女性の情報力における力は想像の10倍はある。

 気付けば女性の流行次第で市場が動くこともこの時代では大いにある。
 理由簡単、俺が⋯⋯主婦が欲しいであろう調理器具や新鮮な食品を用意すれば、必ずと言っていいほど手に入れようとするからだ。

 現に調査表にそう結果が出ている。

「ガゼル様」
「どうした?」
「最近、ウチの資金はねずみ算式に増えていっている状態ですが、街の方はどう致しますか?」

 心配そうなガスパルの表情が何を言いたいかを物語っている。

 現実問題、俺や俺に関わるガスパル兄弟たちはウハウハではあるが、街の奴らからしたらたまったもんじゃないだろう。

 "よく知りもしないガキが調子に乗って外で商売なんて"

 と思われても仕方ないが、そのようなヘイトを長くやるつもりはない。

「まぁもう日は経っているわけだし、そろそろ動くとしよう」
「どうするおつもりでしょう?」
「そっちは俺がやっておくから、お前達は次の段階に移ってもらう」

 ガゼルの言葉に少し横に首を傾けるガスパル。

 日が差す窓際から⋯⋯外を眺めるガゼルは、瞳を燃やしそうな眼光でこう言った。

「さて──始めるぞ。これから、誰がここにやって来てやったのかを、教えてやる」


***


 更に2週間近くが過ぎようとしていた。
 いつも通りの光景が続く。
 しかしいつもと違ったのは、ガゼルの方ではなく、街の方だった。

『ねぇ、聞いた?』
『何を?』
『最近できた酒場のことよ!』
『あぁ~あそこね、それがどうしたのよ』
『今、主婦でも気軽に集まれる飲みの場が新しく出来たの!』
『凄いじゃない! 今まで男達が優先だったからイライラしてたけど、これから女の集まりも活発になりそう!』

 二人の婦人が目を見合わせる。

『今から行きましょっ!!』
『そうね!』


***


「ふぅ⋯⋯」

 ガゼルは自室でいつも通り瞑想をしていた。
 ゆっくりと目を開け、一言頭に思い浮かべる。

 ──そろそろか。

『報告です』
「なんだ?」
『現在、トラシバの街の四区画で四店舗、そしてカルデアの街で一店舗出し、二店舗はもう時期開店予定です』
「頃合いか」

 そろそろあいつらの腕試しと俺のダンジョン攻略に勤しむ頃合いか。

「これから準備を始める。カルデアにもう一つ住居を用意する」
『かしこまりました』
「情報は?」
『かなりの準備ができています』
「もうそんなにか?」
『はい、やはり主の用意した入場料が効いているようです』
「まぁそうだろうな」

 入るだけでカネを払う。
 価格は大したことなくても、それだけで民度の差別化が行われ、来る客の質も量も変わる。

「カルデアの情報はどうだ?」
『現在領主一家の息子がかなり暴れ散らしているようです。冒険者ギルドにも顔を出しては強い女ばっかり集めて遊び回っているようです』
「そうか、領主本人については?」
『そちらは物的証拠と共に、かなりの用意があります』
「なら、後でまとめてカルデアの方で報告を聞こう」
『ハッ!』

 それじゃ⋯⋯煩わしい時間はここまでにして、次は成長した彼らの成果でも確認するとしようか。

 窓の外へ目を向け、ガゼルは微笑みを浮かべていた。
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