78 / 105
異世界転移編
71話 作り笑い
しおりを挟む
今日も平和だ。
私、ガルは、朝から現在の昼前までいつも通り⋯⋯主の家の前で門番としての仕事を全うしている最中だ。
「ガルー! はい! お水!」
「あぁ、ありがとう」
ミーズが、私が立ちっぱなのを見て、冷えた水筒を差し出す。
「ぷはっ⋯⋯」
主が用意して頂いたこの特殊な水筒とやらは凄い。⋯⋯まるでずっと凍っているかのようだ。
もう時期夏場になれば、今より更にキツイことだろう。しかし、この水筒という魔導具があれば⋯⋯どうだろう。全身の暑さなど忘れてしまうくらい優れたものだ。
主はいつも何処からこんな世紀の大発明地味た物を用意しているんだろうか。
気になって気になって仕方がない。
「それよりさー、そこに座れば良くない?」
ミーズが近くにある丁度よい舗装された縁石よりも少し高いくらいを指差して私に言ってくる。
「私は門番だろう?」
「えぇ?ご主人様もイイって言ってたじゃん」
「しかし駄目だろう?門というのは、その家や家主にとっては顔になるだろう?私がそんな所で腰を下ろしているところなど見られれば、貴族様や通行人の目が主への印象が下がってしまう」
そう。ここは門なのだ。
⋯⋯誰もが最初に目を通す場所だ。
私が任されたのは、そんな顔となる部分を預けてくださった主に対して報いる事だ。それに、一日中立っていて衣食住が得られるコトなんてほとんどの限りないんだから。
「そんな事は分かってるけどさ、ご主人様は「いいよいいよ、そんなんでウチへの印象が下がるなら──俺はいらない」って言いそうじゃない?」
「⋯⋯かもしれないな」
ミーズが一生懸命顔芸と声の高さを主に真似て本人さながらの演技力で言い放つ。
これは笑いを隠すのが大変だ。
ミーズはかなり元気っ子に見えて、実はかなり繊細な心の持ち主だと私はこの少ない時間で感じている。
門番など私しかいないのにも関わらず、いつも昼前か後にはこうして水筒を持ってわざわざ暫くこうして私と他愛のない話をしてからまた戻っていく。
「いやーご主人様に買われてからもう一月だっけ?」
「あぁ、もう経つのか」
随分と早いな。
前まではあれだけ時間が経つのが遅かったのに。
「あ、そういえば、セレーヌさんがもうすぐC級ダンジョンに挑むから毎日の鍛錬を怠らないよう一人ずつ回って気合い入れてたよー」
「だな、もしかしたら主はここで何かを決めるかも知れない」
⋯⋯実は先日、全員に通達があった。
主から説明があったのは、資金が潤沢になったおかげで、当初の目的であったダンジョン攻略に力を入れたいをとの事だった。
私達は知らなかったが、最初からダンジョン攻略が主にご主人様がやりたかった事らしい。
まぁ、主の行動の傾向から見るに予想はしていたが。
トラシバの街は主な生活拠点としてある事は確定しているが、探し回った結果、どうも近くにある"冒険者の町"と言われる『カルデア』に行く予定ということだ。
カルデアの名は勿論私も知っている。
私も冒険者時代散々回りに回った場所だからだ。
"まるでダンジョンのために用意されたのではないか?"
そう言われるほどの多種多様なダンジョンが生成されていて、その数に舌を巻く程だ。
E級ダンジョンから、最大と言われてるS級ダンジョンまで⋯⋯大体の必要なダンジョンがあの街には揃ってる。勿論人口の数もかなり多い。
しかも、あの街は冒険者にとっては離れる理由が生まれず、定住者の量も多く人気の街となっている。
そんな街に主自ら行きたいという報告されたことに私はビックリしたのが最初の印象だ。
しかしすぐにその理由は判明した。というより、何故分からなかったのかとすら思う。
"ただS級ダンジョンで暴れたいだけ"
⋯⋯ということに。
まぁその為に以前も似たような事を聞いていたのでこういう感想になったわけだ。
「流石に捨てられることはないよね?」
「主的にはそんな意図は感じないが⋯⋯」
私達にとっては死刑宣告より耐え難いものかもしれない。今までも何度もあったことだ。突然金銭的な理由や権力的な理由で捨てられることは多々あった。事実檻から出ていって暫くしたら元気な表情で帰って来てまた痩せ細ることだってかなりあったから。
「大丈夫だろう。今までのご主人様とは──どこか毛色や感じが違いすぎるからな」
「だといいけど」
ミーズは無言でそう言って苦笑いを浮かべながら屈んだ状態で綺麗な空を見上げている。
それから暫く他愛もない話をしていると、滅多にない数人の影がこちらへと近付いて来ている。
「ミーズ。念の為、セレーヌさんに報告しに行ってくれ。来客かもしれない」
「了解!頑張れっ!」
主人公のさり際みたいな手の振り方でそそくさ家の中へと入っていく。
見えるのは4人⋯⋯か。
見た所警備兵っぽいか?だが顔つきが良さそうとは言い難いな。
私は近付いてくる数人に声を掛ける。
「ここはガゼル様の家だ。なんの用だ?」
すると私の前に4人の男が立つと、機嫌が悪そうに私に怒鳴りつけてきた。
「あぁん?ガゼル~?知らねぇよ!ここの主人を早く呼べや」
「そうだぞー?そんな舐めた態度取ってると、あとで痛い目を見るぜぇ?」
何だこいつら?一体どこの者なんだろうか。
「いきなり呼べと言われましても、ご用件を先に伺ってからです」
「あぁ!? いいからさっさと呼べ!」
「私はあくまでも門番ですから⋯⋯意味もない用件でご主人様をお呼びする必要はありません」
私がそう言うと、いきなり胸倉を掴んで一斉に私を囲んで更に語気を強めて怒鳴りつけてくる。
「あぁ! さっさと呼べよ! トラシバを治める現当主、ブルク様の命令だ!」
「早くしろ!!」
ご主人様⋯⋯当主様の耳にとっくに入っているみたいですよ?
それはそうでしょうね。
今までこんな静かだった方がおかしいくらいだ。
「少々お待ちください」
「そうそう、分かれば⋯⋯」
門に手を掛けた時、中からセレーヌさんが出てきた。
突然言葉を失ったように4人が黙り込んだ。
そして、次の瞬間──一気に目つきが恐ろしく下卑たモノに変わっていた。
「おい!お前この女借りていいか?」
「やべぇ!ちょー胸デケェ!」
男たちが歩み寄り、セレーヌさんと私を囲む。
「おい、イイカラダしてんじゃねぇかよ!しかも⋯⋯こりゃ奴隷印じゃん!早く言えよ!最近溜まっててさー!」
これは面倒だぞ?
ガルが溜息をこぼしながらそう内心呟く。
「あ、あの!」
「なんだよ?一々奴隷が反論してんじゃねーよ!」
どうする? 指示は特に受けていない。勝手に事を起こしてご主人様に迷惑をかけるわけにはいかない。
「ですから!」
「奴隷は黙って言うことを聞いてればいいんだよ」
そうしてセレーヌの肩に男たちの手が伸びた所で、ガルの背後にとてつもない威圧感を感じた。
咄嗟にガルは振り向く。
「ご、」
「おい、ソイツらは誰だ?ガル」
「あぁん?お前が誰だよ?」
「うるせぇよオッサン」
立っていたのは、静かに降り立った私のご主人様だった。
私、ガルは、朝から現在の昼前までいつも通り⋯⋯主の家の前で門番としての仕事を全うしている最中だ。
「ガルー! はい! お水!」
「あぁ、ありがとう」
ミーズが、私が立ちっぱなのを見て、冷えた水筒を差し出す。
「ぷはっ⋯⋯」
主が用意して頂いたこの特殊な水筒とやらは凄い。⋯⋯まるでずっと凍っているかのようだ。
もう時期夏場になれば、今より更にキツイことだろう。しかし、この水筒という魔導具があれば⋯⋯どうだろう。全身の暑さなど忘れてしまうくらい優れたものだ。
主はいつも何処からこんな世紀の大発明地味た物を用意しているんだろうか。
気になって気になって仕方がない。
「それよりさー、そこに座れば良くない?」
ミーズが近くにある丁度よい舗装された縁石よりも少し高いくらいを指差して私に言ってくる。
「私は門番だろう?」
「えぇ?ご主人様もイイって言ってたじゃん」
「しかし駄目だろう?門というのは、その家や家主にとっては顔になるだろう?私がそんな所で腰を下ろしているところなど見られれば、貴族様や通行人の目が主への印象が下がってしまう」
そう。ここは門なのだ。
⋯⋯誰もが最初に目を通す場所だ。
私が任されたのは、そんな顔となる部分を預けてくださった主に対して報いる事だ。それに、一日中立っていて衣食住が得られるコトなんてほとんどの限りないんだから。
「そんな事は分かってるけどさ、ご主人様は「いいよいいよ、そんなんでウチへの印象が下がるなら──俺はいらない」って言いそうじゃない?」
「⋯⋯かもしれないな」
ミーズが一生懸命顔芸と声の高さを主に真似て本人さながらの演技力で言い放つ。
これは笑いを隠すのが大変だ。
ミーズはかなり元気っ子に見えて、実はかなり繊細な心の持ち主だと私はこの少ない時間で感じている。
門番など私しかいないのにも関わらず、いつも昼前か後にはこうして水筒を持ってわざわざ暫くこうして私と他愛のない話をしてからまた戻っていく。
「いやーご主人様に買われてからもう一月だっけ?」
「あぁ、もう経つのか」
随分と早いな。
前まではあれだけ時間が経つのが遅かったのに。
「あ、そういえば、セレーヌさんがもうすぐC級ダンジョンに挑むから毎日の鍛錬を怠らないよう一人ずつ回って気合い入れてたよー」
「だな、もしかしたら主はここで何かを決めるかも知れない」
⋯⋯実は先日、全員に通達があった。
主から説明があったのは、資金が潤沢になったおかげで、当初の目的であったダンジョン攻略に力を入れたいをとの事だった。
私達は知らなかったが、最初からダンジョン攻略が主にご主人様がやりたかった事らしい。
まぁ、主の行動の傾向から見るに予想はしていたが。
トラシバの街は主な生活拠点としてある事は確定しているが、探し回った結果、どうも近くにある"冒険者の町"と言われる『カルデア』に行く予定ということだ。
カルデアの名は勿論私も知っている。
私も冒険者時代散々回りに回った場所だからだ。
"まるでダンジョンのために用意されたのではないか?"
そう言われるほどの多種多様なダンジョンが生成されていて、その数に舌を巻く程だ。
E級ダンジョンから、最大と言われてるS級ダンジョンまで⋯⋯大体の必要なダンジョンがあの街には揃ってる。勿論人口の数もかなり多い。
しかも、あの街は冒険者にとっては離れる理由が生まれず、定住者の量も多く人気の街となっている。
そんな街に主自ら行きたいという報告されたことに私はビックリしたのが最初の印象だ。
しかしすぐにその理由は判明した。というより、何故分からなかったのかとすら思う。
"ただS級ダンジョンで暴れたいだけ"
⋯⋯ということに。
まぁその為に以前も似たような事を聞いていたのでこういう感想になったわけだ。
「流石に捨てられることはないよね?」
「主的にはそんな意図は感じないが⋯⋯」
私達にとっては死刑宣告より耐え難いものかもしれない。今までも何度もあったことだ。突然金銭的な理由や権力的な理由で捨てられることは多々あった。事実檻から出ていって暫くしたら元気な表情で帰って来てまた痩せ細ることだってかなりあったから。
「大丈夫だろう。今までのご主人様とは──どこか毛色や感じが違いすぎるからな」
「だといいけど」
ミーズは無言でそう言って苦笑いを浮かべながら屈んだ状態で綺麗な空を見上げている。
それから暫く他愛もない話をしていると、滅多にない数人の影がこちらへと近付いて来ている。
「ミーズ。念の為、セレーヌさんに報告しに行ってくれ。来客かもしれない」
「了解!頑張れっ!」
主人公のさり際みたいな手の振り方でそそくさ家の中へと入っていく。
見えるのは4人⋯⋯か。
見た所警備兵っぽいか?だが顔つきが良さそうとは言い難いな。
私は近付いてくる数人に声を掛ける。
「ここはガゼル様の家だ。なんの用だ?」
すると私の前に4人の男が立つと、機嫌が悪そうに私に怒鳴りつけてきた。
「あぁん?ガゼル~?知らねぇよ!ここの主人を早く呼べや」
「そうだぞー?そんな舐めた態度取ってると、あとで痛い目を見るぜぇ?」
何だこいつら?一体どこの者なんだろうか。
「いきなり呼べと言われましても、ご用件を先に伺ってからです」
「あぁ!? いいからさっさと呼べ!」
「私はあくまでも門番ですから⋯⋯意味もない用件でご主人様をお呼びする必要はありません」
私がそう言うと、いきなり胸倉を掴んで一斉に私を囲んで更に語気を強めて怒鳴りつけてくる。
「あぁ! さっさと呼べよ! トラシバを治める現当主、ブルク様の命令だ!」
「早くしろ!!」
ご主人様⋯⋯当主様の耳にとっくに入っているみたいですよ?
それはそうでしょうね。
今までこんな静かだった方がおかしいくらいだ。
「少々お待ちください」
「そうそう、分かれば⋯⋯」
門に手を掛けた時、中からセレーヌさんが出てきた。
突然言葉を失ったように4人が黙り込んだ。
そして、次の瞬間──一気に目つきが恐ろしく下卑たモノに変わっていた。
「おい!お前この女借りていいか?」
「やべぇ!ちょー胸デケェ!」
男たちが歩み寄り、セレーヌさんと私を囲む。
「おい、イイカラダしてんじゃねぇかよ!しかも⋯⋯こりゃ奴隷印じゃん!早く言えよ!最近溜まっててさー!」
これは面倒だぞ?
ガルが溜息をこぼしながらそう内心呟く。
「あ、あの!」
「なんだよ?一々奴隷が反論してんじゃねーよ!」
どうする? 指示は特に受けていない。勝手に事を起こしてご主人様に迷惑をかけるわけにはいかない。
「ですから!」
「奴隷は黙って言うことを聞いてればいいんだよ」
そうしてセレーヌの肩に男たちの手が伸びた所で、ガルの背後にとてつもない威圧感を感じた。
咄嗟にガルは振り向く。
「ご、」
「おい、ソイツらは誰だ?ガル」
「あぁん?お前が誰だよ?」
「うるせぇよオッサン」
立っていたのは、静かに降り立った私のご主人様だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
880
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる