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異世界転移編

66話 活性化

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ドクン──。

あぁ、イイゾ。

掠れた声で頭の中で呟き、ゴキッと男の太ももから骨が粉砕したような音が響く。

ドクン──。

そうだ。

次は腕。その次は肩。
最終的には全箇所骨が粉砕し、確実に折れた音が周りに響くほどの大きさだった。

しかし男は喜々としながら⋯⋯笑って目の前に見える数百人にも上る冒険者たちを見ていた。

真赤な魔力のようなモノが男の身体から煙のように漏れ出し、男の全身を包み込む。

──ソウダ。ソウダ。

男は意識を失いかけていた。
男の頭には、とてつもない量の絶叫が鳴り響いており、例えるなら、イヤホン音量マックス設定より更に上げたような感覚。

逃げ場のない絶叫と、人々が男に向かって何かを言っている光景が男の脳裏には映し出されていた。

『ぶっ殺す!!!!!!』
『いつか、その顔を見たら、必ず殺す』
『覚えたよ、その顔を』
『助けてぇぇぇッ!!!!!』

──ナンデワスレテイタンダヨ?

男に何かの思念が語りかけている。
⋯⋯しかし男は返事をかえさない。

──ホラ、ミエナイカ?あれ全部コロシテイインダッテ。

男は無表情でその声を聞いても何ら反応を示さない。

──マタ無視デモスルノカ?忘れチャイケナイ、ミカドソウイチという男の人生ハ、幸せナンテ概念ハナインダヨ。オマエが幸せニナル?何を今更。

黙る男を見たナニカは、「ククク」とまだ続ける。

──ソウヤッテシテイレバ、何もかもが過ぎ去ッテイクナンテ思ってる訳ジャナイヨナ?

──ホラ、ミロ?

男の視界は強制的に冒険者の方へと向けさせられる。すると徐々に⋯⋯視界にいた人間達の姿が炎の人形のような姿に変化していく。

──アレハ人間ジャナイヨ。タダノ炎の魔人。⋯⋯コワクナイコワクナイ。昔オマエを散々な目に遭わせてきた奴らの魂が具現化シタダケダヨ。

『創一~』
『ブタっ!』
『ほら、これあげる』

──ミロ、アイツラハ殺シテモイイダロ?

無言のまま聞いていた男は、重い腰を上げてやっと口が動いた。

"黙れクソッタレが"

⋯⋯ブチ殺すぞ。次入ってきたらテメェの魂を喰いちぎってやる。

男⋯⋯いや、神門創一の悪魔的な表情をみたナニカの思念はホッとした笑みを浮かべていた。

──よかった。何も変わっていなかったね

当たり前だろ。俺は、生まれてから⋯⋯ずっとーー俺のままで、誰にも俺を変えられない。

──ボクのコトを覚えている?

最近記憶が欠けたみたいに思い出せなかったんだ。だけど、やっとお前を見て思い出したよ。















修羅※※※※※※※※※──。

──なら良かった!また会おうね!

───
──


「ん?な、なんだよ」

突如として、男の心臓は重く、断続的な鼓動を発し始めた。その音は異様なほどに強く、遠く離れた場所にいるグレイの耳にまで届くほどだった。

グレイは目を見開き、その方向へと顔を向ける。そして、目の前に広がる光景に驚愕した。

男は猛獣のように手をぶらぶらと振りながら前に進む姿勢をとっていた。

その体からは真っ赤なオーラが溢れだし、それはまるで悪魔と猛獣が融合したような異形の存在を思わせるようなものだった。

グレイは気付く。
気付けば自身の頬に伝っている冷や汗を。

⋯⋯グレイでそのレベルだ。
冒険者たちはその姿を見て完全に凍りついていた。

男の存在はまるで魔王のようであり、それまでの主人公とは別人のような恐ろしいオーラを放っていた。

冒険者たちが凍りついたのは、オーラだけではない別の理由もある。

⋯⋯その恐怖は男の顔にも現れていた。

心臓の鼓動が加速するたびに、男の表情は更に歪んでいき、まるで悪魔が笑うような⋯⋯いや。

 もはや悪魔そのモノが笑うような恐ろしい笑みを浮かべていた。その歪んだ顔には残虐な喜びが滲んでおり、それは恐怖を知らない子供がいたずらを企てるような無邪気ささえ感じさせた。

周囲の空気が震えるかのような圧力を感じる中、漏れ出していた赤いオーラが徐々にドロドロと形を変え、やがてソレは周囲に強力な爆風を生じさせる。

「うっ⋯⋯!これは、魔力なのか⋯⋯!?」

「いや違う⋯⋯これは⋯⋯」

冒険者たちは口々にその異常現象について語り合って考察を必死に交わしていた。しかし彼らの経験上初めて見るもの。

彼らの顔色は完全に青ざめ、その声には絶望と恐怖が滲み出ていた。

男の周囲ではそのオーラがどんどんと濃く、強くなっていき、その力は男の深い内部が際限なく湧き出てくるかのようだった。

"修羅禅刹始門・九天"

その単語は、男の脳裏に浮かんだ言葉だった。

男が一歩前へ踏み出す。
その踏みしめた足元、そこには強烈なオーラの力で地面には明確な足跡が刻まれている。

男が作った足跡は、先程とは違う暴力的なまでの力の具現、そして今後自分たちにそれが向くという恐怖を連想するような痕跡だった。

周囲の冒険者たちがその恐ろしい存在を目の当たりにすると、恐怖で言葉を失う。
 彼らの目は恐怖で瞳孔が広がり、「どうすればいいのか」,「これから迫るあの化物の攻撃をどう防げばいいのか」⋯⋯さっぱり分からない状態に陥った。

そんな中──男は更にもう一歩、踏み出す。

その一歩が、絶望の始まりを予告するような一歩となって空気を圧縮する。
 目の前の化物のような男の力に震え上がるグレイは、混乱の中で必死に手下の冒険者たちへの指示を絞り出す。

「恐れるな!一致団結だ!!!」

グレイの声は強引に冒険者たちの恐怖を振り払うように静寂の中で響く。

そして、突如として決死の表情が一人一人の面構えを見ていけばそれが鮮明伝わってくる。

一人は絶望を抱き。
一人は必死に恐怖を払拭しようと首を振り。
一人は諦めたように剣を握る。

A級,B級の冒険者たちが、決死の覚悟で躍り出る。

⋯⋯たかが一人の──貴族でもない平民の人族に向かって。

「突撃しろ!!お前ら!!」

冒険者たちは咆哮を上げながら男へと向かう。


         ***


しかし、男の方は違った。
冒険者たちが近付いてくるのを見つめながら、男の興奮は頂点に達していた。

 先程のやり取りのせいか⋯⋯はたまたこの漲る力の奔流のせいか。半ば意識を失いかけ、冷静さを完全に失った状態で、男は首を回している。

 男の目はもはや人のそれではなく、赤い猛獣を思わせるような炎で燃え上がり、そのダークブラウンの双眸が真赤な深紅色に変化していた。
 
 男が少し腕を動かすと、腕には力が満ちて血管がウネウネと浮き上がってくる。まるでその様は力の暴走でも起きてそうな光景で、その猛々しい力の前に誰もが震え上がる。

そして、興奮して笑みを浮かべ、男は腰を曲げながら快晴を見上げて両手を広げ──猛獣のように咆哮を上げた。

⋯⋯紅い火花。
細い火花が男の周りで散ってすぐの事。

 まるで紅い雷電を纏った男の咆哮はこの場の冒険者たちが振り払い掛けていた戦意を⋯⋯再びマイナス付近まで戻すようなモノだった。


























「URAAAAAAA!!!!!!HEEEEEEEE!!!!」

『うっ⋯⋯!』

『くっ!なんなんだよコイツは!!』

『くそっ!支援職何してるッ!!さっさと入れろ!!』

地面がとんでもない抉り方をした。
冒険者たちが紅い火花が近くにある事に気付いた頃にはーー既に紅い猛獣は既に目前であった。

一瞬で数十mあった距離を高速で詰め、男は冒険者たちがいる場所へと一気に突進した。

ドゴンッ──!

その力はもはや異次元。
数百の冒険者たちが男の前に吹き飛ばされる。

周囲はまるで爆風に巻き込まれたかのような状況になり、冒険者たちはその力の前に一瞬で散らばってしまう。

『ウインドバレット!』
『ブレイズアロー!』
『パラライズ!』
『ウォーターレイン!』

バチッ──!

男には見えないが、渚には見えるウインドウがあった。

[所在不明の力により、レベルが上がります]

[レベルが上がります][レベルが上がります]
[レベルが上がります][レベルが上がります]
[レベルが上がります][レベルが上がります]
[レベルが上がります][レベルが上がります]
[レベルが上がります][レベルが上がります]
…………。

大量のウインドウ。
渚が処理出来るギリギリのレベルまで増え続けるログ。

そして──。

























[転移前スキルが活性化します]
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