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異世界転移編

58話 新居

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二人が出ていくと、先程まで猛獣よりも恐ろしい表情をしていたモノから一転。

まるで部屋の電気でも切ったように穏やかな表情で、ワクワクしながら奴隷たちをテーブルの上に座らせた。

「セレーヌ今日の朝ご飯は?」
「へっ?本日はいつも通り購入したお野菜とラッシュボアの炒めものです」

そうかそうかと頷くガゼル。

「そうだな、お前らも食うだろ?」

ガゼルはガル達に気軽に尋ねると、ポカンとしながらガルはその場で崩れた。

「ご主人様⋯⋯」
「え?」
「一体何処に、奴隷に貴重なラッシュボアの肉を食わせる人がいるんですか⋯⋯」

呆れたようにそう言葉をこぼすガルと、野菜を綺麗に食べ始めているガゼルの脳天気な表情。

本当に先ほどと同じ人物かすら怪しい。もはや多重人格なのではないかと疑いたくなるほどだった。

「ここにいるだろ?見えないか?善良な一般人が」

「その善良な一般人のお方が、あんな嬉嬉として門番をやるわけないじゃないですか」

「またまた~」

そうして奴隷たちと家族みたいにガゼルは美味しくご飯を平らげた。

それからいつものように午前の販売が終わり、後片付けまで完了させると、ガゼルは全員を集めて新居へと向かった。

**

到着するとすぐに「うわぁー」と、奴隷たちは都会に来た田舎者のように見上げた。

もはや女性陣はうっとりしながら数秒バグったように息を呑みながらその光景を呆然と立ち尽くすほどだった。

⋯それもそうだろう。

まず入口は鉄製の大扉。
特に汚いところはなく、触れるのも躊躇うくらいだ。

その綺麗な鉄製の大扉をゆっくりと開くと、その向こうには一際広がる風景が全員の双眸ひとみに染み渡った。

まるで銀色の糸を織り交ぜたような美しさでまっすぐ延び、道はなめらかな石畳が敷かれていて、足元には微かな光を放つ魔法のような模様が所々浮かんでいた。

実際に歩いてみると、その光は足の負担を軽減するような魔法が掛かっている。 その石畳の上を通ると、歩きやすい感触がそれぞれの身体に行き渡り、まるで空の上を歩いてるような感覚にさせた。

外の景色とはまるで違い、遠くには昼にも関わらず夜空が広がっている。

⋯⋯しかしここで広がっている夜空は、通常の夜空とは一線を画す。

地球で見えるような星座などが見え、実際に見えるよりも星々は大きく輝き、それぞれが異なる色調でこちらを見守るように優しい輝きを放っていた。

見える白っぽい光が星座を作っている。

ペガスス座やオリオン。

他にも"地球にも無い"紫色の星座らしきモノが、まるで銀河のようなパターンを描いている。

 そんな全員に映る光景は、まるで世界中の宝石で飾られた天蓋のようで、魔法の想像力によって生み出された美しい存在しない幻想の世界の1部のようだ。

 実際に進んでいくと、足元に広がる道は遠くに行くほど細く見え、歩く者をその遠くさに引き込む程あまりの美しさに朦朧としかけるほど。進むにつれて、魔法によって創り出された空間のお陰で、精神がまるで神の寵愛でも受けたかのような心地よさを全員が感じた。
 
 微風が吹くが、その風は暖かく、やわらかな流れを持ち、この家が入ってくる者達を向かい入れる心地よさを運んできているようだった。この広がる別世界は、幻想と夢が溢れるような場所のようで、映り込む美しさに言語表現が何も思いつかないものがある。

この長い道を歩きながら、心は悟ったように幻想に包まれ、その美しさに感動しながら進み終えた。

「ここがこれから住む俺達の家だ」

 ガゼルがそう言うが、誰も言葉を発しない。
これだけ美しかった道を過ぎたら、今度は異世界とは思えない、都心部にあるようならオフィスビルのような建物が映る。
 
 しかしその前には貴族の邸宅を思わせるような庭園が広がっていた。異世界には無い⋯⋯桜の花が優雅に咲き誇り、まるで異世界の魔法でも使ったように彩られていたようだった。

ガゼルは咲き誇る桜風を軽く浴びると、穏やかに笑みを浮かべた。

 桜の庭園は広いとは決して言えないが、桜の木々が慎ましく配置され、その一つ一つが上品な雰囲気を醸し出している。 風が再度優しくそよぎ、桜の花びらが舞い踊る様子は、まるで自然そのものがこの場所に精霊すら引き寄せそうな庭園になっていた。

慎ましさと上品さが見事に調和したこの庭園に一同が穏やかそうに笑い、ゆっくりと通り抜けた。

 オフィスビルのような入口。
全員がキョロキョロしている中、ガゼルは当たり前のように中へ入って行く。

⋯⋯一瞬見る人によっては完全に勘違いしてしまう。

都心部にある大手企業の超モダンなオフィス玄関に踏み入れると、奴隷たち一同はまさにーー異世界の扉を開いたような気分になった。

足元の大理石はピカピカ光っていて、⋯⋯まるで魔法のような輝き。そびえ立つ壁は、まるでファッションブランドのショールームみたいなおしゃれ感が漂ってすらいる。

⋯⋯緩やかに進む。

すると目の前に現れたのは高級リゾートのフロントのような受付。上品な大理石が使われたカウンターの上では、スマイルの魔法をかけた受付嬢が奴隷たちを歓迎しているかのような錯覚を起こしたほどだった。

「ご主人様⋯⋯こっ、ここは!」

ガルが止まらない瞬きの中、ガゼルは当たり前のように、

「ここが今日から俺達が住む家だぞ?こんな事で驚いては──やってらんねぇぞ?」

ニヤケながらガゼルはそのまま受付前にある上品なソファにドサッと腰をおろす。

「間取りどうだったっけ?」

ガゼルは独り言を呟いて周りを見直す。

'確か⋯⋯'

この受付の後ろは螺旋階段があって、2階に続く階段だったはず。全部で3階まで作ったんだよな。

数十人っていう想定で作ったんだけど、途中で我慢できなくって俺の会社をそのまま持ってきたんだったな。

左にはリビング兼食堂。
右には風呂場とリフレッシュルームだったはず。

2階から上は、寝る部屋とゲストルーム。
そんで貴族でも再現不可能な地球という文明の力を利用した耐震、防水、防火対策は勿論、明らかに不自然な形ではあるが、魔法でただの城のような見た目からのこれだから、皆驚くよな。

⋯⋯うんうん。

「よし、そしたら全員、一旦休憩しよう」

ガゼルはそう言ってソファの上で仰向けになりながら軽く一眠りをしようとしていた。
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