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異世界転移編
56話 落ちこぼれ商人
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「お願いします!お願いします!」
「どうか!」
家の前で恐らく30手前の男二人が、縮こまって懇願の声と共に土下座をしている姿だった。
見たところそれぞれ二人とも、小太りという程ではないが、そこそこ肉が付いている。
服装も貧相な雰囲気を感じる訳ではない。
'どうしたものか'
ガルは二人の服装を見てなんとなく予想していた。
'この刺繍⋯⋯'
恐らく商人だな。
この刺繍に見覚えがある。
確か⋯⋯あ、サレック商会だったかな。
そうガルが脳内で名前が出たところで、すぐにサレック商会に関連しているイベントが尋常じゃないペースで湧き上がってくる。
しかもそれに加えて、ガルの顔は苛々しているのか、鬼気迫るような圧迫感すら漏らしていた。
サレック商会⋯⋯。
ガルは檻の中にいたときの会話を思い出していた。ある時の会話だ。
サレック商会の主人である『ブッサ』という男が自分を買おうとしていた事。そして本来はガゼルよりも先に、ブッサが購入まで済ませていたのにも関わらず、ガゼルがその倍出すと言って自分がここにやってこれたという事をーー今思い出した。
'しかも、商会の長のブッサは、かなり悪い方面で噂が絶えない'
報復か?復讐か?気に入らないからとご主人様にまで危害を⋯⋯?
見ていたガルの両手は、無意識に力がこもっていた。
'事が起こる前にさっさと'
ガルは、その姿を見て追い払わねばとすぐに二人の襟元を掴もうとした。
最初、厳しく退かそうとしたのだが、何度も何度も動かそうにも⋯⋯巨大な岩のように何をやってもここから離れそうもない二人に諦めが入っていた。
諦めが入ったガルはセレーヌに耳打ちをする。
(どうしますか?)
(困ったね)
一部始終を見ていたセレーヌもお手上げという笑みをガルに小さく見せた。
「すみません、いくら頭を下げられても、ご主人様に会わせる訳には⋯⋯」
遠慮気味にそう声を掛けるガルの言葉をかき消すように二人の懇願する声が響く。
'参ったな⋯⋯'
この状態が続いてもう3時間弱だった。
そろそろやれる対応に困っていた時に、商店の方から見覚えのある人物が小走りでやってくる。
主であるガゼルだった。
「どうした?二人とも」
「ご主人様!」
ガルはすぐにガゼルに駆け寄って経緯を話す。
聞き終わると、「なるほど」⋯⋯と、ガゼルは1回頷く。
実は、この間の侵攻の被害で一番重かったのは遠方から来ていた商人たちだった。
地元で活動している商人たちは商材のやりくりや回収する手筈は整っている状態だが、遠方からやって来ていた商人たちは⋯⋯軒並み商材を無くし、帰り道の金すら奪われていたのだ。
'補償金も一応出ていたはずだが?'
ガゼルはすぐにギルドの連中と話していた事を頭に浮かべる。
まぁ当たり前の話だが、類を見ないほど被害だったわけだから多少の補償金が出てもおかしくないし、色んな観点から、出ないと生活が困窮するのなんか目に見えているはずだ。
'それも棒に振ったのか?'
ガゼルは土下座をする二人に向かって、
「お前たち、名前は?」
と、無表情な声色で尋ねた。
「わ、私はガスパルと申します!」
「私はカスパルと申します!」
二人の言葉を聞いたガゼルはガルとセレーヌを手招きで『家に入れ』と仕草でみせた。
ガルとセレーヌは指示だから頷いたものの、少し困惑した表情も見せている。
先に入った二人に続いて、ガゼルも扉を開けて家の中へ片足を突っ込む。
しかし負けじと二人は大声を張り上げる。
「どうか!!」
「明日」
「⋯⋯?」
「朝また来い」
ガゼルはそう言って扉を閉めた。
二人は一瞬のことに目を交わした。
全くもって驚きを隠せなかったが、まだ可能性があるということだとすぐに理解してそそくさと街の方へと帰っていった。
「どうか!」
家の前で恐らく30手前の男二人が、縮こまって懇願の声と共に土下座をしている姿だった。
見たところそれぞれ二人とも、小太りという程ではないが、そこそこ肉が付いている。
服装も貧相な雰囲気を感じる訳ではない。
'どうしたものか'
ガルは二人の服装を見てなんとなく予想していた。
'この刺繍⋯⋯'
恐らく商人だな。
この刺繍に見覚えがある。
確か⋯⋯あ、サレック商会だったかな。
そうガルが脳内で名前が出たところで、すぐにサレック商会に関連しているイベントが尋常じゃないペースで湧き上がってくる。
しかもそれに加えて、ガルの顔は苛々しているのか、鬼気迫るような圧迫感すら漏らしていた。
サレック商会⋯⋯。
ガルは檻の中にいたときの会話を思い出していた。ある時の会話だ。
サレック商会の主人である『ブッサ』という男が自分を買おうとしていた事。そして本来はガゼルよりも先に、ブッサが購入まで済ませていたのにも関わらず、ガゼルがその倍出すと言って自分がここにやってこれたという事をーー今思い出した。
'しかも、商会の長のブッサは、かなり悪い方面で噂が絶えない'
報復か?復讐か?気に入らないからとご主人様にまで危害を⋯⋯?
見ていたガルの両手は、無意識に力がこもっていた。
'事が起こる前にさっさと'
ガルは、その姿を見て追い払わねばとすぐに二人の襟元を掴もうとした。
最初、厳しく退かそうとしたのだが、何度も何度も動かそうにも⋯⋯巨大な岩のように何をやってもここから離れそうもない二人に諦めが入っていた。
諦めが入ったガルはセレーヌに耳打ちをする。
(どうしますか?)
(困ったね)
一部始終を見ていたセレーヌもお手上げという笑みをガルに小さく見せた。
「すみません、いくら頭を下げられても、ご主人様に会わせる訳には⋯⋯」
遠慮気味にそう声を掛けるガルの言葉をかき消すように二人の懇願する声が響く。
'参ったな⋯⋯'
この状態が続いてもう3時間弱だった。
そろそろやれる対応に困っていた時に、商店の方から見覚えのある人物が小走りでやってくる。
主であるガゼルだった。
「どうした?二人とも」
「ご主人様!」
ガルはすぐにガゼルに駆け寄って経緯を話す。
聞き終わると、「なるほど」⋯⋯と、ガゼルは1回頷く。
実は、この間の侵攻の被害で一番重かったのは遠方から来ていた商人たちだった。
地元で活動している商人たちは商材のやりくりや回収する手筈は整っている状態だが、遠方からやって来ていた商人たちは⋯⋯軒並み商材を無くし、帰り道の金すら奪われていたのだ。
'補償金も一応出ていたはずだが?'
ガゼルはすぐにギルドの連中と話していた事を頭に浮かべる。
まぁ当たり前の話だが、類を見ないほど被害だったわけだから多少の補償金が出てもおかしくないし、色んな観点から、出ないと生活が困窮するのなんか目に見えているはずだ。
'それも棒に振ったのか?'
ガゼルは土下座をする二人に向かって、
「お前たち、名前は?」
と、無表情な声色で尋ねた。
「わ、私はガスパルと申します!」
「私はカスパルと申します!」
二人の言葉を聞いたガゼルはガルとセレーヌを手招きで『家に入れ』と仕草でみせた。
ガルとセレーヌは指示だから頷いたものの、少し困惑した表情も見せている。
先に入った二人に続いて、ガゼルも扉を開けて家の中へ片足を突っ込む。
しかし負けじと二人は大声を張り上げる。
「どうか!!」
「明日」
「⋯⋯?」
「朝また来い」
ガゼルはそう言って扉を閉めた。
二人は一瞬のことに目を交わした。
全くもって驚きを隠せなかったが、まだ可能性があるということだとすぐに理解してそそくさと街の方へと帰っていった。
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