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異世界転移編

48話 予想外と確信

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神宮寺がうつ伏せに倒れてから数分後。

「⋯⋯っ」
「神宮寺くん!まだ安静にしてて!」

神宮寺は倒れてからすぐに救急隊によって勇者陣営まで速やかに運ばれ、回復を済ませて安静にしていた。

どういう事だ?
⋯⋯いや、気絶してポーションで回復して安静にさせられてるってところか。

「ごめん葵ちゃん。今、順番は誰かな?」
「今は橋本くんがやってる」

横たわりながら神宮寺は戦っている中央に目を向けた。

既に訓練は進んでおり、現在は役職のない王国騎士団の一人と、剣聖である橋本が戦いを繰り広げていた。

'いいぞ、アイツは剣聖だ。アイツがそのまま攻撃の手を緩めなければ⋯⋯!!'

「勇者橋本!これで終わりだ!」

橋本和也。

転移前の実績で主な能力はーー陸上種目で全国1位という大記録を残したかつて若き天才と呼ばれていた少年。

優れた反射神経と脚力。そして転移前スキルによる圧倒的運動能力が彼の剣聖という職業の力を遥かに強くさせた。

ブンッ!!

橋本の首を狙って相手騎士がかなりの速度で剣を横に振りぬいた。

⋯⋯しかし。

「やるな」
「いや、たまたまっすよ!」

橋本は持ち前の身体能力でかなりの速度を誇る横の払いをバックステップで下がった。

「しかし甘いぞ」
「⋯⋯ん?」

騎士の男は、既にバックステップで下がっていた橋本へ追撃を始めていた。余裕の笑みを見せる騎士の男をみた橋本はすぐに焦りをみせる。

ダンッ!

騎士の男はすぐに橋本と離れた間合いを詰め、剣を右上に構える。

「⋯⋯!」

橋本はすぐにいなす為に騎士を捉えながら剣を真ん中に置く。

'習った事だと⋯⋯王国の剣術は右上から来ることが多いって書いてあったぞ?'

橋本の瞳は通常の感覚よりも遥かに遅く動き始める騎士の剣捌きを捉えていた。

[職業スキル:剣聖の予知]

これは地球で言うところの第六感のようなモノ。自分の時間感覚が変わり、ゾーンに入った感覚を与えられるモノである。

'やっぱり右上からの斬りおろしがメインかな'

そうこうしている間に、後退している橋本のバックステップに騎士は追いつき、すぐに右肩の上から剣を左腰へと斜めに振り下ろし始めていた。

しかし剣聖の予知で橋本はその動きがゆっくりと見る事ができて、同時に反撃の一撃を頭の中で考えついた橋本はーーすぐにソレを実行した。

「終わりだ──勇ーー」

高らかに声を張り上げていた騎士の言葉がそこで途絶えた。

わずか一瞬の出来事。

音もなく風を切って、橋本の剣は騎士の鎧を全て破壊し、表面には一瞬で何度も何度も連続で斬りつけられたような剣痕が残されていた。

「スキル:虚空双月斬」

完全に音を無くし、自然と全てが一体になったような斬撃を繰り出す剣聖の秘技の一つ。

月のような軌道を描くような斬撃。

時間制限は4秒ほどだが、持ち前の職業スキルである"剣聖の予知"とこのスキルを合わせればーー一瞬で音もなく斬り捨てることも可能だ。

騎士は息する暇なくバタンと魂の抜けた人形のように倒れ、瞬の静寂の後──その場には大きな拍手と喝采が巻き起こった。

「橋本ー!やるじゃねぇか!神宮寺さんの1個下の二軍だけどな!」
「うるせぇ!」
「橋本よくやった!お前は俺達の英雄だ!」

勇者陣営からは大歓声が巻き起こり、騎士団の方からも素直な言葉が橋本に投げられていた。

「勇者様も成長なさった!」
「俺達も抜かされないようにしないとな!」

悔しさは全面に出てはいるものの、少なくとも勇者たちを褒め称えることは欠かさなかった。

「へへっ、危ねぇ~」

橋本が一礼してから陣営に戻っていく。
階段を降りる途中、次の試合を控える一人の少年とすれ違う。

「あれっ?鈴鹿じゃん!頼んだぞ、俺はお前をダークホースだと思っているからな」

'コイツは集団演習の時、俺と他2,3人ほどしか合格者がいなかった持久走にも受かっていた。みんなはあまり気付いていないようだったが、隠れた才能を確実に持ち合わせている!'

鈴鹿の肩に手を置いて頼んだぞという気を込める橋本。

「おう、ありがとな橋本!」

そう錬は橋本と言葉を一言二言交わし、そのまま階段を登っていった。

**

「来たか」
「はい、陛下」

中央を見渡せる二階席から眺めているゴルドと陛下。

「あれが、お前が言っていた例の男だな?」
「仰る通りです、陛下。そしてもう一人⋯⋯天道梓という女性勇者で間違いありません」

顎髭を触りながら喜びを隠しきれない陛下の笑みが中央の演習場に向く。

「さて、実力を見せるかは分からぬがーー我が王国騎士団を舐めているようなら、ここで子供の戯言を吹き飛ばしてやれ」


--中央演習場


「お前が俺の訓練相手か?」
「ん?」

錬が中央に到着すると、遅れて一人の騎士がゆったりとこちらへ向かってきているのが目に入った。

錬は特に感情の機微は表情には出さず、悟ったように落ち着いた瞳でその騎士を見つめた。

'他の騎士たちとは少し違うな'

輝くミディアムブロンド。
主人公の側近のような見た目をしている正しく騎士って感じの男が錬の前に現れた。

「初めまして、私はクラウス・ロベルトだ」
「鈴鹿錬」

互いに握手を交わす。
しかし握手をしているものの、目線は互いに威圧を掛けるように火花が散っていた。

'まっ、それ相応に頑張ってます雰囲気出してれば問題ないだろ'

「そんじゃ」

'コイツが鈴鹿錬か。団長に言われた通り一筋縄ではいかないようだな'

「あぁ、いい合同訓練になるよう期待している」

錬とクラウスはそれぞれ端によって合同訓練開始の合図を待った。

「お互い、剣は持っていますね?」

合図を出す人間が必要科目を確認していく。

「それでは、始めますよ?⋯⋯訓練開始!」
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