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異世界転移編

44話 E級ダンジョン〈終〉

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『おい!』

一人のクラスメイトの一声で、地獄のような雰囲気から歓声が上がるはず⋯⋯だった。

神宮寺が率いる集団は、クラスの中でも一番二番を争うメンバー達が集まった強者揃いのパーティーだったからだ。誰もが"失敗"の二文字は無く、のほほんと帰還するものだと思っていた。

しかしそんなクラスメイト達の予想を大きく覆す。

『え?』
『どういう事?』
『あの⋯⋯神宮寺さんたちが?』

地獄の雰囲気は更に加速した。
面々の顔付きが更に闇に落ちていくのが見て取れるほどだ。

しかしそれもそのはず。

クラスメイト達から見える数人の姿は、血だらけになりながらも仲間を抱き抱える姿。
暗い表情のままダンジョンの入口を通ってくる三人の姿だから。

「天道殿」

待ちかねていたと言わんばかりにゴルドが梓達にすぐ駆け寄った。

「仲間達を」

梓は冷静に死体となった数人を目で示し、ゴルドもすぐに察して部下に連れていかせた。

「おい何してる!なんの為の救急だ!!」

ゴルドが珍しく怒号を周りの全員に向かって言い放った。それは天道達への慰めかというほどに、どこか寂しそうな表情でそう言い放っている。

「結果を聞こうか?」

ゴルドの言葉に、梓達は事の顛末を伝えた。

クラスでも指折りの実力者のほとんどを失い、代わりに神宮寺の経験値を大幅に上昇させたこと。

そして、実は三層ではなく、本当は"5層"近くあったということ。

神宮寺はとても喋れるような状態ではなく、代わりに梓が全て報告を入れた。

「以上が持ち帰った情報でした」

梓の報告を聞いていたクラスメイト達の表情が青ざめるどころか、生気すら危ういような状態だ。

神宮寺を含めた上位陣の中には特殊職業持ちが数人もいたという事実。ゴルド達もかなり世話していたところを考えればそれがかなり大事だということがすぐ理解できる。

『団長』

部下の一人がゴルドに耳打ちをする。

(念の為確認しましたが、どの死体も本物です)
(そうか)

ゴルドはそのまま話を続けようとしたところで、部下がもう一つと付け加えた。

(どうした?)
(いえ、しかしどうやら救護班の様子がおかしいんですよ)

部下の言葉にゴルドの眉がピクッと無意識に上がる。

(どういう事だ?勇者殿達の精神面もある。端的に話せ)
(確認して欲しいのがーー"本当に魔物に殺されたのか"ということです)

ゴルドは一旦話を飲み込み、部下を下がらせる。

「勇者の皆さん!」

そう声を張り上げると、全員が急いで立ち上がって綺麗に整列し、真っ白な生気を失った瞳がゴルドに向かう。

ゴルドは内心頭を抱えた。

'これで明日から終わったな'

軽いふるいにかけるつもりだったんだが⋯⋯これはやりすぎだな。

今は整列をしてくれているのだろうが、明日からまともに動いてくれるだろうか?自殺なんてやりかねない圧すら感じる。

珍しくはないが、出来るだけ避けたい。

「今日は皆さんにとってもいい勉強になったと思います!明日からは今日の出来事を忘れずに精進を怠らないように!」

"はい!"

そう返事をなんとか返したクラスメイト達。

「帰りはゆっくりお休みください!それくらいの事は私達が保証しますので!」

ゴルドなりの優しさを見せたつもりだったが、返事をかえすクラスメイト達の表情は完全に死んでいた。

もはや嬉しいのか嬉しくないのかわからない程に。

そしてそれからすぐに帰還準備が始まった。
せわしなく全員がそれぞれの作業に入る。

完全に暇になったゴルドも他の班の手伝いでも入ろうと動こうとした時。

「梓!」
「何よ?」

ゴルドは少し先くらいのところでこちらへ理解できない仕草を見せて立っている梓と、いつもヘラヘラしている錬が一所懸命止めている場面を目にした。

'天道殿?'

ゴルドは疑問を抱く。

やはり、何かあるな。

「馬鹿っ!さっさと敬礼をやめて戻るぞ!」
「あっ」

自分のしでかした事にすぐに気付き、慌てて他のところに戻る梓と錬。

それからすぐに帰還準備が整い、全員が宿舎への道へとついた。

**

「神宮寺くん!」
「⋯⋯あぁ、葵ちゃんか」

それからかなり時間が経った帰り道の途中、神宮寺の周りには女達が蛍光灯に虫が集まるかのように群がっていた。

「大丈夫?」
「あぁ」
「ダンジョンでは災難だったね」
「あぁ、ありがとう」

神宮寺は大分座り心地の悪い帰路を進みながら、頬杖をついて夕日を眺めていた。

結局、育てた駒が消えた。勿体無かったな。

マルチヒーラーにデュアルエレメント⋯⋯だっけ?貴重な戦力が一気に消えてしまった。これからは二軍や三軍レベルの奴らにも気を遣っていかないと。

それから女達への対応と今後についてのことを並行して考えていたが、ここ最近疲労が抜けていない事に気付いた神宮寺はーーここで一旦一眠りしようと目を閉じた。

それにしても──。

目は閉じたが、浮かぶのはクラスメイト達の顔とゴルドの帰り際に話していた言葉を思い出していた。

あの感じーーもうこれから結構なスパンで始まる気がする。そんな語気の強さを少し感じた。

俺が想定するよりも早くまたこうやって攻略を始めるのだとすれば⋯⋯金で遊んでいる場合ではない。

神宮寺は誰にも話していないアイテムボックスを覗く。

実はスキルに関しては自己申告制だ。
言葉を聞いた俺は最初はラッキーだと舐めていた。てっきり勇者は特別扱いで、善良な心を持っているからなんだと。

しかし現実はもっと恐ろしかった。

嘘を見抜くというスキルを持つ誰かがそれを問い、答えた一人の勇者が嘘を付いたという事がその場でバレたことがあった。

特別罰則等の事故はなかったが、その後はそのスキル持ちの相手に全ての質問をされる事になったんだ。

だが上手い事質問内容を抽象的に広げて上手く躱し、俺はこのスキルを騙し通している事に未だ成功している。

[スキル:アイテムボックス]

コイツは俺の持つどんなスキルよりも生存に役立つスキルだと痛感している最中だ。

ヲタクの一部が同じスキルを持っており、効果はライトノベルと言われるジャンルで広く広まっているらしい。

今の所俺のレベルではこのアイテムボックスは最大限使いこなせてはいない。

しかし今のままでも十分な効果を発揮してくれている。

時間経過は無し。
広さはまだ2,3畳位の広さだが、劣化がなく、装備や食事を全て保存できるというのは神がかっている。

アルテミス様に感謝したいところだ。

そして。
一応既に買い手は付いている。

あぁ、ゴブリンメイジの杖の話だ。

中央貴族派閥の大きな一角であるーーラーレンス家。

公爵であるゲイムは俺とかなり性格が合った。
貴族の特権と俺の勇者特権を使い、極秘に会食を行った。

その結果、ゴブリンメイジの杖をエサに、金の交渉と立場の保証の取引を既に済ませている。

⋯⋯契約書だってあるからな。

出来るだけ早く金をもらって武器やスキルロールと呼ばれる魔導具やダンジョン産アイテムを入手しなければ。

神宮寺はそんな事を考えながら、気付けばいつもの宿舎まで寝落ちしていた。


           ***

⋯⋯王宮入口。
そこに一人の大男が一際覇気を放ちながら中へ入っていく。

「あれ?ゴルド様!」

王宮に入ると豪華な机と受付の女性が数人座って事務仕事をしている。

気付いた一人の女性の言葉から他の受付嬢も一斉にゴルドへと目を輝かせて誰が受付をするか競い合っていた。

「あはは」

ゴルドは何をしているのかを理解して苦笑いを浮かべている。

やはり貴族というのは人気なんだな。

一人で頷くゴルド。しかし今日は少し急いでいた為、ゴルドは申し訳なさげに声を掛ける。

「すまない、陛下に急ぎで面会の連絡を数時間前に入れたはずなんだが⋯⋯可能か?」

ゴルドの問いに慌てて一人の受付嬢が急いで反応した。

「失礼しました!玉座の間にてお待ちです!」
「いや、色々君たちも理由があるだろうから仕方ないさ」

そう爽やかに横を過ぎ去るゴルド。その背中が消えたあと、受付嬢達は「キャー」と黄色い声を上げる。

「やっぱり私達平民の気持ちも理解してくださる唯一のお方よ!」
「そうねぇ!奥様が羨ましいー!」

**

「王国騎士団長ゴルド様が入室します!!」

玉座の門を守っている門兵二人が力強い大声で発する。

その数秒後には大扉が開く。
ゴルドの顔はドンドン玉座の間の光が当たっていき、堂々とその中へと踏み入れた。

「ゴルドよ、突然どうしたのだ?面会がしたいなんてーーいつぶりだ?」

50歳ほどの容姿。
異世界のせいかギリギリ40後半と言われてもいいくらいの若々しさを保つ男が、豪華な玉座で足を組んで威厳に溢れた双眸でゴルドを見下ろしている。

「ハッ!」

ゴルドはそう一言声を上げてから綺麗に片膝をつき頭を下げた。

「第一王国騎士団長ゴルド、陛下にご挨拶を申し上げます」
「よい、そんな畏まるでない。余との関係柄、そんなに堅い挨拶ではこちらが困ってしまう」

軽い微笑みをゴルドに向けながらそう話す陛下。

「失礼しました」
「それで?用件はなんじゃ?お主の事だーー大事なことだろう?」

その言葉から少し沈黙が訪れる。
10秒程空けたゴルドがニヤリと口元を綻ばせる。

「陛下、今回は大収穫です」

ゴルドは豪快な語気とともに笑みを陛下に向けた。
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