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異世界転移編
35話 嫉妬に燃える勇者
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カァン──!
次の日。
またも大地から放たれる素人丸出しの攻撃を真上へと綺麗に打ち上げる。
『また大地くんから一本取ってる⋯⋯凄い』
『でも大地君もかなり成長してるよ!』
『アンタは大地が好きなだけでしょ!』
召喚されてから相変わらず人気な神宮寺達一軍。
⋯⋯確かに。
パッと俯瞰してみると、かなり目立つ容姿のレベルはしている。
神宮寺のような金髪イケメンは日本ではかなり限られ、大地のようなイケメンと親しみやさを兼ね備えた男も限られる。
だが、そして権力と金。
それがやはり一番だろう。
今の環境からすれば、日本にいた時と比べればーー寧ろ何もないまである。
しかし、圧倒的に普通の人間より多くの物や知識を享受している神宮寺だったが、爽やかに大地や他の取り巻き達と会話をしているように見えたが⋯⋯。
──その腹の中側は、最大レベルに憤慨していた。
「龍騎!やっぱすげぇな!」
「そんなことないさ」
俺は神宮寺龍騎──。
『じ、神宮寺くん!』
「どうした?」
「こ、これ!」
一人の女子生徒達からタオルを貰う神宮寺。貰った神宮寺は爽やかな笑みを返す。
「ありがとう!」
「そ、そんなことないよ!」
神宮寺が貰ったタオルで顔を拭きながら少し離れると、女子生徒達が嬉しそうに小声で会話をブツブツしていた。
「⋯⋯⋯⋯」
見て貰えればわかる通り⋯⋯まぁ俺はモテていると思う。
すまん、自慢のつもりはなかった。
召喚されてからこの一ヶ月と少しの時間。
まぁ最初は戸惑った。
スキル?職業?
そんなドラ○○みたいなシステムで成り立つ世界って⋯⋯一体どうなんだ?なんて思ってた頃が懐かしい。
今じゃ、起きたら魔法鞄から冷たいままで保存されている水を取り出して口に含むという地球では考えられなかった事をやり出しているのが答えといえるだろうか。
最近流行りのアニメをまぁまぁ人並み以下くらいは見ていたので、何となくは理解出来ていた。
実際現実で魔法なんていう概念が存在していることや職業で自分の人生価値や設計の方向性だったりが生まれてからすぐ決められてしまうんじゃ話にならないとすら思ったというのが本音だ。
⋯⋯こんなモノが何故流行るのかが俺には理解できない。
とまぁ、今は昨日から引き続き木剣での実戦想定した手合わせと言ったところだ。正直自分のレベルに合う人材があまりいない。
これも勇者という職業のせいかは分からない。
ただ異常にレベルの上がり方が半端ではない事は明らかだ。
そして今は勇者レベル31というこの世界では中々のモノらしい。
どうやらまだ魔物と戦っていないということを踏まえると凄まじいらしい⋯⋯そうゴルド団長が言っていた。
ただ木剣を使用しての鍛錬や筋トレをしているだけで簡単にレベルが上がる。
⋯⋯まぁ明らかに普通ではないというのは俺にも十分理解できる事だった。
素直に有り難いよ。
人生をイージーゲームに変えてくれるんだから。
まぁそんでーー。
神宮寺の視線の先には、一人の女子生徒。
「龍騎?ま~た天道さんを見てんのか?お~い」
あーエロい。
いや、すまん。突然凄いことを口走った。
当然こんな感じの世界だ。結論を言うと俺はすぐに順応出来ていると思う。
クラスの連中も初期とは違って⋯⋯いろいろな重要性にすぐに気が付いて職業能力の検証だったりスキルのレベルアップを図る者達も随分と増えた。今じゃ適当に生活している奴らのほうが少ないくらいだ。
⋯⋯そんな中。
俺達勇者達でも唯一どうにもすることができなかった事がある。
性欲と食欲、そして睡眠という三大欲求だ。
それを全員が体感で理解できるまでにそこまで時間必要としなかった。
中世という時代で、娯楽など無い。
地球ほど食のレベルも高くない。
地球ほど生活レベルが高くない。
いくら知識ややり方が分かっていようと、貴族達の介入や金儲けの邪魔が入るとどうしょうもない。クラス中の人間が人質であり、自分もその一人だからだ。
だから内輪で派閥を組み上げて行くしかーー俺達に生存というカテゴリは厳しいものがあった。
─「神宮寺くん!」
─「もう一回!」
特に俺達男女の勇者が揃っていると、性欲の方が大変だ。
全員がそれぞれ違う部屋で一発違う男や女としまくり始めるという⋯⋯それはもう獣かと思うくらい露骨にそういう事件は頻発し始めた。
特に俺を含めたいつも仲良くしている連中達はわかりやすかった。
俺で言うと、クラスの7割くらいの女とは一夜を過ごしている。
⋯⋯今では毎日リピーターでウハウハだ。
やはり性に開放的だと、我慢しろと体が言うことを効かなくなってくる。
今もそう。ムラムラが止まらなくなってくる。
「龍騎~?」
「あっ、何でもない」
カァン──!
男女関係なく自分の駒のように動かせているのに、俺のことが嫌いなのかーー言うことを聞かない奴が数人いる。
一人は天道梓。そして鈴鹿錬。
最後に火円慈恵梨香と平、橋本。
クソッ!表向きには話を出来ているから余計イライラする。
クラスの中でもアイツらが一番凄い体してるのに。
あ~ヤりてぇ~。
神宮寺の目線は完全に天道や火円慈の胸ばかりに向いている。
どうやったら自分の物に出来るんだろうか。
ああいうタイプの女を落として自分の奴隷にしたい。
心の中の神宮寺の表情は酷く歪んだ顔をしている。
少しずつ神宮寺の中でそういう支配の気持ちが膨れ上がっていた。
*ーー弱体化
「梓?」
「今確認中だから黙っててちょうだい」
同じく次の日の夜、クラスメイト達が寝静まった頃。
監視を掻い潜って少しだけ離れにある見晴らしの良い丘で二人ーー背筋を整え、胡座を組んで両目を閉じながらお互いに発していた。
彼らが行っているのは──瞑想に見える修練。
彼らは地球にいた時から。
大自然に囲まれた山々の中。
濁りの無い大海の前でも。
暑さしかない一面砂漠しか無い海外でも。
⋯⋯彼らは己の体の中で流れている気を巡らせ、集中し、操作する事に没頭する。
傍から見ればその姿はまるでヨガみたいだ。
⋯⋯そう思う者も少なくない。
やっている事自体は目には何も見えない物質的な事ではないからだ。
全身に流れる大量に濁っている気を永遠にろ過させていく。
聞けば聞くほど、ろ過。
それは泥水から日本の極めて良質な水へと進化させていく作業その物。
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
絶えず操作を行う彼らの身体からは大量の汗と臭い異常な離乳食のような柔らかい変なモノがギリギリまで少なくした軽装の上からでもわかるくらい浮き上がっていた。
その正体は身体にあった老廃物や濁らせている様々な原因のある細かい要因たち。
この作業は常人には困難を極める。
正しい教えを持っていない者が中途半端に指導などすれば──操作している本人は内傷を負ったり、最悪の場合命を落とす事だってある。
だが彼らは死ぬ事はない。
指導した男は"あの"男だからだ。
二人の体内がほんの少し、極小の単位の動きを見せる。
ろ過していく。
何処までも、何処までも。
この作業で使われる本来の言葉は"浄化"である。
"人間には不要な物が多すぎる"
人間の器は本来──美しく限界というものは無かったとある男が残した手記に書かれている。
筋肉、独自の方法。
人間は知能が高かった。
様々な方法で己を高める方法を古より見つけてきた。
それが現代の地球でも数多くのことが先人達によって編み出されたものである。
具体的な事など上げる必要もない。
読んでいる皆が考えているほとんどがーー先人達が作ってきた物だろう。
故──ドンドン道から逸れていってしまった。
スピリチュアルだの、目覚めよだの言わている昨今。
紛い物が並べられている中、本当の意味でのスピリチュアル要素がこの修練だ。
⋯⋯様々な人間達が恐れたーーある人種とあるバックに付く種族のせいで。
良質な気を通すには良質な器でなくてはならない。その為の浄化という器を作っていく作業になる。
「梓、俺の気が滅茶苦茶な事になってるんだけど⋯⋯もしかして」
そんな錬の疑問にすぐに梓が遮って言葉を発した。
「ええ、私達ーー大幅どころではない弱体化をしているわ」
汗と老廃物の汚物まみれの中、梓は難しい気の操作で険しい表情を見せながら不満の口調で言葉を零した。
「だよな?修羅もまるで使える気がしない」
「というか、私が全くムラムラしなかった理由が──まさか浄化済みはおろかーー若の体液が入って無かったからだったなんて」
真顔でそう呟く梓。
「それは気のせいだ」
溜息混じりの錬は馬鹿にしたように挑発気味にツッコむ。すぐに梓は言い返そうとするが、操作を誤りそうになったのか無言で没頭した。
美しい地球で見るような月とは少し変わった形状。
似ている形だが似て非なるもの。
異世界の満月が二人がいる暗闇の丘を照らす。
一心に夜風を浴び、地球では当たり前のように感じていた濁った毒物だらけの煙とは違って澄んだ空気を吸い込み、特殊な一定のリズムと長さで身体の中で極小の雫が枯れた喉を潤すように丹田へと1滴入り波紋を起こす。
すぐに二人は自分が最初に取り組んだ時とは違って上手く行ったことを確信した。
あれだけ時間がかかった作業を一ヶ月と少しで初期段階へと至れたこと。
それが目を瞑りながらも緩んだ表情をしながら夜風を浴びる姿がそれを物語っていた。
広がった良質な気の波紋はすぐに身体に変化をもたらす。
波紋は丹田付近の動きを多く促す。
まずは丹田に貯めても問題ないような丈夫さを得ていくのだ。
─「良いか?初期が来れば丹田は丈夫に。そして細胞の強化が始まる」
二人の表情が一気に険しく緊張感が高まる。
これから一度のミスも許されない。
初期段階というのは最初の設定である。
最初の設定である箇所をしくじればーーすべてがおじゃんだ。
─「慎重に。変化が訪れた時は、全力で痛みに耐えろ。気の操作を維持したまま死ぬ気で変わると己を信じろ」
錬と梓の表情は全力で丹田周辺に感じるまるで幾度も刃物で刺されたような衝撃を今まさに耐えている。
耐えている二人の表情は血管が浮き上がるほどだ。
「「カッ⋯⋯!!!!」」
同時に吐血する。
─「吐血は丹田に溜まっている最後の毒と老廃物を血となって出ていく為に起きる最後の工程だ。絶対に吐け。流れが一周天すれば、その内更に丈夫になる。丹田がより良くなっていく感覚はすぐに分かる」
二人の脳裏には、最初に挑戦した時の言葉を思い出していた。
「「すぅ⋯⋯」」
次第に痛みは消えていき、丹田付近の感覚か変わっていくのがすぐに分かる。
⋯⋯少し重くなったようなそんな感覚。
─「それが終われば、一旦終わらせてすぐに風呂に入れ。体が臭すぎておそらく耐えられない」
「「お前臭っっっ!!!」」
互いに互いを指差しながら全力で嫌そうに吠えた。
「〈清潔使えた?錬」
「いや、使えん。だがーー」
錬が懐から人差し指を挟みながら取り出したのは1枚の紙。そこには謎の言語が何行もつらつらと書かれている不思議な紙だ。
「あら?それは⋯⋯確かスキルスクロールだったわよね?」
スキルスクロール。
それは下級から上級までの全ての魔法を紙一枚を破ることで、例え魔法が使えなくとも擬似的に使用出来るというモノ。
しかしこれはダンジョンや錬金術のような特殊な職業でなければ手に入らない。従って金額は勿論最低でも日本円で50万辺り。
「パクッた」
「あんた泥棒したの?」
梓が呆れた口調でボヤく。
「いいだろ?どうせ使わねぇんだろうからさ」
「まぁいいわ。お願い」
すぐに錬はスクロールを破いて上に向かって放り投げた。
「ちょっと、アンタ⋯⋯範囲がある中級にしたわけ?バレたら面倒な事になるわよ?」
「バレねぇから問題ないよ」
「本当?」
怪しそうに何度も確認を取る梓。
そうこうしていると身体に付着していた汚れが跡形も無く消えていく。
⋯⋯まるで最初から無かったように。
「ふぅ、臭いが消えたわね。本当凄いわよね~コレ。やっぱスクロールってバカ高いの?」
「当たり前だろ。なんで安いと思ってるんだ」
背後に置いていた上着羽織りながらを二人は他愛のない会話を数回やりとり、そのまま着替え終わると夜空を見上げた。
2分ほど無言で見上げたあと、静かに梓は言葉を発した。
「どう?」
「ん?体か?」
目でうんと合図を返す梓。
「器は完成してるから、あとはーー日々気をためていく作業をするしかないかな」
「そう」
「どうしたんだよ。そんな不安な顔して」
タイミング良く強めの風が梓の髪を靡かせた。
⋯⋯それは夜でも輝く月の女神かと思うほど美しくも何処か儚げに見える17歳の大人の入り口に近付いていた女性の顔だった。
「若は、こっちに来てるのかな」
「多分そうだろ。ガゼルって若のゲームの名前じゃねぇか。きっとそうだろう」
「会いたい」
「そりゃ、俺もだ」
無言で見上げる二人。
静寂になったこの空気のまま数分が経った後。
「戻りましょうか」
「だな」
そう言って二人は無言のまま静かに寮へと帰った。
そしてそこから2,3日が経過し、いよいよダンジョンに潜る日が訪れた。
次の日。
またも大地から放たれる素人丸出しの攻撃を真上へと綺麗に打ち上げる。
『また大地くんから一本取ってる⋯⋯凄い』
『でも大地君もかなり成長してるよ!』
『アンタは大地が好きなだけでしょ!』
召喚されてから相変わらず人気な神宮寺達一軍。
⋯⋯確かに。
パッと俯瞰してみると、かなり目立つ容姿のレベルはしている。
神宮寺のような金髪イケメンは日本ではかなり限られ、大地のようなイケメンと親しみやさを兼ね備えた男も限られる。
だが、そして権力と金。
それがやはり一番だろう。
今の環境からすれば、日本にいた時と比べればーー寧ろ何もないまである。
しかし、圧倒的に普通の人間より多くの物や知識を享受している神宮寺だったが、爽やかに大地や他の取り巻き達と会話をしているように見えたが⋯⋯。
──その腹の中側は、最大レベルに憤慨していた。
「龍騎!やっぱすげぇな!」
「そんなことないさ」
俺は神宮寺龍騎──。
『じ、神宮寺くん!』
「どうした?」
「こ、これ!」
一人の女子生徒達からタオルを貰う神宮寺。貰った神宮寺は爽やかな笑みを返す。
「ありがとう!」
「そ、そんなことないよ!」
神宮寺が貰ったタオルで顔を拭きながら少し離れると、女子生徒達が嬉しそうに小声で会話をブツブツしていた。
「⋯⋯⋯⋯」
見て貰えればわかる通り⋯⋯まぁ俺はモテていると思う。
すまん、自慢のつもりはなかった。
召喚されてからこの一ヶ月と少しの時間。
まぁ最初は戸惑った。
スキル?職業?
そんなドラ○○みたいなシステムで成り立つ世界って⋯⋯一体どうなんだ?なんて思ってた頃が懐かしい。
今じゃ、起きたら魔法鞄から冷たいままで保存されている水を取り出して口に含むという地球では考えられなかった事をやり出しているのが答えといえるだろうか。
最近流行りのアニメをまぁまぁ人並み以下くらいは見ていたので、何となくは理解出来ていた。
実際現実で魔法なんていう概念が存在していることや職業で自分の人生価値や設計の方向性だったりが生まれてからすぐ決められてしまうんじゃ話にならないとすら思ったというのが本音だ。
⋯⋯こんなモノが何故流行るのかが俺には理解できない。
とまぁ、今は昨日から引き続き木剣での実戦想定した手合わせと言ったところだ。正直自分のレベルに合う人材があまりいない。
これも勇者という職業のせいかは分からない。
ただ異常にレベルの上がり方が半端ではない事は明らかだ。
そして今は勇者レベル31というこの世界では中々のモノらしい。
どうやらまだ魔物と戦っていないということを踏まえると凄まじいらしい⋯⋯そうゴルド団長が言っていた。
ただ木剣を使用しての鍛錬や筋トレをしているだけで簡単にレベルが上がる。
⋯⋯まぁ明らかに普通ではないというのは俺にも十分理解できる事だった。
素直に有り難いよ。
人生をイージーゲームに変えてくれるんだから。
まぁそんでーー。
神宮寺の視線の先には、一人の女子生徒。
「龍騎?ま~た天道さんを見てんのか?お~い」
あーエロい。
いや、すまん。突然凄いことを口走った。
当然こんな感じの世界だ。結論を言うと俺はすぐに順応出来ていると思う。
クラスの連中も初期とは違って⋯⋯いろいろな重要性にすぐに気が付いて職業能力の検証だったりスキルのレベルアップを図る者達も随分と増えた。今じゃ適当に生活している奴らのほうが少ないくらいだ。
⋯⋯そんな中。
俺達勇者達でも唯一どうにもすることができなかった事がある。
性欲と食欲、そして睡眠という三大欲求だ。
それを全員が体感で理解できるまでにそこまで時間必要としなかった。
中世という時代で、娯楽など無い。
地球ほど食のレベルも高くない。
地球ほど生活レベルが高くない。
いくら知識ややり方が分かっていようと、貴族達の介入や金儲けの邪魔が入るとどうしょうもない。クラス中の人間が人質であり、自分もその一人だからだ。
だから内輪で派閥を組み上げて行くしかーー俺達に生存というカテゴリは厳しいものがあった。
─「神宮寺くん!」
─「もう一回!」
特に俺達男女の勇者が揃っていると、性欲の方が大変だ。
全員がそれぞれ違う部屋で一発違う男や女としまくり始めるという⋯⋯それはもう獣かと思うくらい露骨にそういう事件は頻発し始めた。
特に俺を含めたいつも仲良くしている連中達はわかりやすかった。
俺で言うと、クラスの7割くらいの女とは一夜を過ごしている。
⋯⋯今では毎日リピーターでウハウハだ。
やはり性に開放的だと、我慢しろと体が言うことを効かなくなってくる。
今もそう。ムラムラが止まらなくなってくる。
「龍騎~?」
「あっ、何でもない」
カァン──!
男女関係なく自分の駒のように動かせているのに、俺のことが嫌いなのかーー言うことを聞かない奴が数人いる。
一人は天道梓。そして鈴鹿錬。
最後に火円慈恵梨香と平、橋本。
クソッ!表向きには話を出来ているから余計イライラする。
クラスの中でもアイツらが一番凄い体してるのに。
あ~ヤりてぇ~。
神宮寺の目線は完全に天道や火円慈の胸ばかりに向いている。
どうやったら自分の物に出来るんだろうか。
ああいうタイプの女を落として自分の奴隷にしたい。
心の中の神宮寺の表情は酷く歪んだ顔をしている。
少しずつ神宮寺の中でそういう支配の気持ちが膨れ上がっていた。
*ーー弱体化
「梓?」
「今確認中だから黙っててちょうだい」
同じく次の日の夜、クラスメイト達が寝静まった頃。
監視を掻い潜って少しだけ離れにある見晴らしの良い丘で二人ーー背筋を整え、胡座を組んで両目を閉じながらお互いに発していた。
彼らが行っているのは──瞑想に見える修練。
彼らは地球にいた時から。
大自然に囲まれた山々の中。
濁りの無い大海の前でも。
暑さしかない一面砂漠しか無い海外でも。
⋯⋯彼らは己の体の中で流れている気を巡らせ、集中し、操作する事に没頭する。
傍から見ればその姿はまるでヨガみたいだ。
⋯⋯そう思う者も少なくない。
やっている事自体は目には何も見えない物質的な事ではないからだ。
全身に流れる大量に濁っている気を永遠にろ過させていく。
聞けば聞くほど、ろ過。
それは泥水から日本の極めて良質な水へと進化させていく作業その物。
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
絶えず操作を行う彼らの身体からは大量の汗と臭い異常な離乳食のような柔らかい変なモノがギリギリまで少なくした軽装の上からでもわかるくらい浮き上がっていた。
その正体は身体にあった老廃物や濁らせている様々な原因のある細かい要因たち。
この作業は常人には困難を極める。
正しい教えを持っていない者が中途半端に指導などすれば──操作している本人は内傷を負ったり、最悪の場合命を落とす事だってある。
だが彼らは死ぬ事はない。
指導した男は"あの"男だからだ。
二人の体内がほんの少し、極小の単位の動きを見せる。
ろ過していく。
何処までも、何処までも。
この作業で使われる本来の言葉は"浄化"である。
"人間には不要な物が多すぎる"
人間の器は本来──美しく限界というものは無かったとある男が残した手記に書かれている。
筋肉、独自の方法。
人間は知能が高かった。
様々な方法で己を高める方法を古より見つけてきた。
それが現代の地球でも数多くのことが先人達によって編み出されたものである。
具体的な事など上げる必要もない。
読んでいる皆が考えているほとんどがーー先人達が作ってきた物だろう。
故──ドンドン道から逸れていってしまった。
スピリチュアルだの、目覚めよだの言わている昨今。
紛い物が並べられている中、本当の意味でのスピリチュアル要素がこの修練だ。
⋯⋯様々な人間達が恐れたーーある人種とあるバックに付く種族のせいで。
良質な気を通すには良質な器でなくてはならない。その為の浄化という器を作っていく作業になる。
「梓、俺の気が滅茶苦茶な事になってるんだけど⋯⋯もしかして」
そんな錬の疑問にすぐに梓が遮って言葉を発した。
「ええ、私達ーー大幅どころではない弱体化をしているわ」
汗と老廃物の汚物まみれの中、梓は難しい気の操作で険しい表情を見せながら不満の口調で言葉を零した。
「だよな?修羅もまるで使える気がしない」
「というか、私が全くムラムラしなかった理由が──まさか浄化済みはおろかーー若の体液が入って無かったからだったなんて」
真顔でそう呟く梓。
「それは気のせいだ」
溜息混じりの錬は馬鹿にしたように挑発気味にツッコむ。すぐに梓は言い返そうとするが、操作を誤りそうになったのか無言で没頭した。
美しい地球で見るような月とは少し変わった形状。
似ている形だが似て非なるもの。
異世界の満月が二人がいる暗闇の丘を照らす。
一心に夜風を浴び、地球では当たり前のように感じていた濁った毒物だらけの煙とは違って澄んだ空気を吸い込み、特殊な一定のリズムと長さで身体の中で極小の雫が枯れた喉を潤すように丹田へと1滴入り波紋を起こす。
すぐに二人は自分が最初に取り組んだ時とは違って上手く行ったことを確信した。
あれだけ時間がかかった作業を一ヶ月と少しで初期段階へと至れたこと。
それが目を瞑りながらも緩んだ表情をしながら夜風を浴びる姿がそれを物語っていた。
広がった良質な気の波紋はすぐに身体に変化をもたらす。
波紋は丹田付近の動きを多く促す。
まずは丹田に貯めても問題ないような丈夫さを得ていくのだ。
─「良いか?初期が来れば丹田は丈夫に。そして細胞の強化が始まる」
二人の表情が一気に険しく緊張感が高まる。
これから一度のミスも許されない。
初期段階というのは最初の設定である。
最初の設定である箇所をしくじればーーすべてがおじゃんだ。
─「慎重に。変化が訪れた時は、全力で痛みに耐えろ。気の操作を維持したまま死ぬ気で変わると己を信じろ」
錬と梓の表情は全力で丹田周辺に感じるまるで幾度も刃物で刺されたような衝撃を今まさに耐えている。
耐えている二人の表情は血管が浮き上がるほどだ。
「「カッ⋯⋯!!!!」」
同時に吐血する。
─「吐血は丹田に溜まっている最後の毒と老廃物を血となって出ていく為に起きる最後の工程だ。絶対に吐け。流れが一周天すれば、その内更に丈夫になる。丹田がより良くなっていく感覚はすぐに分かる」
二人の脳裏には、最初に挑戦した時の言葉を思い出していた。
「「すぅ⋯⋯」」
次第に痛みは消えていき、丹田付近の感覚か変わっていくのがすぐに分かる。
⋯⋯少し重くなったようなそんな感覚。
─「それが終われば、一旦終わらせてすぐに風呂に入れ。体が臭すぎておそらく耐えられない」
「「お前臭っっっ!!!」」
互いに互いを指差しながら全力で嫌そうに吠えた。
「〈清潔使えた?錬」
「いや、使えん。だがーー」
錬が懐から人差し指を挟みながら取り出したのは1枚の紙。そこには謎の言語が何行もつらつらと書かれている不思議な紙だ。
「あら?それは⋯⋯確かスキルスクロールだったわよね?」
スキルスクロール。
それは下級から上級までの全ての魔法を紙一枚を破ることで、例え魔法が使えなくとも擬似的に使用出来るというモノ。
しかしこれはダンジョンや錬金術のような特殊な職業でなければ手に入らない。従って金額は勿論最低でも日本円で50万辺り。
「パクッた」
「あんた泥棒したの?」
梓が呆れた口調でボヤく。
「いいだろ?どうせ使わねぇんだろうからさ」
「まぁいいわ。お願い」
すぐに錬はスクロールを破いて上に向かって放り投げた。
「ちょっと、アンタ⋯⋯範囲がある中級にしたわけ?バレたら面倒な事になるわよ?」
「バレねぇから問題ないよ」
「本当?」
怪しそうに何度も確認を取る梓。
そうこうしていると身体に付着していた汚れが跡形も無く消えていく。
⋯⋯まるで最初から無かったように。
「ふぅ、臭いが消えたわね。本当凄いわよね~コレ。やっぱスクロールってバカ高いの?」
「当たり前だろ。なんで安いと思ってるんだ」
背後に置いていた上着羽織りながらを二人は他愛のない会話を数回やりとり、そのまま着替え終わると夜空を見上げた。
2分ほど無言で見上げたあと、静かに梓は言葉を発した。
「どう?」
「ん?体か?」
目でうんと合図を返す梓。
「器は完成してるから、あとはーー日々気をためていく作業をするしかないかな」
「そう」
「どうしたんだよ。そんな不安な顔して」
タイミング良く強めの風が梓の髪を靡かせた。
⋯⋯それは夜でも輝く月の女神かと思うほど美しくも何処か儚げに見える17歳の大人の入り口に近付いていた女性の顔だった。
「若は、こっちに来てるのかな」
「多分そうだろ。ガゼルって若のゲームの名前じゃねぇか。きっとそうだろう」
「会いたい」
「そりゃ、俺もだ」
無言で見上げる二人。
静寂になったこの空気のまま数分が経った後。
「戻りましょうか」
「だな」
そう言って二人は無言のまま静かに寮へと帰った。
そしてそこから2,3日が経過し、いよいよダンジョンに潜る日が訪れた。
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