なんか黄金とかいう馬鹿みたいなスキルを得たのでダラダラ欲望のままに金稼いで人生を楽しもうと思う

ちょす氏

文字の大きさ
上 下
81 / 91
二章

21話:魂に生きる伝説(3)

しおりを挟む
屋敷を逃げ出し数日間、貴方はびくびくしていました。
スコットランドヤードの追っ手を警戒して逃げ惑い、イーストエンドの路地裏を徘徊し、場末の木賃宿にしけこんで。
財産と呼べそうなものは古い画帳と僅かな持ち金だけ。
警吏けいりの追跡と捕縛に戦々恐々、生きた心地がしない数日を経たのち、様子を見に戻った貴方を出迎えたのは予想外の光景でした。
スタンホープ伯爵の屋敷はすっかり燃え落ちていました。
跡地には煤けた骨組みだけが残り、あたり一帯に焦げ臭い匂いが漂っています。

エドガーたちはどうした。
何故屋敷が燃えてるんだ。

数分後、街角で買い求めた大衆新聞で真実を知りました。貴方の殺人は何故かエドガー氏の犯行とされていました。
動機は画家の将来を断たれた怨恨。
親子の確執は周知の事実。
結婚前夜に伯爵を呼び出したエドガー氏は、話し合いの決裂に逆上して衝動的に父親を殺害後、屋敷に火を付け命を絶った。
新聞には行方不明の関係者として貴方の名前も出ていました。

ジョージィ・ポージィ・プティング・パイ、貴方には何もない。

いえいえ何もないは言い過ぎました、手元に画帳が遺されていますもんね、お母上と弟君の形見となった画帳が。

開けない?
あれからずっと封印してたんですか。

スタンホープ伯爵家は途絶えました。いま名乗りでたら貴方のひとり勝ちですねえ、いかに貴族といえ亡き弟君の許嫁と添わせるようなあこぎなまねはしないでしょうが……。
うるさい。黙れ。知った口を利くな。そういうわけにもまいりません、契約はすべからく履行せねば。
どうして開けないんですか。ご自分の罪と向き合うのが怖い?血文字で恨み言でもしたためられてたらびびりますもんねェ。
宜しい、僕が見守っていてさしあげます。遠慮会釈なく良心の呵責なく、早く捲ってごらんなさい。
……なんですその顔は。ちょっと見せて……あれっ貴方のじゃありませんね、エドガー氏の画帳だ。
ははあん、同じ銘柄だったんで取り違えちゃったのか。修羅場の只中で署名を見落としたのでしょうね、粗忽な弟君だ。

捲る。捲る。捲る。
描いてあるのはどれも同じ顔、あらゆる角度からスケッチした貴方の寝顔が画帳を埋め尽くしています。

ドジか故意かどちらでしょうね。
弟君が貴方と正反対の善良な人間なら、お母上の肖像を描いた画帳を渡そうとしたのかも知れません。
弟君が貴方とよく似たエゴイストなら、最期に恋文を贈ろうとしたのかもしれません。
阿片窟のベッドに座したエドガー氏は、貴方の寝顔を独り占めし、鉛筆をすり減らしました。

僕ね、思うんですよ。
エドガー氏は貴方に利用された事に気付いてたのかもしれない。だけど好きだから、知ってて知らないふりをした。
エドガー氏はモルグに通い、解剖学を実地で研修しました。その過程で人体の構造に纏わる造詣を深めたなら、父の死体にナイフを刺し、犯人に成り代わる事もできたでしょうね。
仕上げに火を放てば証拠隠滅完了、貴方は晴れて自由の身、大手を振ってお天道様の下を出歩けます。全く見事な作戦じゃあないですか?

アトリエには沢山キャンバスがあった。
煉獄にくべる支度はできている。

エドガー氏は最初から気付いてたんじゃないですか。
だからおかしくなっちゃったんじゃないでしょうか。
恋する人が自分に見向きもせず父親に抱かれていたら、復讐に走りたくもなりますよね。

まだわかりませんか。

エドガー氏は貴方を庇った。
最愛の親友を守り抜いて死んだのです。

当代の伯爵と嫡子が死ねば、爵位は庶子にいく。
貴方は一生贅沢し、本当に好きな絵だけを描いて暮らせる。

スタンホープ伯爵は頑健な御仁ごじんで当分死にそうにない、長男が妻を娶っても爵位の継承は当分先。
自分が屋敷に引き入れたせいで、愛しい貴方が飼い殺しの慰み者に貶められるのは耐え難い。

察するに貴方を犯したのは……やめましょ、無粋ですね。

そろそろ閉館です。ジョージィ・ポージィさんもお帰りください。どこに帰ればいいかわからない?そんな事言われても困ります。
そうですね……何処にも行き場がないというなら、エドガー氏が埋葬されたお墓に参られたらいかがでしょうか。お勧めはしませんけど。僕って昔っから教会と相性悪いんですよねえ。

そうそう忘れてました。驚異の部屋は慈善活動じゃありません、観覧料はきちんと頂きます。

お代は記憶。

ワン・ツー・スリー……お目覚めですか。
貴方は誰?
オリバーさんとおっしゃるんですか。良いお名前で。
お母上はオリヴィアさんというんじゃありませんか?
そりゃあわかりますよ、オリヴィアの息子はオリバーと昔から相場が決まってるんです。
此処は何処?見世物小屋です。
あのドアを開けて真っ直ぐ進んでください。くれぐれも帰り道をお間違いなく、道端で寝たら凍え死んじゃいますよ。


さようなら。


……ふー、行っちゃった。
これで満足でしょ、約束はちゃんと守りましたよエドガーさん。本ッ当悪趣味ですね、緞帳の内側でずっと立ち聞きしてたんでしょ。可哀想に、すっごい落ち込んでたじゃないですかお兄さん。

まあね。いいんですけどね。
僕は僕を必要とする人のもとに現れる、昔からそうきまっていました。
炎上する屋敷のアトリエにて、自らの腹をナイフで突いた貴方の願いは、彼の記憶の抹消でした。
なるほど、実の父殺しの記憶は彼には重すぎる。悪ぶっていても根は善人です。ましてや腹違いの弟を見殺しにしたとあっちゃ、ね。
自分を責めて責めて責め抜いた挙句安酒に溺れて体を壊し、名前を忘れてしまってもおかしくありません。
それに……真冬の路上で酔い潰れたのを自殺と断じるのは、さすがに行き過ぎでしょうかね。

努々ゆめゆめ誤解なさらず、此処に来た時点じゃ一切記憶をいじってません。
彼が名前を忘却したのは、ひとえに彼が彼であり続ける現実に耐えきれなかったせいですよ。

死んだあとまで身内の心配をしてあげるなんて、貴方ときたら救い難いお人好しだ。
己の魂を担保にお兄さんの名前を取り戻し、引き換えに記憶の一部を奪い、罪を清算した。

どのみち地獄で帳尻が合うようにできているのに、ね。やっぱり人間は愚かで愛い。

取引は成立しました。
我が永久とこしえの主に誓いエドガー・スタンホープの兄、オリバー・スタンホープの殺人の記憶を封印しました。

代償は魂……と言いたい所ですけど、気が変わりました。火事場からこっそり持ち出した絵をもらいます。

どうするって?
飾るんですよ。

僕は神様や天使と違い、自分の都合で約束を破ったりしません。
アトリエで唯一布に覆われていたキャンバス、彼が見ることなく逃げた絵。

真っ黒。
漆黒の闇。

貴方の唯一にして最大の心残りは、彼に捧げる絵を描き上げられなかった事だ。
理由は簡単、必要な画材が手に入らなかった。
でも大丈夫、心配ご無用。此処をどこだとお思いで?貴方が探し回った画材は驚異の部屋に展示されています。
あそこの小瓶です、さっきオリバーさんが掏ろうとした……きらきら光る砂が入った。
さあ、絵を完成させてください。
黒い絵の具をキャンバス狭しと塗りたくり、まだ乾かない塗料の上に光る砂を塗して。

できた。
あの日見た倫敦の星空。

なんでも好きなものを描いてと乞われ、オリバーさんはページを塗り潰しました。
貴方はそれを、あの夜ふたりで見上げた星空だと思ったんですね。

二人の囚人が鉄格子から外を眺めた。 一人は泥を見た。一人は星を見た。
アイルランドの詩人、フレデリック・ラングブリッジの有名な詩です。

貴方は彼の中に星を見た。とびきり美しい星を。
それでいいじゃないですか。

オリバーさんがどうなるか?それは神のみぞ知る領分で、僕の関心事じゃありません。
でもまあ悪いようにはならないんじゃないんですかね、愛が重たいスケッチが手元に残ってるし……。

約束が違うって?
スケッチも消すって言ったじゃないか?

やだなあ見損なわないでくださいよ、いくら僕だってそんな野暮じゃありません、人の恋路を邪魔するヤツはユニコーンに蹴られて死んじまえっていうでしょ。

……やっと静かになった。やっぱりこうじゃなきゃ、博物館で騒いじゃいけません。

そういや表題タイトルを聞きそびれました、エドガーさんてばうっかりなんだから。
『倫敦の夜』『泥と星』。う~んしっくりきません、『ジン四分の一オンスに血を一滴』?
しかたない、オリバーさんには寿命を全うしだいまた来てもらいましょ。
エドガー氏が描いた絵をオリバーさんが名付ける。最初で最後の共同作業、亡者と亡者の合作です。
ていうか無事帰れたかな、そろそろ目を覚ましてる頃だけど。
凍死寸前で意識が混濁してなきゃご案内できないから、ラッキーっちゃラッキーだったんですけど。

此処は驚異の部屋ヴンダーカンマ―
お客様は迷える魂、蒐集するのは人間の記憶。
またのお越しをお待ちしております。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。 ってことは……大型トラックだよね。 21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。 勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。 追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

処理中です...