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二章
18話:SS級冒険者(2)
しおりを挟む⋯⋯かなりの距離があったはずだ。
それが何故──
マックスの眼前には、真っ白い炎を纏わせる紅里の姿が映る。
奴が前へ踏み出してから、約0.9秒。
そして、俺の反応が後少し遅かったら──
「危なかった」
「⋯⋯?」
化物か?コイツ。今、避けなかったら⋯⋯俺はあのワンパンで死んでたぞ?
マックスの職業は──SS級冒険者に相応しい"影の支配者"。影があればどこでも移動でき、暗殺なんかの奇襲に最も向いている職業だ。
大剣を使っていたのは、ブラフのためでもあるし、そもそも生まれた時は剣ばかり使っていたのがあるからだ。
「影に隠れて距離を離したってのに──」
そう言いかけた時にはもう⋯⋯マックスの背後に高速で移動していた。
「クッソ!」
拳の乱打が弧を描いて何発もやってくる。マックスは一応、予知に似たスキルを所持しているからギリギリで捌いてはいれているが、それも時間の問題。
なんてやつだ!!
突然速度が変わりやがった!
俺が見た時の速度じゃねぇ!
一撃避け空振る。しかし一発一発が即死級の轟音が空を切って、マックスも心臓がらしくない不規則な鼓動がする。
「チッ⋯⋯!」
マックスのステップに合わせて紅里もインファイターのように懐に潜ってボディブローを狙う。
こんな状況だ──さすがのマックスも中々手が出せない。
こんなもん、向こうでもなかなかいねぇ!
「影の瞬間移動!」
影の瞬間移動。
少量の魔力を消費し、熟練度次第で移動できる距離が変わる。
移動場所の択は多岐に渡る。
故に過信している節がマックスにはあった。
──まさか読まれているだなんて。
マックスが少しズレた場所に現れる1秒前。
紅里の両眼から漏れでる白い炎が移動先の場所へギロッと向く。
「⋯⋯っ!!」
その時、まさに影から出ようとしていたマックスは白い炎が溢れる眼光がこちらを見ていたことに生まれて初めて恐怖した。
オイオイオイ⋯⋯!!
一度、二度、四度飛ぶ。
だが、それを追う鋭い白い炎の軌跡が既に移動先のマックスを捉える。
「Oh my GOD」
まずいぞ。いくら手加減してとはいえ、このレベルの攻撃力と対人能力を持つ冒険者だとは全く思っていなかった。
ドゴッ。
来るか──。
白い炎が揺らめき、瞬き一回の内にゆらりと炎は一気に距離を縮め、蹴り上がった紅里は両腕に白炎を纏わせる。
星の囁きに身を委ね、遠い夜空から力を招く。
双獅の如く、怒りと勇気を我が腕に通せ。
落ちる星、獅子の咆哮、次元を切り裂く閃光となれ。
天を貫き、地を這わせる、白き炎は全てを浄化す、至れ、全ての者よ。
"白炎・星落双獅閃"──。
白い炎が二匹の蛇を絡みつかせるように動き、急降下してはマックスの眼前で巨大な白炎の波がマックスの全身を熱くさせる。
「「⋯⋯?」」
だが。あの時煌星が使えたのは⋯⋯オドが大量にあったから出来ただけであり。
なんだ⋯⋯? ただの一発か?
ここで白炎を使うには、オドの消費量が桁違いすぎた。前回技が使えたのは、吸収したオドを使用しただけに過ぎず、
「終わりかっ!?」
ギョッとした紅里は即座にマックスの攻撃を避けに回る。
「どうした!? さっきまでの威勢は!」
もうその前借りは残弾残り僅か。
白炎を維持するだけで精一杯だった。
ズサーッと後ろへ吹き飛び、顔を上げたときには既に同じく殺す気で小剣を振り下ろしており、腕を交差させてSS級冒険者の一撃をギリギリでガントレットで防ぐ紅里。
マジかっ!!
なんで!? なんでオドが使えないんだ?
「どうしたぁ!? クールタイムでもあるのか?」
まずい、途端に力の差が開いた。
ステータスを上げたのに、全く反映されてない気がする。もしかして、このステータスとこっちのシステムでは──違うって事か?
ばかッ!! このクソシステムが!
もう一度奴が振り上げる。幸いスキルで読めているが、振り下ろしがガントレットに当たったその時──全身から嫌な感覚が湧き上がった。
バキッ。
「⋯⋯ッ!!」
即座に身を翻して一気に距離を離す。
俺の足元では、パラパラとガントレットが粉々になって地面へと落ちていっている。
危ない。もし少しでも油断していたら、俺の腕は斬られていた。マジで危うかった。
腐っても──奴はSS級冒険者ってわけか。
力も、スキルも、職業も。
「オイオイ終わりかっ!? さっきまでクソ強くなってたのに、急にどうしちまったんだ?」
イキりきっていたのは謝罪だな。
あのシステムは悪くない。俺がSS級冒険者を侮ってナメ腐っていたからこんな事になったんだ。
俺も大概だな。
なんだよ、色んな人と関わってきて自分が強くなった気でもいたから。
そうだよな? 本来、SS級冒険者なんて天上人みたいなもんだ。お前の言うとおりだよ。
たかが金持ちに憧れきった一般人だから。
まだ覚醒してからそこまで経ってない新参者だから。
分かるわかる。
自分のクソさも、全能感を味わっていた中二病感も。そうだよな?広場を見たらそれは簡単だ。
普通に過ごせるというのは贅沢であり、俺が言っていることは⋯⋯最ッ高に我儘だってことくらい。
紅里はゆっくり前歩きで迫ってくるマックスを見ながらそんな事を呟いていた。
「⋯⋯ん?」
形勢が完全に逆転したマックスは、これまた自分の状態を過信していた。
ヤロウ、何かしてやがる。
そのまま見続けていると、何か様子が変だ。
突然心臓を押さえ、苦しそうに膝をついた。
「おい、何をやってる」
「ゴホッ! ゴホッ!」
直感的に何かヤバイと感じたマックスがエレバに向かって叫ぶ。
「エレバ!!! 止めろ!! 何かやばいぞ!」
エレバ。彼女は時の彫刻士というマックスと同じくユニーク職業であり、世には顔を決して出さないと言われているが、彼女と敵対してはならないと言われている。
理由は単純。彼女のスキルは──時間を止める事が出来るから。
「スキル──」
エレバがそこまで言いかけた時、何か異変が生じ、焦りながらマックスに向けて同じく叫ぶ。
「おかしい!! スキルが使えない!」
「はぁ!? どういう事だよ!?」
「こんなこと今までなかったんだって!!」
時は何事もないように過ごしていた2週間の間。煌星はこの時、ある事をしていた。
「んー今後スキルが使えなくなった時なんかに使えるアイテムとかないかなー?」
おっ、あった。
[魂写術]、字面がヤバそう⋯⋯。
「どれどれー?」
魂写術:評価SS
必要コイン:15億コイン
(VIP効果によって値下げ)
一度だけ、30分間魂に眠る記憶に刻まれた人物を辿り、塔の力で再現させることができる塔の上層で手に入る事ができるSS級アイテム。
(レビュー12)
★ベストコメント
これまじでやべぇよ!
意識は完全に失ったんだけど、上層にいる強い人たちが一時的に宿ってミッションクリアできた!
⋯⋯絶対に価値はあると思う!
「まじかよ、この塔ってやっぱり普通じゃないよなぁ⋯⋯すげぇよ」
しかもこの記載的に代償なんかはないみたいだし、コインが必要だな。
煌星はそのままあのハンドルネーム、神星仙帝に取引のメッセージを送る。
ーーいいだろう。取引成立だ。
「ていうかこの人、すげぇ優しいよな」
やっぱ俺の力ってヤバイんだなぁ⋯⋯この人もきっとそれを流通させたくないんかなぁ?
まっ、とにかく手に入ったし、これで非常時に備えは大丈夫でしょ!
紅里の目の前には、メッセージウインドウが出ていた。
[魂写術を使用しますか?]
迷わずにはいを選択する紅里。
[このアイテムは一度しか使用できません、それでもよろしいですか?]
⋯⋯あぁ、相手はSS級冒険者だからな。
デートを邪魔したあの二人は許すマジ。
[魂写術を使用します。魂を検索し、あなたの中で最も衝撃的な人物を一時的にその身に宿ります]
**
時は煌星がアイテムを使う少し前。
観察員の一人が朝光に連絡を取っていた。
「まずいかもしれません」
『相手は?』
「SS級冒険者の二人です、ステータス的には我が神では叶いません」
スマホ越しから朝光の鼻息が漏れ出ているのが聞こえる。どうやら相当悩んでいる様子だ。
『どうするか』
「介入しても構いませんが、その後始末の方が大変では?」
『分かってる。十家門を相手にするのは非常に面倒だからな』
すると現場は突如、異変を見せる。
「朝光さん」
『おい、何が起きている? アイツらから鬼のように連絡が来始めたんだが』
⋯⋯何?あれ。
観察員の頬を通り過ぎる嫌な風。
見上げる。そこには次元の狭間が混ざったような、無限と虚無が見える。
言うならば、理の外の存在である。
「あ、あれは⋯⋯」
『どうした?何が起きている?』
「何をしたのかは分かりませんが、もしやアイテムを使用したのではないかと思われます」
『アイテムだと? 我が神はストアを使えるはずがないだろう?この世界の◇◆※^-◆※^※◇◇\@』
その時、スマホがヒビ割れを起こした。
観察員がすぐに原因を調査しようと視線を現場に向けると、ヒヤリとそよ風が全身を駆け抜ける。
その時、一種のトラウマのようなものが観察員を想起させた。
自分たちがこうなる羽目になった、一人の人間の記憶。
その者と対峙した時に感じた、あの時の嫌な感じ。
恐怖を知らない。
引く事を知らない。
負けを知らない。
神を知らない。
次第に天候が変化して、暗雲が立ち込める。
まるで歓迎するかのように円を型取り、雷が落ちた。
ドォン──!
その矛先は煌星に落ち、その一瞬自分の視界は──白髪の人間が笑い、その髪が揺れたように観察員の目には見えた。
今のは⋯⋯!?
何度も目を凝らす。
違う。そんなはずはない。
ふるふる首を振っていると、吹く風が強まり、観察員の髪が靡く。
一瞬、風が止む。
そよ風が一人の男の肩まで伸びる髪を靡かせる。
観察員は見間違えない。
いや、見間違えるはずもなかった。
自分は今、何を見ているんだと。
観察員の見る先には──白髪の男がゆっくりと前へ歩きながら、マックスの元まで向かうのが見えたのだった。
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