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二章
4話:新たな提案
しおりを挟む「これ、マジで死ぬ」
どれくらいの時間が経過したのかは知らんが、俺の頭は理解を拒んだ。
このオーディン⋯⋯いや、様はマジで永遠にやらせ過ぎだ。
人間の貧弱さを舐め腐ってる。
まぁそんな訳でもう何回目かも分からない挑戦で頭が限界地点なわけなんだけど、とりあえずなんとか講座の終わりを迎えた。
『またレンタルするのを待っている』
「ありがとうございます!」
そう言って頭を下げてお礼を言うと、自分の視界は家の中へと戻っていた。
⋯⋯マジで戻ったんだ。すげぇな
[レンタルを終了しました]
[ヴァルハラ式槍術の理解度が上昇しました]
[熟練度:2%]
え? これ、熟練度とかいうシステムくれるの? 神じゃん。
自分の体を見てみる。
特に何かが起こったという感じはしない。
まぁ、そんなすぐ変わるわけないか。
にしても、コインを一気に使っちゃったから、また資金繰りしないとな~。
あ、勿論こっちでの資金繰りもね。
*
「それでこんなふざけたアイテムが出てきたわけだね?」
五香は目の前のアイテムから必死に目を逸らしたくなっていた。
「はい、出来れば内密⋯⋯いえ、お金持ちに売りつけるというのはどうでしょうか?」
煌星くん。このアイテムを持っているということは?の意味を考えようよ。
五香の前に置かれたアイテムは一つのポーションだった。
しかしただのポーションではないの明白。
置かれているポーションは、永続的に魔力値を5程上げることのできるポーションであり、その効果を理解するとふざけたポーションだよ、全く。
五香は対処に困った。
変わってしまった現代では、魔力値を永続的に増やす事のできるポーションは存在していない。
⋯⋯つまり、このアイテムはまさに──常識外のアイテムであり、その価値は一億二億の価値などでは断じてないのだ。
ましてや、永続的にというパワーワードが原因でもある。
初心者ならまだレベルが上がって容量が増える事はあるけど、高位魔法使いたちはもうそれが無い。
⋯⋯喉から手が出るほど欲しいだろうね。
それに金持ちにも有効だ。
要は一回このポーションを飲ませれば、間違って生まれた子どもが魔力や才能に恵まれなかったとしても、それを回避する事ができる。
一体コレの価値をどうしろと?
しかもこれを渡してくるくらいなんだから、きっとアテはあるはず。
煌星くんは色々な意味でトラブルメーカーだ。
「ちなみに煌星くん、これ⋯⋯どれくらいの価値があるか分かる?」
「え? あの金と同じくらいでは?」
抑えられない溜息を漏らす五香。
駄目だ。
当人がまるで事態の深刻さに気付いていない。
価値があるのはなんとなくわかっているけれども、実際の真価までは理解していない感じだ。
武器の名店や加工なんかでギルド内に売っているものでも、ウン十億もするやつがある世界で、「魔力なんとかなるかもしれませんよ~!」なんて言ったら──一体いくらの値がつくのやら。
煌星くんはまだ新人もいいところだ。
筋はいいし、確か報告ではスキルレベル7の物もあるのだとか。
この青年の行動次第で、ウチの動きも変わるぞ⋯⋯これは。
「煌星くんはこの価値、どれくらいするか分かってるかな?」
「ある程度は」
「うん、そうだと思うんだけど、想像の倍はあると思うんだ。いくら匿名だって言っても⋯⋯財閥の金持ち連中、家門まで聞き付けに来るかもしれない。このレベルだと」
悩んでいるね。
煌星くんの悩んでいる様子を見るに、そこまであると思ってなさそうだ。
「売るのはやめておいた方がいいですか?」
「まぁそう言いたいのは山々なんだけど⋯⋯」
しかしこちらとしてはそうもいかない。
こんな物を見てしまった以上──退けないのも事実だ。
「この際どうにか身分を隠せるスキルとかあればいいんだろうけどねぇ⋯⋯」
姿形を一時的にでも変えて行けるような⋯⋯そんなスキルとかがあれば、色々都合よく行くんじゃないだろうか。
⋯⋯なんて思っていると、煌星くんはだんまりしたまま、何処か変なところを見ている。
「煌星くん?」
「⋯⋯はい!」
気のせいか? さっきからずっと、何処か違うところを見ながら話している気がする。
「あ、姿形を変えれるスキルがあれば問題ないんですよね?」
「まぁ⋯⋯そうだね、煌星くんってのがバレないなら大丈夫だと思うけど、そんな都合のいい物なんてそうそうないよ?」
懐かしい話だなぁ。
昔授業で勉強したなぁ⋯⋯。
【スキルオーブ】。
ダンジョンや踏破後の報酬として、極々稀に──スキルオーブと呼ばれるモノが出たことがあった。
具体的に言うと、そのオーブというのは食べる事ができて、食べると体にそのスキルがその人の才能の向き不向き関係なく、そのオーブにある指定のスキルを得ることができるというものだった。
まぁこの説明を聞いただけでも、スキルオーブの異常性というのは理解できるだろう。
そのスキルオーブというのは、大体現代ダンジョン指標で言うならば⋯⋯B級あたりを指すと思う。その辺からそのスキルオーブというのは出現する。
再度言うが、まぁ字面で危険なのは理解できると思うんだけど、当時、んー確か当時というのは80年前位だったと思うんだけど、当時は冒険者が今ほど溢れかえってはいない時代で、そこまで攻略済みのダンジョンは少なく、スキルオーブがまだまだ出ることなんてなかった。
というのも、当時の冒険者があまりにも弱すぎて、攻略にすらならなかった時代だったからだ、一部の凄腕冒険者と覚醒者を除いて。
そしてたまたま迷い込んだ一人の冒険者が踏破した報酬として初めてスキルオーブを貰ったんだけど──その初めてのオーブの内容がマズかった。
世に初めて出たオーブが『再生』だったんだ。
再生はそのままの意味で、傷が自動的に塞がり、まぁ言うならば、超お得スキルではある。
──だが。
初めて世に出たのがそんなスキルじゃ⋯⋯政府や金持ちの間ではダンジョンの取り合いの火付け役にしかならなかった。
これが戦争の火種になるなんてと、当時の人々は思っていたと思う。
それから手当たり次第にダンジョンを攻略させる動きと、人々の命の価値というのものが世界的みてもドンドン低くなっていく⋯⋯俗に言う『大殺戮時代』に入ったんだ。
大殺戮時代は文字通り人類の黒歴史is黒歴史。
ダンジョンで人と出くわすもんなら、その光景は不良と不良が向き合うようなもの。
一人行動をする=自殺したいやつくらいの超危険な時代とまで言われていたらしい。
そんな時代からよく少し改善したよなぁ。
とはいえ、今はその黒歴史からまだそんなに過ぎていない。またいつそんな事が起きてもまぁおかしくはないだろう。
⋯⋯煌星くんはスキルオーブを買おうとしているのだろうか? とんでもない値段がすると思うんだけど。
「どういう事かな? スキルオーブを買うとしても、値段の桁がいくつか違うはずだけど」
「ちょっと電話してみます」
そう言って煌星くんは扉の外で何やら話し始めた。
数分後、戻ってきた煌星くんは少しウキウキな顔をして座る。
「電話はどうだったの?」
「あ、知り合いに似たようなのを持っているか確認してみるっていうあれでした」
まぁそうだよね、スキルオーブなんて持ってる方がレアだよね。
「なら、販売の方は延期にしよっか?」
「そうですね、連絡も後日来るので、待ってみます!」
まぁそうだろうね、これが売れれば⋯⋯ウチとしても利益の数%だけでもとんでもない売上になるからね。
「それでなんですけど⋯⋯」
「うん?他にも何かあったの?」
てっきり、これを売る為に来たのかと思っていたんだけども。
「姿形を変えれたら、ダンジョンに向かっても良かったりしますか?」
「ん? それはまた話が違ってくるんだけど、まぁ⋯⋯断るつもりはないかな?」
実のところは否定よりだけども、これで変な事態を引き起こすのだけは駄目だ。
「分かりました! ありがとうございます!」
「うん、それじゃあね」
⋯⋯うん、煌星くんが来る日はどっと疲れるなぁ。
そう二徹した末に天井を眺める五香だった。
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