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第一章
33話:えーいお金ゲッチュ
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「なるほどねぇ」
「はい、なので⋯⋯俺自身も話せと言われても難しいところがあります」
俺の返答にギルド長は頭を悩ませている。
あれから全容を話せと言われ、大雑把な流れを説明した。ダンジョンに入った瞬間二人と離れ離れにはなってしまったことや謎のダンジョンボスと戦った事、それから報酬として手に入れた大量とまではいかないが金を手に入れた事。
⋯⋯話した流れを説明するとこうだ。
「うーん、黄河くんは二人と離れてからどれくらい経ったか知ってる?」
「え? おそらく1週間程でしょうか?」
だって感覚3日くらいだし。
「⋯⋯ヶ月だ」
「え?」
「黄河くんがダンジョンに入ってから──1ヶ月が経過している」
え? あんな短い時間しか滞在していなかったのに、一ヶ月が経過していたのか!?
「い、いやさすがにそれは⋯⋯」
「まぁ今までにユニークダンジョンとまでは行かなくても、似たケースは散々見てきているんだ。2日かと思ったら一週間は経過しているとか、今回が特別例外ってわけでもないさ。にしても、なんだよ」
「にしても⋯⋯?」
「うん、これほど長い間時間が経過していることと、当人と経過時間の感覚のズレがかなり起きていること。それからダンジョン酔いが一切起きていないこと」
「ダンジョン酔い?」
──ダンジョン酔いとは
まだ正確な事は現在の文明レベルでは解析できていない部分が非常に多くある上での一旦の結論ではあるが、この世界中にあるダンジョンには、※球との時間軸にかなりのズレが生じている。
ダンジョンにいる間との時間経過には差があり、その全てが曖昧、現在の文明レベルを持ってしても説明ができないという。
そしてダンジョンから出た時、ズレたところから戻ってきたときに生じる差に頭が理解出来ず、酷い場合は入院する者もいるほど深刻な病気認定されている。
どんなに強い者もその例外はなく、長くいればいるほど⋯⋯その症状は深刻化し、ギルドはその冒険者に対して様々な報酬や待遇の追加をしなければならない。
「聞いたことがあります。確か教本にそんなことが書かれていた気が」
「まぁ、なんとなく分かっているならいい。一ヶ月、正確には、一ヶ月と10日。それだけのズレが生じているのにもかかわらず──君は平然と歩き、平然と受け答えできている。それがおかしくて仕方ないんだよ⋯⋯僕の目から見た君は」
ギルド長の視線がとても鋭く、少し焦る。
「何か悪い事をしたような目をするんですね」
「今までにダンジョン酔いの例外者は一人としていなかったんだ。それに、僕はこう見えてもS級冒険者だ。何人もの腕っ節がある人間を始め、様々な種類の人間を見てきた。でもね、一人もそんな人間はいなかったんだ。ましてや長期間のダンジョンで平然とする人間なんて他にはいないだろうね。いたとしたら⋯⋯それこそ人体実験の対象さ、きっとね」
怖いことを言うもんだ。
「俺が話せることは話しました、今度はこちらが質問してもいいですか?」
「いいよ、何が聞きたい?」
「二人は何処ですか?」
俺が発言した瞬間、この場は凍りついたように静まった。
何?どういう事?
「二人⋯⋯っていうのは、小暮と日野の事かい?」
「はい」
ギルド長は、自分の隣にあるパソコンを取ってこちらへと画面を見せてくる。
「これは?」
「いいから見てて」
そう強引に見せられ、パソコンの画面は一つの動画が流れ始める。
どうやら映っているのは、当日の俺達三人を含めたダンジョン入口付近の監視カメラ映像のようだった。
二人が喋っているところに自分がやって来て、新山さんとお話してそのままダンジョンの入口に立つ。
「ここからだよね? 黄河くん」
「はい」
映像も俺達が入ったあの時のように、火花を散らし、結局ダンジョンに入っていった。
「これがなんだって言うんですか?」
「いいからそのまま見てて」
映像はしばらくそのまま動きがなかった。
──しかし。
⋯⋯ん?
監視カメラに動きがある。
カメラの端っこにある新山さんのテントから、新山さんご本人がダンジョンの入口へと向かっていき、最終的には入口の中に入っていったのだ。
俺は思わずギルド長を見つめ、対してギルド長は軽い頷きを何回かみせる。
「ここまでなら、不審者で終われたんだけども⋯⋯この数時間後──これを見て」
指定の時間となった映像を見ると、ダンジョンの入口に火花が飛び散り、中から新山さんが何かを持ったまま出てきたのだ。
「いや!おかしいでしょ!」
「うん、黄河くん言ってたもんね⋯⋯ダンジョンから出れなかったって」
「一番最初に試しましたよ」
「それでね、この映像を解析して、拡大処理を掛けた結果⋯⋯この持ってきていたものという中に、二人のステータスカードがあったんだ」
つまり。
「⋯⋯まさか」
「あぁ、二人は行方不明。そう表向きでは処理したんだけど⋯⋯実際、殺されたというのが正解だろうね」
⋯⋯まじかよ。
俺がダンジョンを見つけたせいで、二人も──
「君のせいじゃないよ黄河くん」
こちらの考えていることを見透かしたようにギルド長は俺に話しかけてくる。
「黄河くんが考えていることは理解できるし、無視しろというにも事がデカイ話になりつつある。だけど、これは多分⋯⋯この人物が何者かは知らないけど、これが目的だったのかもしれない。黄河くんが言わなくても⋯⋯こうなる運命だった可能性が高いんだ」
「それで、新山さんのことは調べたんでしょうか?」
「勿論、結果報告だけど⋯⋯まるで君のようだったよ」
「はい?」
「あぁ⋯⋯今のは聞かなかった事にしてくれる? まぁ、身分やその他の全てが実在している人物なんだけど、中身は恐らく別人、まぁおそらく⋯⋯プロによる犯行っていうのが今の所可能性として大きい話かな」
くっそ、俺はただ普通の生活がしたいだけなのに。
なんでこうも話がデカくなっていくんだよ。
「まぁ一旦はこの辺にして、そのユニークダンジョンで手に入れたという代物を貰おうか? 前回はナイフだったようだけど、何があるのかな?」
俺は報酬を見せて「ひゃっほー!」とは⋯⋯とてもそういう気持ちはなれなかったが、金のインゴット(20g)が大量という言葉が使われる一歩手前までが入ったマジックバックをギルド長に渡した。
「うわっ! あの時のナイフの元のインゴットか⋯⋯」
「俺も見た時はかなりびっくりしました。どうですか?」
我ながら俳優顔負けの演技力だ。
ここまで演技できるのはなかなかいないぞ?
「いやー、これさ、本当頭イカれてるよね?」
「え? そうなんですか?」
「いや知らないの? コレの価値」
まるで呆れたように言ってくるギルド長。
なんだ? 純度100%の素晴らしい金じゃないの?
「100%だから凄いんじゃなくてですか?」
「黄河くん⋯⋯そもそも100%ってあり得ないんだよ?」
「あり得ない?」
「理論上はできるのかもしれないけれど、この金は特別イカれているさ。まさか、フリマとかに出していないよね?」
ギクッ。
そんなこれヤバかったの? 既に二ヶ所ほどで売ってしまいました⋯⋯ギルド長さん。
「もしかしたら他に入れる人が居たかもしれないですからね、流通している可能性は高いんじゃないですか?」
「まぁ否定はできないけど。とにかくね? そもそも純度100%を保ったまま──存在している事が現実的に不可能という言葉を使うのに等しいくらい低い確率なんだ。
黄河くんはまだよく知らないだろうけど、現在の生産職の皆は、装備品に魔力系統の装備を使ってることがよくある、というか一般的だ。それらから見ても、このインゴット、それに⋯⋯あのナイフ。あれはもっとあり得ない」
⋯⋯まずい。まずいぞ。
「そんな純度を保ったままナイフの形状に加工? そんなの作れるなら──みんなはその人の事を""神""と呼ぶに違いないだろうね。法則が無茶苦茶だ」
神? 俺は神ではありませんが、生産者が目の前にいます。
「黄河くんはこの金をだいぶ過小評価しているようだね」
「え?」
「顔を見ればわかるよ。そんな大したことない⋯⋯とでも内心思っているみたいだ」
やべぇ、心の中を読まれているんだけど。
「コレの価値は──世界にまで広がると思うよ。ギルドで隠せるのはかなり限界レベルな代物と案件だね。既にユニークダンジョンの情報は広まってしまっているし、そこで何も入手できなかったなんてないはずなのは⋯⋯歴史を見ても明らかだ」
それはこの人言う通りだ。
だけど⋯⋯俺が手に入れたのは、意味のわからない装備や鑑定能力、そしてゲームのようなアイテムボックス機能。
説明してもきっと、正確に伝わらないことは間違いないだろうな。
「どうする? まずは君の意見を聞こうと思ってね。志遠くん」
「ん?⋯⋯誰のことですか?」
「あぁ、ごめんごめん。ちょっとさっきまで人と話していてね、呼び間違えてしまったよ」
なんだよビックリした⋯⋯急に知らない名前が出てきて焦ったわ。
「意見⋯⋯ですか」
「うん、事実これからの方針を決めるにも、黄河くんの意見次第で色々こっちも変えないといけないし。まぁ、でもどっちみち──覚悟はしないといけないだろうけど」
「と、いうと?」
「あの時、恐らく黄河くんの顔は割れたはず。少なくともこれから、かなり周囲はうるさくなるだろう。メディアってそれくらい怖いんだからね? プライバシーなんて二の次でやってくるから」
あぁ⋯⋯ダラダラ過ごしたかっただけなのに、ドンドンかけ離れていく。
「しばらくは家にいた方がいいだろうね」
「まぁ自分は、そもそも外に出るような人間ではないので⋯⋯楽なんですけど」
「あぁ、なるほど。だからライセンスを取ってから活動履歴が更新されないわけだね?」
「あ、はい」
「それなら三神くんを付けるから、しばらく三神くんに買ってきて欲しい物でも頼みなよ」
⋯⋯うえっ? 三神さん!?
「な? なんでそんな話に!?」
「あれ? 気のせいなのかな? 三神くんと仲が良いから気を遣ったんだけどな」
「ま、間違ってはいないですが⋯⋯」
三神さんと知り合ってまだそんなに経ってないし、何より⋯⋯勝手に仲良い判定してしまっていいのだろうか?
それに──
「まぁまぁ良いじゃない。美女に配達させてもらうってことで」
「は、はぁ」
「とりあえず、簡単な質問をしよっか。意見なんてなさそうな顔してそうだし」
それから簡単な質問とそれに応答するというシンプルな方法で今後の事をギルド長に任せる形になってこの話は終わった。
「おっけー、とりあえず⋯⋯君の意見をまとめると、目立ちたくない。だけど、金は欲しくて自由気ままな生活がしたい──そういう事だね?」
よくそこまで簡単なやり取りで分かりましたねぇ!ギルド長さん! いえ、五香エスパー!
「いやー簡単過ぎて笑っちゃったよ。馬鹿にしてるつもりはないから安心して?」
ん? 簡単⋯⋯?
「欲求に素直なのはいい事だ。そうだね、まずは⋯⋯この金の報酬は全売却にする?」
「あ、それでお願いします」
「了解、先程もう査定班に送ってあって、おおよその値段は算出できているからコレを確認して?」
スッと電卓を俺の前に置く。
そこに表示されていた金額は──約1億だった。
さすがの俺も、これには圧倒される。
「そうか、黄河くんはなりたてだから金額にビックリして当然かな」
「冒険者はそんな凄いんですか?」
「まぁそうかな? モンスターの売却で、これよりあることもあるよ。
ただ、査定での結果このインゴットは20gほどの重量だから、本来は3000くらいが妥当なんだけども、純度といい様々な要因を掛け合わせるとこれでも低いとも思う。だけど、色々こちらも手配しないといけないところを考えさせてもらってこの金額提示だ。もし気に入らないなら遠慮なく言ってくれ」
いや、まぁいいんじゃないの? 俺全くこんな知識ないから、よく分からん。
「大丈夫です」
「そう、ならこのまま進めさせてもらうね。次に手配していく内容が⋯⋯」
そうして俺はそこから1時間、手配内容と様々な話を交わしてギルド長と三神さんという豪華メンバーを乗せて、自宅まで送ってもらった。
「ここが黄河くんの家かい?」
「は、はい」
見れば全員が察するほど汚いアパートである。
思わず三神さんも反応に困っている様子だ。
「大学生だったことも考えるとまぁ普通じゃないかな」
「これから引っ越しも考えます」
「それが良いよ、多分君が想像しているよりも遥かにとんでもない事が起こるはずだから」
止めてくれよ⋯⋯そんなフラグを残していくの。
「とりあえず僕はギルドに戻るけど、三神くんは黄河くんの家政婦に一時的に就任だ。じゃっ、あとは任せたよ」
こちらが話す前にそそくさと車に乗り込んでブゥゥンと消えていく。
残った俺と三神さんは、お互い気まずい空気を払拭しようとしたまま何かしようとしたが、その場で立ち尽くしたままだった。
さすがに男の俺が進めないといけないなと思った俺は
「と、とりあえず一旦入りますか?」
「そ、そうですね! まだ時間夕方まで時間もありますし!」
ここからしばらく、三神さんが俺の周囲の面倒を見てくれることとなったのだった。
「はい、なので⋯⋯俺自身も話せと言われても難しいところがあります」
俺の返答にギルド長は頭を悩ませている。
あれから全容を話せと言われ、大雑把な流れを説明した。ダンジョンに入った瞬間二人と離れ離れにはなってしまったことや謎のダンジョンボスと戦った事、それから報酬として手に入れた大量とまではいかないが金を手に入れた事。
⋯⋯話した流れを説明するとこうだ。
「うーん、黄河くんは二人と離れてからどれくらい経ったか知ってる?」
「え? おそらく1週間程でしょうか?」
だって感覚3日くらいだし。
「⋯⋯ヶ月だ」
「え?」
「黄河くんがダンジョンに入ってから──1ヶ月が経過している」
え? あんな短い時間しか滞在していなかったのに、一ヶ月が経過していたのか!?
「い、いやさすがにそれは⋯⋯」
「まぁ今までにユニークダンジョンとまでは行かなくても、似たケースは散々見てきているんだ。2日かと思ったら一週間は経過しているとか、今回が特別例外ってわけでもないさ。にしても、なんだよ」
「にしても⋯⋯?」
「うん、これほど長い間時間が経過していることと、当人と経過時間の感覚のズレがかなり起きていること。それからダンジョン酔いが一切起きていないこと」
「ダンジョン酔い?」
──ダンジョン酔いとは
まだ正確な事は現在の文明レベルでは解析できていない部分が非常に多くある上での一旦の結論ではあるが、この世界中にあるダンジョンには、※球との時間軸にかなりのズレが生じている。
ダンジョンにいる間との時間経過には差があり、その全てが曖昧、現在の文明レベルを持ってしても説明ができないという。
そしてダンジョンから出た時、ズレたところから戻ってきたときに生じる差に頭が理解出来ず、酷い場合は入院する者もいるほど深刻な病気認定されている。
どんなに強い者もその例外はなく、長くいればいるほど⋯⋯その症状は深刻化し、ギルドはその冒険者に対して様々な報酬や待遇の追加をしなければならない。
「聞いたことがあります。確か教本にそんなことが書かれていた気が」
「まぁ、なんとなく分かっているならいい。一ヶ月、正確には、一ヶ月と10日。それだけのズレが生じているのにもかかわらず──君は平然と歩き、平然と受け答えできている。それがおかしくて仕方ないんだよ⋯⋯僕の目から見た君は」
ギルド長の視線がとても鋭く、少し焦る。
「何か悪い事をしたような目をするんですね」
「今までにダンジョン酔いの例外者は一人としていなかったんだ。それに、僕はこう見えてもS級冒険者だ。何人もの腕っ節がある人間を始め、様々な種類の人間を見てきた。でもね、一人もそんな人間はいなかったんだ。ましてや長期間のダンジョンで平然とする人間なんて他にはいないだろうね。いたとしたら⋯⋯それこそ人体実験の対象さ、きっとね」
怖いことを言うもんだ。
「俺が話せることは話しました、今度はこちらが質問してもいいですか?」
「いいよ、何が聞きたい?」
「二人は何処ですか?」
俺が発言した瞬間、この場は凍りついたように静まった。
何?どういう事?
「二人⋯⋯っていうのは、小暮と日野の事かい?」
「はい」
ギルド長は、自分の隣にあるパソコンを取ってこちらへと画面を見せてくる。
「これは?」
「いいから見てて」
そう強引に見せられ、パソコンの画面は一つの動画が流れ始める。
どうやら映っているのは、当日の俺達三人を含めたダンジョン入口付近の監視カメラ映像のようだった。
二人が喋っているところに自分がやって来て、新山さんとお話してそのままダンジョンの入口に立つ。
「ここからだよね? 黄河くん」
「はい」
映像も俺達が入ったあの時のように、火花を散らし、結局ダンジョンに入っていった。
「これがなんだって言うんですか?」
「いいからそのまま見てて」
映像はしばらくそのまま動きがなかった。
──しかし。
⋯⋯ん?
監視カメラに動きがある。
カメラの端っこにある新山さんのテントから、新山さんご本人がダンジョンの入口へと向かっていき、最終的には入口の中に入っていったのだ。
俺は思わずギルド長を見つめ、対してギルド長は軽い頷きを何回かみせる。
「ここまでなら、不審者で終われたんだけども⋯⋯この数時間後──これを見て」
指定の時間となった映像を見ると、ダンジョンの入口に火花が飛び散り、中から新山さんが何かを持ったまま出てきたのだ。
「いや!おかしいでしょ!」
「うん、黄河くん言ってたもんね⋯⋯ダンジョンから出れなかったって」
「一番最初に試しましたよ」
「それでね、この映像を解析して、拡大処理を掛けた結果⋯⋯この持ってきていたものという中に、二人のステータスカードがあったんだ」
つまり。
「⋯⋯まさか」
「あぁ、二人は行方不明。そう表向きでは処理したんだけど⋯⋯実際、殺されたというのが正解だろうね」
⋯⋯まじかよ。
俺がダンジョンを見つけたせいで、二人も──
「君のせいじゃないよ黄河くん」
こちらの考えていることを見透かしたようにギルド長は俺に話しかけてくる。
「黄河くんが考えていることは理解できるし、無視しろというにも事がデカイ話になりつつある。だけど、これは多分⋯⋯この人物が何者かは知らないけど、これが目的だったのかもしれない。黄河くんが言わなくても⋯⋯こうなる運命だった可能性が高いんだ」
「それで、新山さんのことは調べたんでしょうか?」
「勿論、結果報告だけど⋯⋯まるで君のようだったよ」
「はい?」
「あぁ⋯⋯今のは聞かなかった事にしてくれる? まぁ、身分やその他の全てが実在している人物なんだけど、中身は恐らく別人、まぁおそらく⋯⋯プロによる犯行っていうのが今の所可能性として大きい話かな」
くっそ、俺はただ普通の生活がしたいだけなのに。
なんでこうも話がデカくなっていくんだよ。
「まぁ一旦はこの辺にして、そのユニークダンジョンで手に入れたという代物を貰おうか? 前回はナイフだったようだけど、何があるのかな?」
俺は報酬を見せて「ひゃっほー!」とは⋯⋯とてもそういう気持ちはなれなかったが、金のインゴット(20g)が大量という言葉が使われる一歩手前までが入ったマジックバックをギルド長に渡した。
「うわっ! あの時のナイフの元のインゴットか⋯⋯」
「俺も見た時はかなりびっくりしました。どうですか?」
我ながら俳優顔負けの演技力だ。
ここまで演技できるのはなかなかいないぞ?
「いやー、これさ、本当頭イカれてるよね?」
「え? そうなんですか?」
「いや知らないの? コレの価値」
まるで呆れたように言ってくるギルド長。
なんだ? 純度100%の素晴らしい金じゃないの?
「100%だから凄いんじゃなくてですか?」
「黄河くん⋯⋯そもそも100%ってあり得ないんだよ?」
「あり得ない?」
「理論上はできるのかもしれないけれど、この金は特別イカれているさ。まさか、フリマとかに出していないよね?」
ギクッ。
そんなこれヤバかったの? 既に二ヶ所ほどで売ってしまいました⋯⋯ギルド長さん。
「もしかしたら他に入れる人が居たかもしれないですからね、流通している可能性は高いんじゃないですか?」
「まぁ否定はできないけど。とにかくね? そもそも純度100%を保ったまま──存在している事が現実的に不可能という言葉を使うのに等しいくらい低い確率なんだ。
黄河くんはまだよく知らないだろうけど、現在の生産職の皆は、装備品に魔力系統の装備を使ってることがよくある、というか一般的だ。それらから見ても、このインゴット、それに⋯⋯あのナイフ。あれはもっとあり得ない」
⋯⋯まずい。まずいぞ。
「そんな純度を保ったままナイフの形状に加工? そんなの作れるなら──みんなはその人の事を""神""と呼ぶに違いないだろうね。法則が無茶苦茶だ」
神? 俺は神ではありませんが、生産者が目の前にいます。
「黄河くんはこの金をだいぶ過小評価しているようだね」
「え?」
「顔を見ればわかるよ。そんな大したことない⋯⋯とでも内心思っているみたいだ」
やべぇ、心の中を読まれているんだけど。
「コレの価値は──世界にまで広がると思うよ。ギルドで隠せるのはかなり限界レベルな代物と案件だね。既にユニークダンジョンの情報は広まってしまっているし、そこで何も入手できなかったなんてないはずなのは⋯⋯歴史を見ても明らかだ」
それはこの人言う通りだ。
だけど⋯⋯俺が手に入れたのは、意味のわからない装備や鑑定能力、そしてゲームのようなアイテムボックス機能。
説明してもきっと、正確に伝わらないことは間違いないだろうな。
「どうする? まずは君の意見を聞こうと思ってね。志遠くん」
「ん?⋯⋯誰のことですか?」
「あぁ、ごめんごめん。ちょっとさっきまで人と話していてね、呼び間違えてしまったよ」
なんだよビックリした⋯⋯急に知らない名前が出てきて焦ったわ。
「意見⋯⋯ですか」
「うん、事実これからの方針を決めるにも、黄河くんの意見次第で色々こっちも変えないといけないし。まぁ、でもどっちみち──覚悟はしないといけないだろうけど」
「と、いうと?」
「あの時、恐らく黄河くんの顔は割れたはず。少なくともこれから、かなり周囲はうるさくなるだろう。メディアってそれくらい怖いんだからね? プライバシーなんて二の次でやってくるから」
あぁ⋯⋯ダラダラ過ごしたかっただけなのに、ドンドンかけ離れていく。
「しばらくは家にいた方がいいだろうね」
「まぁ自分は、そもそも外に出るような人間ではないので⋯⋯楽なんですけど」
「あぁ、なるほど。だからライセンスを取ってから活動履歴が更新されないわけだね?」
「あ、はい」
「それなら三神くんを付けるから、しばらく三神くんに買ってきて欲しい物でも頼みなよ」
⋯⋯うえっ? 三神さん!?
「な? なんでそんな話に!?」
「あれ? 気のせいなのかな? 三神くんと仲が良いから気を遣ったんだけどな」
「ま、間違ってはいないですが⋯⋯」
三神さんと知り合ってまだそんなに経ってないし、何より⋯⋯勝手に仲良い判定してしまっていいのだろうか?
それに──
「まぁまぁ良いじゃない。美女に配達させてもらうってことで」
「は、はぁ」
「とりあえず、簡単な質問をしよっか。意見なんてなさそうな顔してそうだし」
それから簡単な質問とそれに応答するというシンプルな方法で今後の事をギルド長に任せる形になってこの話は終わった。
「おっけー、とりあえず⋯⋯君の意見をまとめると、目立ちたくない。だけど、金は欲しくて自由気ままな生活がしたい──そういう事だね?」
よくそこまで簡単なやり取りで分かりましたねぇ!ギルド長さん! いえ、五香エスパー!
「いやー簡単過ぎて笑っちゃったよ。馬鹿にしてるつもりはないから安心して?」
ん? 簡単⋯⋯?
「欲求に素直なのはいい事だ。そうだね、まずは⋯⋯この金の報酬は全売却にする?」
「あ、それでお願いします」
「了解、先程もう査定班に送ってあって、おおよその値段は算出できているからコレを確認して?」
スッと電卓を俺の前に置く。
そこに表示されていた金額は──約1億だった。
さすがの俺も、これには圧倒される。
「そうか、黄河くんはなりたてだから金額にビックリして当然かな」
「冒険者はそんな凄いんですか?」
「まぁそうかな? モンスターの売却で、これよりあることもあるよ。
ただ、査定での結果このインゴットは20gほどの重量だから、本来は3000くらいが妥当なんだけども、純度といい様々な要因を掛け合わせるとこれでも低いとも思う。だけど、色々こちらも手配しないといけないところを考えさせてもらってこの金額提示だ。もし気に入らないなら遠慮なく言ってくれ」
いや、まぁいいんじゃないの? 俺全くこんな知識ないから、よく分からん。
「大丈夫です」
「そう、ならこのまま進めさせてもらうね。次に手配していく内容が⋯⋯」
そうして俺はそこから1時間、手配内容と様々な話を交わしてギルド長と三神さんという豪華メンバーを乗せて、自宅まで送ってもらった。
「ここが黄河くんの家かい?」
「は、はい」
見れば全員が察するほど汚いアパートである。
思わず三神さんも反応に困っている様子だ。
「大学生だったことも考えるとまぁ普通じゃないかな」
「これから引っ越しも考えます」
「それが良いよ、多分君が想像しているよりも遥かにとんでもない事が起こるはずだから」
止めてくれよ⋯⋯そんなフラグを残していくの。
「とりあえず僕はギルドに戻るけど、三神くんは黄河くんの家政婦に一時的に就任だ。じゃっ、あとは任せたよ」
こちらが話す前にそそくさと車に乗り込んでブゥゥンと消えていく。
残った俺と三神さんは、お互い気まずい空気を払拭しようとしたまま何かしようとしたが、その場で立ち尽くしたままだった。
さすがに男の俺が進めないといけないなと思った俺は
「と、とりあえず一旦入りますか?」
「そ、そうですね! まだ時間夕方まで時間もありますし!」
ここからしばらく、三神さんが俺の周囲の面倒を見てくれることとなったのだった。
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「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。
ちょいダン? ~仕事帰り、ちょいとダンジョンに寄っていかない?~
テツみン
SF
東京、大手町の地下に突如現れたダンジョン。通称、『ちょいダン』。そこは、仕事帰りに『ちょい』と冒険を楽しむ場所。
大手町周辺の企業で働く若手サラリーマンたちが『ダンジョン』という娯楽を手に入れ、新たなライフスタイルを生み出していく――
これは、そんな日々を綴った物語。
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