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第一章

32話:行方不明

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「あ、ダンジョン入口に異変!」

 近くでダンジョンの様子を確認していた完全武装をしている一人の男。その男が発した一言で、感情をむき出して走り出す一人の影があった。 
 
 高級リムジンから飛び降り、走り出したのは⋯⋯初めてみた時とは全く違う、焦りを含んだ五香の表情だった。

 こんな事になるだなんて、誰が予想したんだ!
 

───
──

 多摩動物公園ダンジョンの周囲には、現在大規模な厳戒体制が取られていた。
 理由は勿論、煌星と同行したギルド職員が誰一人⋯⋯一ヶ月以上も帰ってこないからである。
 元々秘密裏に動かしていた事もあり、五香も完全に予想外の事態であった。

 ユニークダンジョンって事は確定だろうな。
 しかし、なぜ一ヶ月も音沙汰がないんだ?

 状況的に考えられる事は⋯⋯勿論いくつか考えられるのだが、同行者たちは2人の内一人はAランク。 
 ⋯⋯八王子支部ウチの最高戦力の一人だ。

 そんな奴がなんの連絡もする暇なく時間がかかるとは思えない。──何かあったはずだ。

溢れる軍勢はんらんも注意しなくてはならない」

 溢れる軍勢とは。
 様々なダンジョン内で稀に起こる現象のことだ。
 低い確率で知能を持ったダンジョンボスや、何かしらの状況によって、モンスターたちがダンジョンの外へと出てくることを指す。

 ⋯⋯実際最初の覚醒者たちが生まれた時の事をまさに《溢れる軍勢》と呼ぶ状況に相応しかった。

「クソッ!」

 黄河くんにはまだまだこれから活躍してもらうはずだったのに、こんな事になるだなんて。

 あれからダンジョン内にギルド職員を何度も入れようと試みたが⋯⋯誰も入る事ができなかった。
 ──まるで誰かが拒むように。

 五香は今までにない現象に頭を悩ませた。
 こんな現象⋯⋯最初の時とほぼ一緒の時くらいじゃないのか?
 何が起こる⋯⋯? 既に嗅ぎ付けたメディアや他国のスパイたちを止めるにも限度がある。
 話はドンドン膨らみ、様々な憶測が飛び交い始めている。

 ダンジョンに入れないという一回しか前例のない現象だ。こんな話題⋯⋯嫌いな方が珍しいくらいだ。

 ──そんな時だった。
 
「⋯⋯っ!!」

 そんな時に、ダンジョンに異変があるなんて。


***


「いやー、色々変わりすぎて困ったんだけど、これで俺も⋯⋯⋯⋯」

 まるで叱られた犬のように、笑っていた自分の顔から笑みが消えていくのを感じた。

 ⋯⋯え? 何これ?

 ダンジョンから出ると、目の前には英雄をお迎えでもするんじゃないかというくらいの人が集まっており、中には報道陣も待機している。

 ⋯⋯思わずキョトンとしてしまう。
 なんかあったのか? そんなに長いこといなかったと思うんだけど。

 ──すると一人の取材陣が俺に気付いた。

「⋯⋯! 生き残りが出てきたぞ!!」

 その言葉を聞いた俺は察した。
 
「あれ? 俺もしかして⋯⋯ユニークダンジョンをクリアした奴だからみんな期待して待っている感じだな? さては」

 少し違うが、概ね合っているということにして⋯⋯。
 
 俺はそのまま笑みを浮かべて歩いて取材陣の前に出た。鳴り止むことのないシャッター音と点滅しまくるフラッシュ。眩しすぎると思った俺は、素直にいつもこの中で当たり前のように対応できる芸能人や有名人を尊敬した。

『あの!貴方が生き残りと言われた冒険者なのでしょうか!?』

 目立ちたくはないが、ここで変に逃げても家を特定されたり、あまりいいことがない。
 実際昔に俺と似たような状況に遭遇したS級冒険者の時、家を特定されて家族がメディアに勝手に露出させられて事件になったくらいだ。

 まぁ⋯⋯幸い俺には何かあるわけではないのだが。

『冒険者さんのお名前はなんていうんですか!?』
『中はどんなダンジョンだったんでしょうか!?』
『報酬や称号はどんなモノを貰えたのでしょうか!?』

 止まらない質問が俺にぶつかってくる。
 いざやられるとすげぇ困る。

「あ、ええ⋯⋯と⋯⋯」

 そんな時、取材陣を押し退けて一人の人間が出てきた。

「ギルド長」
「やぁ! 随分と人気者になったみたいだね」
「これ、どういう事ですか?」

 確か個人的な依頼だったはずで、特に周りに漏れたりなんかの心配はなかったはずなんだけどな。

「いやーごめんごめん。一旦話は後でもいいかい? こんなところで話なんてできるわけないし」
「まぁそうですね」
「じゃあ⋯⋯捕まっててくれるかい?」
「⋯⋯え?」

 俺がギルド長の服を掴むと、一気に視界が移り変わり、依頼に行く前で話していたギルド長室の部屋に変わっていた。

「ギルド長⋯⋯これは一体」
「あぁ⋯⋯僕はまぁまぁ金持ってるから、一度だけ空間転移をする事のできるアイテムを使用しただけだよ」

 え? 空間転移?
 前にフリマで見た時のサイトで最低でも6000はするトンデモアイテムの一つだったはずでは?

「それ、確か一個とてつもない値段がつく物では?」
「あー冒フルの事かな? まぁかなり値が張る一品だったと思うよ。ギルドでも、色々制約があってハイランカーの奴らじゃないと買えないようになってるしね」

 ギルド長はソファに座りなよと腕でジェスチャーをみせ、会釈しながら座る。

「はい、ごめんね、何が好きだったか知らないから、とりあえずコーヒー」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあとりあえず⋯⋯全容を話してもらえるかい?」

 そう言って俺はどうあの流れを話そうかと迷い、イイ感じに誤魔化しながら話し始めるのだった。
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