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会合

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 ──海外のとある郊外にある場所。

 秘密裏に建てられた会合をするために集められた場所である。

 世界中の特権階級の人間たちが集まるこの場所で、ドデカイ回転する丸い机に座る人相の見えない数十人の人間たちがいた。

 『この先10年後は世界中の誰もが連絡手段を持つ時代になることは間違いないだろう』

 『その先はどうする?テクノロジー面で考えるならば、停止は不可能だ』

 敢えて幼稚な言い方をするならば、彼らは各国のトップのバックにいるフィクサーである。
 最強の富と権力を手にした者たちであり、全てを手に入れる事が可能な人間たち。

 そんな場所に。

 扉がゆっくりと開き、外から数百の人間が道を作るように、両側に立って並ぶ。
 
 『アジア人か?』

 『中国だな』

 全く動じない姿の見えない男たちが、そのまま見物を続けていると。

 『&<】!!!!』

 号令が掛かる。

 黒スーツに身を包む列を成す数百の男たちが身体を畳み、一人の男に敬意を評す。

 「⋯⋯ったく。お前ら、ここまでやらなくてい言っていただろ」

 「我らが神が、このような場所へと足を運ぶのですから⋯⋯」

 煙草を吸いながらため息混じりに一人の男と話す神城。

 「お疲れ様です!!我らが神よ!!」

 一人の号令に続いて体を畳む男たちが同様に声を張って嬉しそうにしている。

 「あの時少し助けただけで、こんな扱いとは」
 
 「神よ、少しと言われるには⋯⋯些か言葉が」

 「ん?たかが一千億お前たちにあげただけだ」

 「末代までの言い伝えが必要ですね。これは」

 そうして神城はこの列の中心を通り、まさに威風堂々と⋯⋯中へと硬い音を鳴らしながら入っていく。

 いつもの如く──両手を突っ込み、髪を靡かせ、まだ幼い顔の⋯⋯⋯⋯既に世界の中心と言ってもいい男の姿が。

 ⋯⋯まさに現代の皇帝である。

 
 そして、神城は一定の場所で歩みを止める。荒々しい紅い光を瞳孔に宿して。

 「ようこそ、仁・神城」

 「あぁン?オメェは誰だ?」

 「あぁ⋯⋯これは失礼」

 そう言うと男は名刺を神城に手渡す。

 「DMC研究所のアレイスターと言う。君ならご存知ではないかね?」

 アレイスター。なるほど。

 「俺の知っているアレイスターならば、ここに呼ばれるのは理解できる」

 この時点──2013時点で、将来2049年までのロードマップを研究所では株主総会で開いており、上位株主に対して詳細な事まで発表していたのだ。

 なるほど。アレイスターは事実上今後の人類の鍵を握る重要人物である事は間違いない。

 アレイスターの主な実績⋯⋯。
 それはデザイナーベイビーを一人で完全完結させた事にある。
 
 人間の構造を理解し、塩基配列の必要性、細かく言えばゲームのようにヒトをイジれるようになった技術の始祖である。

 「⋯⋯ふっ」

 少年は笑う。
 全ての技術というのは、全て悪から生まれるものだ。
 犯罪の温床の先に、新しい技術が生まれ、人々の手に年月をかけてやってくるものなのだから。

 子供をデザインする⋯⋯か。

 アレイスターは確かに天才だ。
 歴史上でもここまでの天才はいなかったと言える。

 しかし──。

 「君の事はいくら調べてもわかりませんでしたよ。だが今日、それもわかることになるでしょう!」

 全方位から、数人の人間が影からぞろぞろと現れる。

 「なんだ?招待客に対して攻撃をするのがお前たちのやり方なのか?」

 「いいえ。貴方の情報は非常に面白い物ばかりでした。ある人間は傭兵だと言い、ある人は天才的な医者だという。軍人だという人間もいれば、考古学の先にいるとも言います。面白い⋯⋯。貴方は一体何人いる事やら」

 「⋯⋯探りを入れるならもっと徹底したほうが良いんじゃねぇのか?」

 その数秒。神城に飛び掛る数人の人間たち。
 ──だが。

 「ほう?」

 神城は素手で迫りくる数人の攻撃を無力化し、肘でこめかみに打ち込んでいた。

 僅か数えられる程だ。
 普通の人間に見えていたのは一斉にバタバタ倒れる光景だけ。その中心にいる神城という少年の圧倒的強さしか分からないものだった。

 「流石です!貴方は今までないタイプの人間だ!」

 拍手をするアレイスター。

 「⋯⋯なるほど」

 神城から漏れ出たのは、簡素な返事。
 こいつら⋯⋯。

 倒れているのは識別するなら大人くらいの容姿ではあるが、にしては。

 瞳が一点に紅く一瞬だけ染め上がる。
 コイツら、生命力が年齢にそぐわない程満ちている。

 「まさか、創った人間共か?」

 横目で言う神城の言葉に、姿が見えないアレイスターがニヤリと笑った。

 「ふっ。流石は天才だ。私の傑作をこうも容易く見抜くとは」

 声色に嬉しさが混ざるアレイスター。
 
 「やはり、色々知りたいことが多いね」

 「勘弁被る。俺はそんなに暇じゃねぇ。何件の会食を蹴ってきてやったと思ってるんだ」

 「っ、中々面白いことを言うね」

 「当たり前だ。アレイスター、念の為胡座をかいているお前に忠告だ」

 横目で見ていたのを止め、神城はアレイスターに対して真正面を向き煙草に火をつけて、真顔でこう言った。

 「悪の道を往くなら⋯⋯ここで潰す。デザイナーベイビーはキチンとした手順で使うべきだ。こういう風に使うべきではない」

 倒れている彼らに視線を落とし、暫く見続けると⋯⋯神城は彼らに向けて両膝をついて美しい所作で両手を胸の前でピタリと優しく合わせた。

 「いぐな、いぐな。さたはらにゆえ。かんのじあわゆくならば、ひづきにのぼゆくまえ」

 言って、神城は静かに立ち上がり、アレイスターに体を向けた。

 「所詮犠牲はこういう物の為にある。必要犠牲って奴だよ。君みたいなイレギュラー相手にはこうするしか方法はないさ」

 肩をすくめてヒラヒラと腕を横にふる。
 だが神城は無表情のままただその姿を見るのみ。

 「新しい特記事項が必要になってくるな。今のは現存している超能力を使える者たちをベースとした配列をそのまま沸かせたのだが、そうも行かないようだ。彼らではこの少年を制圧できない⋯⋯」

 なるほど。だから俺の力が一瞬流れたのか。
 なんの超能力かはわからんが、やはり結構大量にいるようだ、ここに。

 「あー安心して?君を制圧する為に呼んだ訳じゃないから」

 「まるで出来るような言い方だな」

 「やろうと思えば⋯⋯ってところかな?」

 「⋯⋯ふっ。言っとけ」

 鼻息混じりに嘲笑を向ける。

 「実際普通に生きていれば、君は世界の頂点に立てるだろうね。だけど、ここは普通の人間ばかりいるところではないからね?」

 気付けば神城を2階、三階から銃と手を翳す影がチラホラと映る。

 だが、その沈黙と化したこの場で、静かに金属音が響く。

 「ふぅ⋯⋯」

 細く柔い煙が正面に飛び、少年は笑った。

 「一応訊く──本気か?」

 「もちろん。君こそ傲慢じゃないかな?」

 小刻みに笑いが込み上がる。

 「っ。誰に言ってんだか⋯⋯⋯⋯。これは最後通告だ」

 
 『な、なんだ!?銃が勝手に!!』
 『俺の能力が!』

 
 上から構えていた数人の人間たちから焦りの声が上がる。

 「何をした?」

 状況を見ていたアレイスターが慌てて神城を睨みつける。

 「⋯⋯それは企業秘密だ。天才研究者君」

 指を立てて唇に当てる。
 ミステリアスに笑う神城に、アレイスターは興奮したように唇を釣り上げた。

 「欲しいねぇ。なるほど、天才と言われるわけだ。DNAが欲しいよ。爪も、髪も、肌も全部!!」

 本性はこっちだったのか。きめぇ。

 「そんなこたぁいいんだよ。とりあえず水に流してやる」

 そう言って近くにある椅子に深く座って机の上に足を交差させて音がなるほど叩きつけた。

 「で?俺はなんのために呼ばれたんだ?」

 問いに静寂の時間が流れる。
 だがそれも束の間。

 「"当代神門"がこのような少年とは⋯⋯」

 「⋯⋯なに?」

 ピクッと片方の口角が上がる神城。
 声の方は左奥からだ。性別は女。

 「奥の院、みな子と申す」

 「奥の院?」

 「はぁ⋯⋯何も聞かされていないとは」

 顔は見えないが、明らかにため息をついているのがわかる。

 「なんだなんだ。ここにいる奴らは非合法な奴らしかいねぇのかァ?俺も含めて」

 ぶっきらぼうに言い放つ神城。
 だがその次の瞬間、神城の前に奥の院みな子が姿を現す。

 「⋯⋯ッ。」

 動揺。
 今までにない動揺だった。

 みな子の髪は神城と同じく雪のように白く、声と容姿がまるで似合わない20代後半と言って差し支えないレベルのものであった。

 「申し訳ぬ、この"坊っちゃん"とは私が直接説得しよう」

 『貴女が出てくるなら話が早いな』
 『なら今日は話すことは話したし、帰るとするか』

 ぞろぞろ暗闇の中数十人の人間が去っていく影と足音が聞こえてくる。

 「ッ、おい」

 「少しお黙りなさい」

 短い言葉だが、珍しく神城を一時的にでも止めるみな子。

 「なんです?一体当代神門は何をしているのかしらね?」

 「当代?一体何の話をしてんだよ。おばさん」

 その発言に、両脇に控える数人の側仕えが明らかな殺気を漏らす。

 「なんだァ?殺んの?殺んねぇの?どっちだ?」

 イライラの限界である神城がドカドカと机を踵で叩く。
 
 「こ、この者が本当にあの⋯⋯!?」

 言いかけた刹那、すぐに押し黙る側仕え。
 みな子の吸い込まれそうな静かな眼光に、目が合っていた側仕えがひれ伏したのだ。

 「アンタ⋯⋯何モン?」

 「⋯⋯奥の院でございます」

 そう言うとみな子は両手で数回叩いた。

 「まさかこうして当代神門と対面するとは思わなんだ。創一」

 「⋯⋯おいおい」

 人生で冷や汗を流したこたぁなかったが、まさかこんな気味悪い女にビビるとは。

 静かに燃え上がるその眼光は、まるで全てを吸い尽くす深海のような静寂にある不気味さが隠れていた。

 「少し⋯⋯お話をさせて欲しんだ」
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