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パラレルワールドにて 13
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「・・・」
眩しさで目が覚めた。酷く体がだるい。眩しさから逃れるため寝返りを打ちたかったが、それも億劫に感じるくらいだった。
仕方なく瞼を開く。頭上に人影があった。どうせフェリクスかアリサあたりだろう。そう思い何度か瞬きをするが、なぜか視界が定まらない。
とりあえず起き上がろう。そう思い、腕に力を込める。しかし思うように体が動かず、身動ぎするのが精一杯だった。
カイの動きに気づいたのか、頭上の人影がハッと息を呑んだのが気配で分かった。
「カイ!目が覚めたんだね!」
レイの声だった。ほとんど同時に、横でも歓声が上がる。
「フェリクス!フェリクス!」
リュカの声だというのは分かったが、頭がぼうっとしていて状況がまるでわからない。
なんで、エイベルの屋敷に行ったレイが家にいるんだ?しかもリュカまで?ようやく視界のぼやけが治ってくると同時に、誰かに思いっきり抱きしめられた。
「ヴァイス・・・?」
なんでサロンで働くヴァイスまでが集結しているのか。
首を横に向けると、フェリクスとリュカがいるのが見えた。フェリクスはカイと同じくベッドに横になっている。
そこで、自分がいる場所に違和感を覚えた。そこは、自分達の屋敷ではなかった。どこかはわからないが、吸い込む空気からは消毒薬の匂いがした。
「えっと・・・?」
なにから聞けばいいのか分からず混乱していると、レイが涙ぐみながら解説してくれた。
「覚えてない?カイ、馬車の転倒事故に巻き込まれたんだよ。それをフェリクスが庇って、二人は二日間も寝込んでたんだ」
「馬車?」
覚えてない。
「カイさん」
呼びかけられ横を向くと、フェリクスがこっちを指さしていた。というよりも、カイの胸のあたりを?
「・・・!」
無意識に胸に触れたカイは驚愕した。もう一ヶ月も自身の一部として共にあった胸がなくなっていた。頭を探る。髪も短い。
「・・・戻った?」
呆然と呟く。それを、ベッドを取り囲む人々は不思議そうに見ていた。
「戻ったって、どういうこと?」
「お、オレら、オマエが前に言ってたぱられるわーるどに飛ばされてたんだよ!」
「ええ?」
驚いたのはレイだけで、他の人々は疑問を浮かべたままだった。
「パラレルワールドに?」
「そうだよ。フェリクスが金持ちで、オマエは猫カフェで、オマエはサロンで働いてて!」
「それって・・・夢見てたんじゃなくて?」
レイの言葉に、カイの思考は固まった。
ーーーーー
「うーーん」
カイは唸った。目の前には、サルマンという銀行家が養子にしたという人物の屋敷がある。向こうの世界でフェリクスの屋敷だった場所だ。
しかし今建っている建物は記憶の中のものより少し貧相だった。
パラレルワールドにいたという証拠を示すものとして思い出したのがこの屋敷の存在だった。怪我が回復したということもあり、今日はフェリクスとリュカ、ヴァイスとレイを引き連れてやってきたのだが。この屋敷を見ても、なんの証拠にもなりはしないことが証明されただけだった。
「カイ、僕達は別に、カイの言葉を疑ってるわけじゃないよ?」
レイが慰めるように言う。
「でも、そんなわけないみたいな態度だったじゃねーか」
「そういうわけじゃないけど。パラレルワールドは、そう簡単に行き来できるものじゃないから、それなら夢オチってほうが説得力あるなって思って」
「夢なら、なんでフェリクスも同じのを見てるんだよ」
「それは、まあ。不思議だけど」
フェリクスとは記憶の突き合わせを行って、それが全て一致していた。そんなふうに同じ内容の夢を見ることなど、あるのだろうか?
「一つ考えられるとすれば」
それまで黙っていたフェリクスが口を開いた。
「同時にエイベル様の回復魔法を受けたってことですかね」
重症を負った二人のために、担ぎ込まれた診療所まで、レイがエイベルを引っ張ってきてくれ、魔法までかけてくれたのだった。そうでなければ、死にはせずともこんなに早く回復できなかったに違いない。
「それで同じ夢を見た?」
「どっちにしてもさ」
レイは議論を打ち切るように手を打ち鳴らす。
「夢でも、パラレルワールドに行ったのでも、どっちでもいいよ。ちゃんと戻ってこられたんだから」
確かにそれはそうだ。どっちみち、証明する方法もない。不意に右手が握られた。ヴァイスがカイを見下ろし、微笑んでいた。目が覚めてもう三日も経つのに、この笑顔を見るとまだ涙がこぼれそうになる。
「そろそろ帰ろうよ。おうちに」
レイの号令で、カイ達は帰路につくことになった。フェリクス達とは別方向だ。
「フェリクス!リュカ兄!またな!」
振り返り手を振ると、二人は去っていった。なんだかまだ、フェリクスの妻だった時の感覚が消えないで残っている気がした。それは寂寥といえるものだった。フェリクスも多分、同じ思いを抱いているに違いない。それもいずれ消え、いつもの二人に戻るだろう。カイはヴァイスの手を握り直し、歩き出したレイの後を追った。
眩しさで目が覚めた。酷く体がだるい。眩しさから逃れるため寝返りを打ちたかったが、それも億劫に感じるくらいだった。
仕方なく瞼を開く。頭上に人影があった。どうせフェリクスかアリサあたりだろう。そう思い何度か瞬きをするが、なぜか視界が定まらない。
とりあえず起き上がろう。そう思い、腕に力を込める。しかし思うように体が動かず、身動ぎするのが精一杯だった。
カイの動きに気づいたのか、頭上の人影がハッと息を呑んだのが気配で分かった。
「カイ!目が覚めたんだね!」
レイの声だった。ほとんど同時に、横でも歓声が上がる。
「フェリクス!フェリクス!」
リュカの声だというのは分かったが、頭がぼうっとしていて状況がまるでわからない。
なんで、エイベルの屋敷に行ったレイが家にいるんだ?しかもリュカまで?ようやく視界のぼやけが治ってくると同時に、誰かに思いっきり抱きしめられた。
「ヴァイス・・・?」
なんでサロンで働くヴァイスまでが集結しているのか。
首を横に向けると、フェリクスとリュカがいるのが見えた。フェリクスはカイと同じくベッドに横になっている。
そこで、自分がいる場所に違和感を覚えた。そこは、自分達の屋敷ではなかった。どこかはわからないが、吸い込む空気からは消毒薬の匂いがした。
「えっと・・・?」
なにから聞けばいいのか分からず混乱していると、レイが涙ぐみながら解説してくれた。
「覚えてない?カイ、馬車の転倒事故に巻き込まれたんだよ。それをフェリクスが庇って、二人は二日間も寝込んでたんだ」
「馬車?」
覚えてない。
「カイさん」
呼びかけられ横を向くと、フェリクスがこっちを指さしていた。というよりも、カイの胸のあたりを?
「・・・!」
無意識に胸に触れたカイは驚愕した。もう一ヶ月も自身の一部として共にあった胸がなくなっていた。頭を探る。髪も短い。
「・・・戻った?」
呆然と呟く。それを、ベッドを取り囲む人々は不思議そうに見ていた。
「戻ったって、どういうこと?」
「お、オレら、オマエが前に言ってたぱられるわーるどに飛ばされてたんだよ!」
「ええ?」
驚いたのはレイだけで、他の人々は疑問を浮かべたままだった。
「パラレルワールドに?」
「そうだよ。フェリクスが金持ちで、オマエは猫カフェで、オマエはサロンで働いてて!」
「それって・・・夢見てたんじゃなくて?」
レイの言葉に、カイの思考は固まった。
ーーーーー
「うーーん」
カイは唸った。目の前には、サルマンという銀行家が養子にしたという人物の屋敷がある。向こうの世界でフェリクスの屋敷だった場所だ。
しかし今建っている建物は記憶の中のものより少し貧相だった。
パラレルワールドにいたという証拠を示すものとして思い出したのがこの屋敷の存在だった。怪我が回復したということもあり、今日はフェリクスとリュカ、ヴァイスとレイを引き連れてやってきたのだが。この屋敷を見ても、なんの証拠にもなりはしないことが証明されただけだった。
「カイ、僕達は別に、カイの言葉を疑ってるわけじゃないよ?」
レイが慰めるように言う。
「でも、そんなわけないみたいな態度だったじゃねーか」
「そういうわけじゃないけど。パラレルワールドは、そう簡単に行き来できるものじゃないから、それなら夢オチってほうが説得力あるなって思って」
「夢なら、なんでフェリクスも同じのを見てるんだよ」
「それは、まあ。不思議だけど」
フェリクスとは記憶の突き合わせを行って、それが全て一致していた。そんなふうに同じ内容の夢を見ることなど、あるのだろうか?
「一つ考えられるとすれば」
それまで黙っていたフェリクスが口を開いた。
「同時にエイベル様の回復魔法を受けたってことですかね」
重症を負った二人のために、担ぎ込まれた診療所まで、レイがエイベルを引っ張ってきてくれ、魔法までかけてくれたのだった。そうでなければ、死にはせずともこんなに早く回復できなかったに違いない。
「それで同じ夢を見た?」
「どっちにしてもさ」
レイは議論を打ち切るように手を打ち鳴らす。
「夢でも、パラレルワールドに行ったのでも、どっちでもいいよ。ちゃんと戻ってこられたんだから」
確かにそれはそうだ。どっちみち、証明する方法もない。不意に右手が握られた。ヴァイスがカイを見下ろし、微笑んでいた。目が覚めてもう三日も経つのに、この笑顔を見るとまだ涙がこぼれそうになる。
「そろそろ帰ろうよ。おうちに」
レイの号令で、カイ達は帰路につくことになった。フェリクス達とは別方向だ。
「フェリクス!リュカ兄!またな!」
振り返り手を振ると、二人は去っていった。なんだかまだ、フェリクスの妻だった時の感覚が消えないで残っている気がした。それは寂寥といえるものだった。フェリクスも多分、同じ思いを抱いているに違いない。それもいずれ消え、いつもの二人に戻るだろう。カイはヴァイスの手を握り直し、歩き出したレイの後を追った。
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