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パラレルワールドにて 5
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宣言通り、フェリクスは夕食前には戻ってきた。初めから指示されていたのだろう。給仕たちがやってきて、部屋のテーブルに夕食を並べていく。屋敷の中には恐らく立派な食堂があるのだろうが、このほうがありがたい。マナーなんてサッパリだ。
「どうだった?」
「明日会えることになりました。それはいいんですけど・・・」
「なんだよ。なにか問題があったのか?」
「いいえ・・・まあ、オレの気のせいってこともありますし」
曖昧に言って、赤ワインのグラスを傾ける。窓の外はすっかり暗くなっていた。
「いい酒ですね」
「そーだな。なんか、すぐ酔っちまいそうだ」
今日は本当にいろんなことがあった。ぼうっとしはじめた頭で考える。ここで目覚める前、自分は何をしていただろう。思い出せなかった。いつもと同じ朝がくることを信じて疑いもせず、ただ普通に眠りについたのだろうか。傾けたグラスの中で赤い液体がゆらゆら揺れている。明日はどこで目覚めるだろう?
「カイさん」
顔を上げる。いつの間にかフェリクスは席を立っていた。
「どこ行くんだ?」
「隣がオレの、というかこの世界のフェリクスの部屋なんですよ」
「そっちで寝る気か?」
思わず驚いて聞いてしまったカイに、フェリクスは呆れたような顔をする。
「当たり前じゃないですか。カイさん、アンタは今女なんですよ?」
「だから?」
「女の子が横にいると眠れないんです。ムラムラしちゃって」
「女の子ったって、オレだよ?」
「明かりを消せば顔は見えませんよ」
「消さなきゃいい」
「なんでそんなにオレと寝たいんです」
「だってさ」
カイは再び視線をワインのグラスに落とした。
「この世界で、オレ達は異分子なんだぜ?オレ達だけが。なんつーか、不安なんだよ。明日目が覚めた時にはオマエはいなくて、たった一人になってるかも、とか、思うとさ」
「・・・」
気配が動いた。目を上げる。正面に座り直したフェリクスが、グラスを再び手に取っていた。
「明日」
「うん」
「オレも行きますから」
「・・・うん」
そのまま二人でダラダラとグラスを重ね、カイはソファで丸くなって眠った。
ーーーー
アリサは緊張していた。働きはじめて間がないというのに、奥様の専属侍女を任されてしまったのだ。奥様は大層傲慢で、使用人を奴隷のようにこき使うという。しかも夫妻の仲は険悪で、特に奥様は、ほとんど攫うようにして結婚させられてしまった旦那様のことを軽蔑し嫌っているとか。
今日でアリサの命運も尽きたのかもしれなかった。
処刑台に立つような心持ちで奥様の部屋のドアを叩く出てきたのは旦那様のフェリクス様だった。
「アリサです。今日から奥様の侍女を務めさせていただきます」
緊張して頭を下げる。旦那様に促されて部屋に入ると、奥様はドレッサーの前に座ってこっちを見ていた。
「あ、アリサです。よろしくお願いします・・・」
初めて間近で見る奥様は想像よりずっと美しくて、アリサは思わず見とれてしまった。
「アリサ、ね。で?なにをしてくれるものなんだ?侍女って」
「えっ?」
驚いて聞き返したアリサに答えてくれたのは、旦那様のほうだった。
「ドレスを選んできてください」
「あー、動きやすいやつで頼む」
「はぁ・・・」
首を捻りながら衣装室に入り、できるだけ希望に沿いそうなドレスを数着用意する。奥様はその中でも、一番落ち着いたデザインの物を選んだ。
着付けが済むと、今度は髪結いと化粧だ。緊張すると思ったのに、奥様はずっと旦那様と掛け合いのような会話を続けていて、思ったよりも落ち着いて仕事ができた。
「で、できました・・・」
「へえ、いいじゃん。アンタ器用だな」
そう言って笑う姿はとても綺麗で。
「ありがとうございます・・・!」
なーんだ。噂なんて、本当に当てにならない。アリサは部屋にがいる時とは正反対の軽い足取りで、侍女の控室に戻っていった。
「どうだった?」
「明日会えることになりました。それはいいんですけど・・・」
「なんだよ。なにか問題があったのか?」
「いいえ・・・まあ、オレの気のせいってこともありますし」
曖昧に言って、赤ワインのグラスを傾ける。窓の外はすっかり暗くなっていた。
「いい酒ですね」
「そーだな。なんか、すぐ酔っちまいそうだ」
今日は本当にいろんなことがあった。ぼうっとしはじめた頭で考える。ここで目覚める前、自分は何をしていただろう。思い出せなかった。いつもと同じ朝がくることを信じて疑いもせず、ただ普通に眠りについたのだろうか。傾けたグラスの中で赤い液体がゆらゆら揺れている。明日はどこで目覚めるだろう?
「カイさん」
顔を上げる。いつの間にかフェリクスは席を立っていた。
「どこ行くんだ?」
「隣がオレの、というかこの世界のフェリクスの部屋なんですよ」
「そっちで寝る気か?」
思わず驚いて聞いてしまったカイに、フェリクスは呆れたような顔をする。
「当たり前じゃないですか。カイさん、アンタは今女なんですよ?」
「だから?」
「女の子が横にいると眠れないんです。ムラムラしちゃって」
「女の子ったって、オレだよ?」
「明かりを消せば顔は見えませんよ」
「消さなきゃいい」
「なんでそんなにオレと寝たいんです」
「だってさ」
カイは再び視線をワインのグラスに落とした。
「この世界で、オレ達は異分子なんだぜ?オレ達だけが。なんつーか、不安なんだよ。明日目が覚めた時にはオマエはいなくて、たった一人になってるかも、とか、思うとさ」
「・・・」
気配が動いた。目を上げる。正面に座り直したフェリクスが、グラスを再び手に取っていた。
「明日」
「うん」
「オレも行きますから」
「・・・うん」
そのまま二人でダラダラとグラスを重ね、カイはソファで丸くなって眠った。
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アリサは緊張していた。働きはじめて間がないというのに、奥様の専属侍女を任されてしまったのだ。奥様は大層傲慢で、使用人を奴隷のようにこき使うという。しかも夫妻の仲は険悪で、特に奥様は、ほとんど攫うようにして結婚させられてしまった旦那様のことを軽蔑し嫌っているとか。
今日でアリサの命運も尽きたのかもしれなかった。
処刑台に立つような心持ちで奥様の部屋のドアを叩く出てきたのは旦那様のフェリクス様だった。
「アリサです。今日から奥様の侍女を務めさせていただきます」
緊張して頭を下げる。旦那様に促されて部屋に入ると、奥様はドレッサーの前に座ってこっちを見ていた。
「あ、アリサです。よろしくお願いします・・・」
初めて間近で見る奥様は想像よりずっと美しくて、アリサは思わず見とれてしまった。
「アリサ、ね。で?なにをしてくれるものなんだ?侍女って」
「えっ?」
驚いて聞き返したアリサに答えてくれたのは、旦那様のほうだった。
「ドレスを選んできてください」
「あー、動きやすいやつで頼む」
「はぁ・・・」
首を捻りながら衣装室に入り、できるだけ希望に沿いそうなドレスを数着用意する。奥様はその中でも、一番落ち着いたデザインの物を選んだ。
着付けが済むと、今度は髪結いと化粧だ。緊張すると思ったのに、奥様はずっと旦那様と掛け合いのような会話を続けていて、思ったよりも落ち着いて仕事ができた。
「で、できました・・・」
「へえ、いいじゃん。アンタ器用だな」
そう言って笑う姿はとても綺麗で。
「ありがとうございます・・・!」
なーんだ。噂なんて、本当に当てにならない。アリサは部屋にがいる時とは正反対の軽い足取りで、侍女の控室に戻っていった。
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