猫奴隷の日常

ハルカ

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真夜中の来訪者

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「カイ、もうすぐ着くよ」
「・・・」
「カイ、寒くない?」
「・・・」

返事が途絶えて久しかった。背負ったカイは、発熱したかのように温かい。
完全に寝てしまっている。
激しいやつ、は延期だろうな。
耳が しゅん と下がった。
まあ、分かってたけど。深夜、プラス、酒、プラス、おんぶ。これで、寝るなと言うほうが無理な話で。
ヴァイスはずり下がりそうになるカイの体を背負い直し、屋敷への道を急いだ。
その足が、不意に止まった。

ざわざわと、草木が揺れている。風・・・ じゃない。生き物だ。夜を生きる動物達が、潜んでいた暗がりから追い立てられている。
なにかが、来る。
ヴァイスはカイを背負ったまま、木の陰に身を潜めた。

初めに聞こえたのは、馬の嘶きだった。
それから鋭い蹄の音が。さらに、車輪が轍を踏むガラガラという音も。
馬車だ。
誰かがこんな夜更けに馬車を走らせているのだ。しかしそれにしては。
ヴァイスは木陰から顔を出し、湖の向こう側に目を凝らした。一つの明かりが木々の間に踊っている。馬車の先につけられたカンテラの明かりに違いなかった。
木々の間からこぼれたその頼りない明かりが、黒い水面を一瞬浮かび上がらせる。
明かりは近づいて来ると、ついにその姿を対岸に表した。目の前を疾走していく。
タン、タン
その馬車の後を、微かな音が追っていく。暗くてよく見えないが、射掛けられた矢に見えた。
追われている。

「どーした?」

背中から寝ぼけたような声がした。ヴァイスは腕を解き、カイを下ろした。

「馬車が」

言いかけた時、ドォン という振動が来た。
振り返った先で、火だるまになった馬車が横転した。
火矢ではこうはならない。魔法だ。
ヴァイスは湖沿いに馬車へと駆け寄った。馬車の破片を拾う。火のついたそれを、闇に佇む影に向けて放った。狙いは襲撃者ではなく、人影が跨っている馬の足元だった。驚いた馬が前足を跳ね上げる。落馬こそ免れたものの、気が立った馬で襲撃続行は不可能と悟ったのだろう。襲撃者は乗っている馬の手綱を引き、馬首を巡らせた。それを追っていく気配がいくつか続き、やがてそれも消えた。

「あぁぁ・・・」

声に振り返る。見知らぬ男が、燃え上がる馬車を前に頭を抱えていた。

「中に人が?」
「お嬢様と侍女が・・・」

ヴァイスは改めて馬車を眺めた。出入り口がない。ということは、下敷きになってしまっているのだろう。
ヴァイスは勢いをつけ、横倒しになった馬車の胴体に飛び乗った。胴体と屋根との境目を、下に向けて蹴る。丈夫な馬車だったが、何度か繰り返すと、屋根と胴体の間に僅かに隙間ができ、釘が覗いた。さらに何度か蹴ると、最後は呆気なく屋根は胴体から離れ、向こう側に倒れた。闇に火の粉が舞い上がった。
地面に飛び降り、ぽっかり空いた、元は屋根だった部分から中を覗く。
熱風が肌を刺した。
腕で顔を庇いながら、人影が中で折り重なっているのを確認する。反対の腕を伸ばして、まずは上になったほうを引っ張り出す。草地に寝かせ、もう一人も腕を掴んで引っ張り出した。

「怪我人を運んでこい。オレは先に行く」
「分かった」

カイが闇の中に駆けていく。ヴァイスは並んで横たわる二人から、重症そうな方の腕を取った。

「待ってください」

声に、手を止めて振り返った。それまで、地面に尻をつけて呆然としていた御者らしき男が、焦ったようにその場で身動ぎしていた。衝撃が大きく、まだ自分の体がうまく動かせないようだった。

「お嬢様を。お嬢様を先におねがいします」
「・・・」

ヴァイスは今一度二人を見下ろした。迷いはなかった。おんなじ腕を取ろうとするのを見て、男が悲鳴のような声を上げた。

「狙われたのはお嬢様です。もし奴らが戻ってきたら、私では対処できません」

お願いします。男が頭を下げる。ここで問答をするのは時間の無駄だった。ヴァイスは「分かった」と応じ、取ろうとしていた腕ではなく、まだ軽症の方の腕を取り、肩にかけさせた。背中と膝裏に腕を差し入れて抱き上げる。拍子抜けするほど軽かった。

屋敷のドアは開いていた。

「二階の客間へ」

待ち構えていたセバスに言われ、女性を抱えたままエントランスの階段を駆け上がる。
二階に上がると、客間のドアの一つが全開になっているのが見えた。その部屋のベッドに女性を寝かせ、再び馬車がある場所まで取って返した。
同じ要領で二人目の女性を連れていく。今度は男も足を引きずりながらついてきた。
同じ部屋に入り、同じベッドに寝かせる。ベッドの横に、夜着の上にガウンを羽織ったエイベルがいた。もう治療は始まっていた。柔らかい光が部屋に満ちていた。

「レイ」

エイベルに指示されて、レイが女性二人の体に薄いシーツをかけている。ここはもう大丈夫だろう。
そう判断して、ヴァイスは部屋を出た。出てすぐの所に御者の男が立っていた。不安を煮詰めたような表情で、開いたドアの隙間から中を覗き込んでいる。
その横を通り過ぎ、エントランスに降りた。
セバスはもうそこにはいなかった。
ヴァイスはしっかりと閉じられたドアを薄く開け、外に滑り出た。

丁度半分に見える月が出ていた。木立の傍を、身を低くして歩く。馬車は黒いただの小山になっていた。それ自体はただの残骸だったが、内部に赤々とした熾火が燻っているのが、夜目にも鮮やかだった。
ヴァイスは見逃すものがないように、辺りをゆっくりと見回した。動くものは見えなかった。

「オイ、こっち」

屋敷に戻ると、カイがヴァイスを見つけて手招きした。カイはヴァイスの手を引いて自室に入れると、ベッドに座らせた。

「脱げ」

命令に従って大人しく服を脱ぐ。それで改めて気付いたが、服は各所が焼けてボロボロの状態だった。
皮膚に異常は見られないのは、エイベルが放つ光に、数分でも当たっていたせいか。
それでも入念に全身をチェックされて、治りきらなかったと思われる場所には薬を塗られた。
クルクルと包帯を巻かれていると、急速に瞼が重たくなってきた。
さっきまでは平気だったのに、動きを止めるともう駄目だった。

「カイ」
「ん?」
「激しいやつは?」

フフ と笑う気配がする。

「やれるもんなら、やってみな」

できないだろ、と言わんばかりの口調だった。確かに、体は疲れ切っていて、動くのも億劫なほどだった。
それなのに、なぜだろう。興奮が収まらない。先程の襲撃で過敏になった神経が、剥き身の状態のまま、曝され続けているような。
カイが背を向けて離れて行こうとする。
腕を引いたのはほとんど無意識だった。

「わっ!」

背中からベッドに倒れ込んだところに、じゃれつくように上からのしかかる。
しかし、思ったより体が重たい。額をシーツに押し付け、手探りで挿入しようとする。しかし、なにかに阻まれてうまく行かない。体を抱き込まれたカイが、苦しげに喘いだ。

「ま、待てって」

肩を押され、少し体が離れる。カイはなにか言いたげに口を開きかけたが何も言わず、代わりに自分の手で服を脱いだ。下着が取り払われた後でようやく、ああ、そりゃ入らないよな、と頭が追いついた。

「慣らすから、待っ、んんっ」

カイの指が、己の尻穴に埋め込まれる。その指に、急かすように怒張したモノを擦り付ける。体の下で、カイの体がくねった。

「ダメだって、まだ、入らねぇって」

熱くなった股間同士をぴったりとくっつけ、腰を揺らす。濡れた唇が艶めかしい。ぺろりと舐めあげる。何度もそれを繰り返していると、根負けしたように指が抜かれた。窄まった場所に切っ先を充てがう。きゅう と吸い付くままに腰を進めていく。
カイの背が、跳ねるように反った。腕を回し入れ、突き出された乳首を舌先で舐める。しょっぱい。しょっぱくて、甘い。腰を使いながら、夢中で舌を這わせる。カイの唇からは、ひっきりなしに甘い悲鳴が溢れてくる。
最近、カイ自身よりもカイの体に詳しくなっている気がする。

「やぁぁ・・・!」
「カイ・・・」
「ひぃっ、あっ、あっ」
「気持ちいい・・・」
「・・・!」

ビクン と身を震わせて、カイが果てた。あっという間すぎて、ちょっとびっくりする。そのおかげで、頭に昇っていた血がちょっとだけ下がった。
身を起こし、ゆっくりと奥まで抜き差しする。カイはこうされると、何回でもイく。

「や、やだ、やだ」

奥に届く度に、びゅく、びゅく、と、カイの先端から白濁した体液が溢れる。エロくて、かわいくて、堪らない。

「も、もう、イッて・・・」
「うん・・・」

体を倒し、ぴったりと体をくっつけたまま、強く腰を打ち付ける。激しく収縮する波に、ヴァイスは身を任せた。

達する直前、頭の中に熾火が舞うように浮かび上がり、消えた。


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