猫奴隷の日常

ハルカ

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報復の夜 3

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「どうしたんだい?」

煙草に火をつけてから振り返ると、カイは今降りて来たばかりの建物を振り返って見上げていた。声をかけると、一瞬ためらうような顔をしながらも大人しくやって来てヒューの横に並んだ。

「まずかったなー」
「フェリクスのことかい?」
「ちっと、暴れたりねーって顔してたな」

付き合いが長いだけあって、よく見ている。ヒューは感心した。

「カイ君が巻き込まれたことで相当腹を立てていたみたいだからね」
「オレのことより、襲われたのがリュカ兄だったらって考えちまったんだろ」

カイは言ってから、ヒューが咥えていた煙草に目を向けた。

「おっさん、タバコ吸うんだ」
「まあね。っていうか、またおっさんって呼んでるな」
「この方が呼びやすいし」
「若者は自由だな」
「まーね」

ヒューは機嫌よさげに横を歩くカイを見た。それから、「男の恋人がいる」と言ったテオの言葉を思い出した。
カイを暴漢から助けた後、連れて行かれた詩吟亭で一度テオとは再開していた。しかしその後テオからは何の音沙汰もない。息子について調査することは、やはり諦めたのだろう。
だからこれは、ヒューの純粋な興味だった。
真面目で大人しそうなリュカならともかく、いかにも強気で男に随順しそうもないカイが、一体どのような人物と付き合っているのか。

「カイ君、恋人はいるのかい?」
「は?なんだよ急に」

組んだ指を首の後ろにあて、気持ちよさそうに目を細めて夜風にあたっていたカイが、横を歩くヒューを見た。

「えーとだねぇ、恋愛対象は、女の子?」
「はぁ?なんでンなこと聞くんだ?」

カイが訝し気な目を向けてくる。ヒューはどう聞こうかと迷いながら、咥えていた煙草を指先で弄った。

「つまり、男は恋愛対象に成りうるのかい?」

カイが目を丸くした。キョトンと見開かれた目に、戸惑いが混じる。

「・・・わりぃ、おっさん」
「何がだい?」
「オレ、おっさんをそういう目では見れねぇわ」
「俺!?いや、俺のことじゃ・・・」
「あー、そういうことなら送んなくていいわー」
「え!?」
「ごめんな。じゃあ、オレもう行くわ」

さっと身を翻したカイを、ヒューは思わず追いかけていた。

「待ってくれ!カイ君!」
「ちょっ!こえーから!追いかけてくんな!」
「君は誤解してる!」
「わっ、分かったって!誤解してねーから追いかけてくんな!」
「じゃあなんで逃げるんだ!?」
「追っかけてくるからだろ!」
「なら、止まるから君も止まってくれ!」
「先におっさんが止まれよ!」
「はぁっ!はぁっ!俺が止まったらそのまま行く気だろう!」
「ったりめーだろ!」

マズイ。このまま取り逃がしては、おかしな誤解をさせたままになってしまう。しかし年齢の差は如何ともしがない。段々息が上がってきた。
その時、ちらちらと後ろから追いかけてくるヒューの姿を確認しながら走っていたカイの姿が消えた。しかし道を逸れたわけでも、しゃがみこんだわけでもなかった。
前方不注意で前を歩く人物の背中に突っ込み、そのままボーリングのピンよろしく地面に跳ね倒してしまったらしかった。

「いってー・・・!」

打った鼻を押さえながら自分がぶつかった相手を見上げたカイが動きを止める。カイがぶつかったのは、明らかに強面な男たちの集団だった。ヒューは限界に近い足を無理やり動かしてかけつけ、腕を掴んで立たせたカイの頭を押さえた。

「すみませんでした!」

言いざま、相手が答える前に急いでカイの手を掴んで引っ張る。
我に返ったように上がった怒声が、人々の波を割って追いかけてくる気配がする。ヒューは迷わず、先ほど出て来たばかりの路地に駆け込んでいだ。

入り組んだ路地は、身を隠すには適している。でたらめに角をいくつも曲がり、コンテナが摘まれた陰に滑り込んだ。
背後の怒声は、二人を追ってきてはいたがまだ遠い。しかし、執念深く追って来ればいずれ見つかってしまうだろう。

「こりゃ、見つかったらボコられるなー。確実に」

カイが、走ったせいで上がった息をつきながら言う。ヒューは同意するように頷いた。

「しまったな。フェリクスを連れてくるんだった」
「そうだ!魔法で呼び出せよ!」
「召喚獣じゃないんだから」

いいことを思いついた、というように目を輝かせるカイを、ヒューは呆れて見返した。そんなことができれば苦労はしない。

「はぁ。おっさんが言ったのはほんとーだったな。なんだっけ?勝った兜が踊りだすんだっけ?」
「勝って兜の緒を締めよ、だ」
「どっちでもいーけど、なんとかしねーと」

疲れたようにカイが石壁に手を突く。しかし、思ったような手ごたえがなかった。
押した壁がそのまま引っ込み、ぽっかり開いた壁の中から暖かそうな光が漏れている。
カイとヒューは顔を見合わせ、迷わず中に飛び込んでいた。



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