猫奴隷の日常

ハルカ

文字の大きさ
上 下
94 / 192

ある朝の攻防

しおりを挟む
「あ」

じぃっと上から覗き込んでいた瞼がピクリと動き、レイは思わず声を上げた。うつつに傾いていく意識に抵抗するように、その眉間に皺が寄る。
しばらくそのまま見ていると、瞼がうっすら開いてレイの好きな赤い瞳が覗いた。しかし眠たいのか、またすぐに閉じてしまう。

「なんだ。じっと見たりして」

起き抜けのダルさを含んだ声でエイベルが言う。
窓から差し込む柔らかな朝の光が、瞼を閉じていてすら眩しく感じるのだろう。
レイが枕にしていたエイベルの腕が持ち上がって、瞼を覆うとする。それを察して、レイは素早く懐に潜り込んだ。

「おはよ、エイベル」
「まだ早いんじゃないか?」
「そんなことないよ。ほら、外も明るいし」

瞼に置こうとした手がレイの頭に触れたことに気づいて、またエイベルの瞼が開く。それがまだ閉じてしまわないように、レイは日の光に当たって白く見えるエイベルの頬をつついた。

エイベルは朝が弱い。
一度起きても、放っておくとまた寝てしまう。いつもならレイは自分が起きたいタイミングで勝手に起きてしまうのだけれど。
レイは心を鬼にして、つついていた頬を引っ張った。

何か役に立つことがしたい、と思っていたレイに、「では朝エイベル様を起こしてください」と困った顔で言ってきたのはセバスだ。それならと簡単に請け負ったが、やはり敵は粘ってきた。

「お前、冬の間は俺より寝ていただろう」
「でももう冬じゃないし」

エイベルが寝返りを打って、レイの腰に抱き着いてくる。
昼間のシャキッとした姿からは想像もつかない様子に、かわいいなぁなどと思ってしまい口元がにやける。こんな姿を見せるのは、レイの前だけだ。
昼間の、一部の隙も無い、まさしく高貴な貴族として育てられたような完璧な所作も格好いいと思うけれど。

黒い髪の間に指を差し込む。さらさらと手触りのいい髪が、指の間を滑り落ちていった。

「じゃあ、どうしたら起きる?」
「・・・」
「エイベル?寝てないよね?」
「・・・」
「もー、起きないんならイタズラするから」
「イタズラ?」

 興味を引かれたのか、エイベルが反応する。

「何をするんだ?」
「え?」

思い付きで言ったことで、何も考えていなかった。
レイは腰に抱き着いたままのエイベルを見下ろし、上になっている耳をつまんで引っ張って見た。しかし、獣人でもないエイベルは、耳を引っ張られても全く動じない。

「それがイタズラか?」
「うぅ・・・」

エイベルはレイの腹に顔を埋めたままだ。涼し気な様子に腹が立つ。
なんとかダメージを食らわせる方法はないものか。
レイは再びエイベルの顔を見下ろし、それから筋の浮いた首が剥き出しになっているのを見た。

「動かないでよ」

レイは カプ とエイベルの首に噛みついた。
次いで、噛みついた部分を軽く吸う。
顔を離して見ると、赤く内出血を起こしているのが分かった。自分でやっておいて、肌に起こったその変化に驚いて思わず見入る。

しげしげと眺めてから顔を上げると、面食らった顔のエイベルと目が合った。
急になんとなく落ち着かない気分になって、レイは目を逸らした。

「お客さんが来て恥ずかしい思いすればいいんだ」
「・・・やられたな」

エイベルが片手で顔を覆う。
しかしその肩が震えていて、笑っているのは明白である。

「今日のは手加減してあげたんだからね?」

不機嫌に言うと、エイベルは顔を覆ったまま頷いた。

「ああ。そうだろうな」
「次は酷いから」
「分かった。楽しみにしておく」
「楽しみにするものじゃないから!」

言い合っていると、コンコンと扉がノックされた。セバスがやってきたのだ。
エイベルはさすがに目が覚めたのだろう。ベッドの上に身を起こして、叩かれるドアと時計を見てため息をついている。
一応起こすことはできたから成功と言っていいだろうが、毎朝この調子ではさすがに大変だ。
レイは簡単に請け負ったことを少しだけ後悔しつつ、まだ眠たげな背中に抱き着いた。


しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ
BL
 日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。  アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。  竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。 ※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...