猫奴隷の日常

ハルカ

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冬の日常

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「んー・・・ エイベル?」

ベッドの上でうとうとしていたレイは、背後に張り付いてきた気配に気づいて目を覚ました。

腹の方に手が回ってきて、布団ごと抱きしめられる。
窓の外はもう真っ暗だった。夕食を終えてエイベルの部屋にやって来てから、いつの間にか眠っていたらしい。

「エイベル?」

布団に入って来ることもなくただレイを抱きしめているエイベルを不審に思って背後を振り返り、すぐに異変に気付いた。
ピトリと触った額が熱い。

「エイベル、大丈夫?」

腕の中から抜け出して、上から覗き込む。はぁはぁと荒い息遣いと、苦し気に寄せられた眉にすっかり眠気が覚めた。
ここしばらくはずっと寒い日が続いている。それでカゼを引いてしまったのだろうか。

「布団かけるから、体起こして」

横になった肩を軽く揺さぶってみる。しかし意識が朦朧としているのか、呼びかけに答える様子がない。
仕方なく体の下敷きになってしまった布団を引っ張るが、レイの力ではどうにもならない。

「どうしよう・・・ とりあえずセバス様を呼んできた方がいいよね」

レイはベッドを降り、急いで廊下に出、すぐに一旦部屋に戻った。きょろきょろと部屋を見回してエイベルの外套が椅子の背にかかっているのを見てそれを拝借した。




「確かに、熱が高いですね」

呼んできたセバスにエイベルを見てもらい、とりあえず二人で協力して布団の中に入れることに成功した。

「どうしよう?」
「しばらく様子を見ることにしましょう。明日一番でお医者様に来てもらいますから」
「うん」
「看病は・・・」
「僕がするよ」

考える間もなく、レイは宣言していた。以前レイが調子を崩したときはエイベルが看てくれたのだ。エイベルが苦しいときはレイが支えたい。
そう思って言うと、セバスは笑って「それでは、お願いいたしますね」と部屋を出て行った。

「よし!」

気合を入れて、つらそうに浅い呼吸を繰り返しているエイベルを見る。布巾を冷たい水に浸して絞ってその額に乗せると、少しだけ表情が緩んだ。

「仕事、大変なのかな・・・」

エイベルが普段何をしているのか、レイはよく知らない。でもきっと忙しいのだろう。反対に自分は、寒いからといって何もしていない。いや、寒さもあるのだが、エイベルはレイに部屋にいてほしいのだろうとも思うと、無理に出て行く気も起きないのだ。それはそうで、レイは街に出かけた時に誘拐されるという目に二度も遭っている。

「エイベルの病気が治ったら、僕も何かしようかな」

エイベルや皆の役に立つような何か。
額に乗せた布巾に触れる。すでにぬくもってしまったそれを手に取って、レイは独り言のように呟いた。





「あれ?」

気が付くと辺りはすっかり明るくなっていた。いつの間にか眠っていたらしい。エイベルはと見ると、こちらも丁度目を覚ましたようだった。
顔色はまだ悪いが、昨日のような苦しそうな雰囲気はない。

「エイベル、大丈夫?」

額に触れると、汗をかいて乾いた後のようにしっとりしていた。

「ああ。油断したな。あそこまで悪くなるとは思わなかった」
「具合悪かったんなら言ってくれたらよかったのに。セバス様も心配してたよ?」
「ああ。後で謝っておく。それと、レイが看病してくれたんだな」
「うん」
「ありがとう」

いつものように頭を撫でる手に安心した。

「エイベル、僕に何かしてほしいことある?」
「してほしいこと?」

エイベルはしばらく考え、レイの足を見た。

「膝枕」
「・・・そういうやつじゃないんだけど」
「なら、どういうやつだ」
「ま、いっか。それは自分で考えるから」

投げ出した膝の上にエイベルの頭が乗っかる。いつもとは逆に、レイはエイベルの頭を撫でた。しばらくそうしていると、また安らかそうな寝息が聞こえてきた。

「寝ちゃった」

安心したように眠る横顔がかわいい。そんなことを考えていると、寝室の扉がノックされた。

「お医者様に来てもらいましたよ、入ってもいいですか?」
「あ、はーい」

返事をしてから、そういえば膝枕をしていたんだったと焦った。しかし焦っても後の祭りで、扉は開かれてしまった。

「おやおや」

膝枕で眠るエイベルを見て、セバスと医者が目を丸くする。

結局診察の間中、いつの間にかがっちり腰をホールドされていたレイは動くことも出来ず、そこに座り続けていたのだった。



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