猫奴隷の日常

ハルカ

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閑話 5

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「あー、ガキの体力侮ってたわー、オレ」

厨房のテーブルに突っ伏したまま、カイはぼやいた。
向かいに座っていたセバスは、その眠たそうな様子を見て苦笑した。

「ヴァイスのことですか?そうは言ってもそんなに変わらないでしょう?あなたたち」
「アイツの年なんかしんねーけど、ガキに決まってんじゃねーか。ガツガツしやがって」

悪態をつきながらも、嫌な訳ではないのだろう。嫌なら部屋に上げたりもしないし、暇を見つけて逢いに行ったりもしない。

「カイはいくつでしたっけ?年は」
「にじゅーさん」
「ふむ。ヴァイスは十八か九といったところでしょうか?」
「多分なー」
「やはりそんなに違わないではありませんか」
「十代の元気がもうオレにはねーの」

セバスが入れた甘めの紅茶に口を付けてから、カイはやれやれといったように首を横に振る。セバスは自分用にも入れながら、思い出したように口を開いた。

「そういえば、この間ダンさんのお孫さんが挨拶に来られましたよ」
「あー・・・」

セバスがそう言うと、カイは苦い表情になった。

「今は王都で暮らしておられるとか。花まつりを見に帰って来たそうですが、王都で見初められた狼族の女の子・・・、キアラといいましたか。その子がついてきてしまって。あなたに申し訳なかったと言っていました」
「もういいっつーの」
「そんなにヴァイスをとられるのが嫌でしたか」

嫌な笑みを浮かべるセバスを、カイはため息をついて見た。

「まあそれもあるんだけどよー」
「他にも理由が?」
「昔付き合ってた狼族の女にそっくりだったんだよな」
「はあ」
「どーも馬が合わねーんだわ。あの手の我が強いタイプは。そんでついヒートアップしちまった」

軽く笑うカイに、セバスは額を押さえた。

「それ、ヴァイスに言ったんですか?」
「もちろん言ったぜ?」
「ヴァイスはなんて?ああいや、ヴァイスは喋れませんでしたか」
「なんも言わずに大人しく聞いてたぜ?」
「それはそうでしょうけど」

人の悪そうな笑みを浮かべるカイを、セバスは呆れて見る。

「虐めるのもほどほどにしてくださいね。嫌われても知りませんよ?」
「やられっぱなしとか性にあわねーんだわ、オレ。それに、向こうから嫌うとかねーから」
「たいした自信ですね」

ティーポットを掲げておかわりを問うセバスに、カイは空になっていたカップを差し出した。その時裏口のドアが開かれ、話題になっていた本人が顔を出した。

「ンだよ、また来たのかよ」

言いながらも、カイはカップを置いてヴァイスの元に歩いていく。横に並んで立つ姿は仲が良さげで、そこに先ほど悪し様に言っていた様子は微塵もない。

「照れ隠しですかね?あるいはのろけ?」
「あら、仲直りしたの?」

ひょこ、と厨房に顔を出し、サヤは裏口の脇に立つ二人に気づいてそう言った。

「サヤでしたか。そうですね。仲直りしたようですよ」

二人の見ている前でカイの手がヴァイスの首筋を撫で、そのままするりと背に回る。どこか官能的な動きにヒヤリとして、セバスはサヤを見た。

「仲直りのハグね」
「まあ、そうとも取れますか」

カイが、引き寄せた耳元で何事か囁いている。いよいよヴァイスの腕がカイの腰に回されようとするのを見て、セバスはサヤの背を押した。

「もう行きましょうか、サヤ」
「まだ紅茶を飲んでいないわ。あなたたちだけで飲んだんでしょう?」

サヤの目は、テーブルの上のカップに注がれている。

「今日は天気がいいですから。レイを誘って庭で飲みましょう」
「そうね」

あっさりと納得した様子に安堵しながら、セバスはサヤを伴って厨房を出た。レイを探して歩きながら、セバスはふと気になったことを口に出した。

「サヤは、二人のことは知っているんですか?」
「どういう意味?」
「さっき抱き合っていたでしょう」
「仲がいいのはいいけど、不適切だと思うわ」
「不適切ですか?」
「ええ。あれではさすがに彼女が妬いてしまうわ」

真面目に心配する様子を見て、セバスは表情を緩めた。

「そうですね。今度きつく叱っておきましょう」
「ところで、どっちが付き合うにことになったの?」
「さあ。どっちもじゃないですか?」
「・・・不適切だわ」

眉間に皺を寄せたサヤだったが、日当たりのいいテラスでまどろむレイを見つけると、さっと走って行ってしまった。
セバスは解けそうもない誤解は放っておくことにして、二人の元へ歩いていった。
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