猫奴隷の日常

ハルカ

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レイ 25

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レイは奴隷になる前はパン屋で働いていた。
まだ新米だったけれど、一通りの物は作ることが出来る。今日はカイの手伝いで一緒に厨房に立っていた。

捏ねあがった白いパン生地を等分にちぎり、成形していく。
レイは生地を丸めてしまうと、濡らした布巾を絞ってその上にかけた。

服が汚れるのも構わずに肘をつき、スープの支度をしているカイをちらりと見る。
祭りの日から何日か経って、カイは一見何事もなかったように過ごしている。でも、普段よりも口数が少ない気がする。あるいは、意識して普段通りの自分に近づけている。ようにレイには見える。



「カイ、大丈夫?」
「あー?」
「最近元気ない?」
「あー・・・」

レイの言葉を聞いたカイは気のない返事をし、それからくしゃくしゃと前髪をかき回した。

「わりーけど、その気遣いはいらねーから」
「ごめん」
「気にすんなって。ほんとに。レイにそんな顔されちゃ・・・」

言いかけたカイの言葉が止まった。
どうしたのかと見ると、窓の外にヴァイスが立っていた。

「あ、ヴァイス。え?」

がしっと肩を掴まれて、驚いて背後を見るとカイがレイの後ろに張り付いていた。敵意を持った目がヴァイスを見ていて、そうか、近づかれないようにレイの近くに来たのか、と納得した。

レイは閉まっていた窓を開け、ヴァイスに手を振った。レイが移動する分、カイも後ろについてくる。

「おはよう、ヴァイス」
「・・・」

ヴァイスは目だけでレイにあいさつし、それからカイを見た。

「なんの用だよ」
「・・・」
「用がねーなら帰れ」
「カイ、落ち着いてよ。ヴァイスはカイと話がしたいんじゃないの?」

あの女の子のことで。どちらが付き合うにしても、話し合いは必要だ。

「オレには話すことなんてねーから」

レイの後ろから威嚇しても迫力はないだろうに。カイはレイの肩に両手を乗せたまま、ヴァイスとにらみ合った。挟まれてしまったレイは、黙ったまま二人を見比べた。
ヴァイスは困ったような顔をしていて、カイは怒っている。けれど、どこか傷ついているようにも見えた。

「言い訳してみろよ、コノヤロー」

ヴァイスを睨んでいたカイが、ついと目を逸らして呟くように言う。
逸らされたヴァイスは、しばらくそのままカイを見ていた。しかしレイがいては近づくこともできない。やがて諦めたように去っていった。



「カイ、さっきのはちょっとヴァイスがかわいそうだよ」

その背中が見えなくなってから、レイはカイを振り返って言った。

「・・・だよな。わりー」
「僕に謝らなくていいけど」
「なんかよー、思ったよりショック受けてることにショック受けてんの」
「それならやっぱりさ、カイは好きなんだよ」

レイがそう言うとカイは一瞬真顔になり、それからため息をついた。

「分かってるっつーの。ただ、こんなふうに気づきたくなかったっつーか」
「なんで?」
「ちょーしに乗るだろーが絶対!」
「そうかな?嬉しいと思うけど」
「オレがヤなんだって。それに、あの狼女のことが片付いてねーし」
「そうだよね。・・・ん?」

狼女なんて、自分の彼女に対して随分な言い方をするな、とレイは思った。


「ね、すぐじゃなくてもいいからさ、ヴァイスと話しをしに行こうよ」
「・・・」
「そんな不満そうな顔したってダメだよ」

軽くにらむと、カイは不承不承頷いた。


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