猫奴隷の日常

ハルカ

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エイベル 1

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「今日はとても魔力が安定しておられますね」


幼いころから家に仕えてくれているセバスに朝一番にそう言われ、エイベルは返す言葉もなく固まった。
確かに、自分で分かるくらい今日は調子がいい。
それが、昨日の猫の獣人との行為の結果であるのは間違いない。

エイベルは、今の王の弟の嫡男として生を受けた。
多くの人々に祝福されて誕生した赤子は、その目が悪魔の目を持っていることが分かった瞬間に忌み子に変わった。エイベルを生んだ母は心を病んでしまい、大公である父は表面上はかばってくれたが、距離を置いた。
それ以降幽閉とも言える子供時代を過ごし、成人してからは父の広大な領地の端にある屋敷に追いやられた。

最低限の使用人だけを雇い、誰ともかかわらない日々。
それだけならまだいいが、エイベルの強すぎる魔力は発散する場所を求めて度々暴走した。
その度に近くにいた人々を傷つけ、自分の心も傷ついて行った。
それを解消する方法は分かっていた。
相手を伴う性的な交渉。魔力の多い人間たちは皆相手を持ち、そうやって解消している。
しかし、エイベルの場合はそう簡単ではなかった。女を呼んでも、エイベルの赤い目を見た瞬間に逃げるか失神した。怯える人間に無理やり相手をさせるなど出来るはずもない。
それならもういいと諦め、溢れる魔力を騙し騙し過ごしていた。
それなのに、現在の王太子であり、エイベルにとっては従弟でもある男が勝手に奴隷商人に性奴隷を依頼してしまった。

そうしてやってきたのが猫の獣人、レイだった。
しかし、エイベルは奴隷になど全く期待していなかった。どうせ今までの女たちと一緒で、エイベルの目を見れば逃げ出してしまうだろうと思っていた。
だからさっさと終わりにしてしまおうと、レイに目を見るように言ったのだ。
それなのに、レイはエイベルの目を恐れなかった。


「どうやら、首尾は上々だったようですね」

嬉しそうにセバスがエイベルを見る。
王太子の癖に人の悪い従弟の思い通りに動いてしまった自分が腹立たしいような、気恥ずかしいような、変な気分だった。

「そんなにお気に召したのなら、部屋ぐらい用意して差し上げればよろしかったのに」

残念そうに言われて、エイベルは驚いた。

「・・・なに?あいつはどこにいたんだ」
「厨房の隅で丸くなっておられました」
「なっ・・・! まだ部屋を与えていなかったのか!」
「何を言っておられるんですか。どうせすぐに怯えて逃げてしまうだろうから、部屋など必要ないとおっしゃったのはあなた様ですよ」
「・・・」

そうだった。
まさかあんなことになるとは思わずに、セバスにそう指示したのは自分だった。

「・・・部屋を用意してやってくれ」
「はい。もうご用意いたしました。今は部屋でお休みですよ」

エイベルはほっと息をつき、それから一つ気になることを思い出してセバスを見た。

「もう一つ気になることがある」
「なんでしょう?」
「レイ・・・ と言ったか。あいつの体、アザだらけだった」
「アザですか・・・ 奴隷商人に暴行を受けていたのですかね?」
「いや。奴隷商人にやられたわけではないと言っていた」
「では、前の主人に?」
「いや、しかしあの拙さは・・・」
「何が拙かったのですか?」
「っ!いや、何でもない」

あるいはどこかで獣人狩りにあい、親とも引き離されて売られてしまったのか。
細い体に散ったアザはレイの不憫さを誘い、エイベルの目には酷く痛々しく映った。つらい目に遭っただろうに、エイベルに懸命に奉仕するレイは健気で、エロくて、可愛くて・・・

『ごしゅじんさま・・・』

切なくかすれた誘う声。
見上げる潤んだ碧い瞳。
ふるふると震える銀色の耳としっぽ。

ゴス という鈍い音がして、それから額に痛みを感じた。
気づくと机に頭を打ち付けていた。

「・・・セバス、俺はもうダメかもしれない」
「そのようですね」

朝からレイの痴態が頭から離れない。
あの時体に散ったアザを見なければ、思うままレイの体を貪ってしまっていた。

「あなた様のための奴隷なのですから、お好きになさってください。ただ、仕事はきちんとしてくださいね」
「・・・分かっている。父上に迷惑はかけない」

お飾りの領主仕事さえこなせないとなれば、いよいよ自分の居場所はなくなる。そんなことは自分が一番よく分かっている。

「・・・それと、しばらくは部屋に呼ばなくていい」
「おや、そうですか?」
「魔力も安定しているし、しばらくは持つ」

レイを抱いてしまえば、そのままのめりこんでいってしまう。そんな予感がして、エイベルはため息をついた。

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