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食事を終えたオレは、洗濯にいそしんだ。
いくら昨夜の犯人を推理しようとも答えは出てこない。
体臭もほとんど感じなかったし、こう言うのが合っているのかは分からないが、味もしなかった。味はともかく、ヒューゴからも兄からも体臭は感じない。
他の特徴としては、おそらく若い男で、俺よりも体格がいいということぐらいだ。これも二人とも当てはまる。
ヒューゴについては直接姿を見たわけではないが、引っ張って運んだ感じや、服を脱がせたときの感じからいって俺よりもでかいのは間違いない。
「アシル、今日は何を?」
掃除を終えたらしいヒューゴがオレの元へやって来てそう聞いた。
声の調子からして、懐いてくれているのは感じる。これでこいつが犯人だとしたら、中々にショックだ。しかし、兄が犯人でもショックには変わりない。
「罠をセットしに行く」
昨夜寝る前に手直しした罠を手繰り寄せて手に取る。それを横から掻っ攫われた。
「俺が持ちますよ」
「だから、急に横から手を出すのはやめろ」
「はい」
本当に分かっているのか。軽く返事をするヒューゴが持つ罠が、キィキィと軋むような音をたてる。
オレは白木の杖を手に取った。
ヒューゴと初めて会った時に森に置いてきてしまった杖と同じものだ。手触りがいいので、後日取りに戻ったのだ。
庭を抜け、森に足を踏み入れる。
今日も天気がいい。頭頂部に感じていた太陽の熱が森の木々の影で遮られ、ほっと息をついた。
「この森、すごく居心地がいいですよね。アシルの魔法のおかげですか?」
「買いかぶらないでくれ。オレは住まわせてもらってるだけで何もしてない。この森が本来持ってる力が清浄なんだ」
「なんだかアシル、森の妖精みたいですね」
「・・・はぁ?」
なんだ。その反応に困る例えは。
「いや、なんというか、森と共存してるというか」
「共存?」
オレはただ、摂理に逆らわないように生きようとしているだけだ。
「だとしたら、あの人のおかげだな」
「あの人?」
「俺が子どもの頃、今住んでる小屋はオレの秘密基地だった。そこに住んでいたのがあの人だ。今になって思えば不法侵入だが、その頃は分からずオレは懐いてた。その人から、森で共存する方法や、魔物を自分で捌いて糧にする方法を教わった」
「へえ。そんな人がなんで不法侵入して住んでたんです?」
「わからない」
今となってはただの謎のおっさんだ。しかし、子どもの目には何でも知っている不思議な大人として見えていた。
「この辺りにしよう」
足元から伝わる立地を確認しながら、ヒューゴに罠の設置をしてもらう。
「この間とは違う場所ですね」
「魔物も学習するんだ。ずっと同じだと見破られる」
「へえ。頭脳戦ですね」
地面に罠がセットされる気配。オレは目を閉じてその一連の音を聞いていた。本当に手先が器用なのだろう。何度か設置するところを見せただけだというのに淀みがない。
「終わりました。もう戻りますか?」
「そうだな。戻ろう」
白木の杖を先導させて、来た道を戻り始める。
もしもヒューゴが侵入者Xだとして、オレを殺す気ならいくらでもチャンスはある。夜を待つ必要もないし、なんなら今襲われてもオレには抵抗する術がない。
逃げようにも、オレは走ることすらままならないのだ。
一人暮らしは危険だ、と言っていた兄の言葉が今は耳に痛かった。
こういう事態は想定していなかった。
オレの歩調に合わせて森を戻り、家に入って時間を確認するとすでに夕方になっていた。今日はオレが食事を作り、二人でテーブルを囲む。
昨日まではほっとしていた時間が、どこか緊張感を伴っている気がする。
オレは窓がある辺りに顔を向けた。
また夜がやってくる。
いくら昨夜の犯人を推理しようとも答えは出てこない。
体臭もほとんど感じなかったし、こう言うのが合っているのかは分からないが、味もしなかった。味はともかく、ヒューゴからも兄からも体臭は感じない。
他の特徴としては、おそらく若い男で、俺よりも体格がいいということぐらいだ。これも二人とも当てはまる。
ヒューゴについては直接姿を見たわけではないが、引っ張って運んだ感じや、服を脱がせたときの感じからいって俺よりもでかいのは間違いない。
「アシル、今日は何を?」
掃除を終えたらしいヒューゴがオレの元へやって来てそう聞いた。
声の調子からして、懐いてくれているのは感じる。これでこいつが犯人だとしたら、中々にショックだ。しかし、兄が犯人でもショックには変わりない。
「罠をセットしに行く」
昨夜寝る前に手直しした罠を手繰り寄せて手に取る。それを横から掻っ攫われた。
「俺が持ちますよ」
「だから、急に横から手を出すのはやめろ」
「はい」
本当に分かっているのか。軽く返事をするヒューゴが持つ罠が、キィキィと軋むような音をたてる。
オレは白木の杖を手に取った。
ヒューゴと初めて会った時に森に置いてきてしまった杖と同じものだ。手触りがいいので、後日取りに戻ったのだ。
庭を抜け、森に足を踏み入れる。
今日も天気がいい。頭頂部に感じていた太陽の熱が森の木々の影で遮られ、ほっと息をついた。
「この森、すごく居心地がいいですよね。アシルの魔法のおかげですか?」
「買いかぶらないでくれ。オレは住まわせてもらってるだけで何もしてない。この森が本来持ってる力が清浄なんだ」
「なんだかアシル、森の妖精みたいですね」
「・・・はぁ?」
なんだ。その反応に困る例えは。
「いや、なんというか、森と共存してるというか」
「共存?」
オレはただ、摂理に逆らわないように生きようとしているだけだ。
「だとしたら、あの人のおかげだな」
「あの人?」
「俺が子どもの頃、今住んでる小屋はオレの秘密基地だった。そこに住んでいたのがあの人だ。今になって思えば不法侵入だが、その頃は分からずオレは懐いてた。その人から、森で共存する方法や、魔物を自分で捌いて糧にする方法を教わった」
「へえ。そんな人がなんで不法侵入して住んでたんです?」
「わからない」
今となってはただの謎のおっさんだ。しかし、子どもの目には何でも知っている不思議な大人として見えていた。
「この辺りにしよう」
足元から伝わる立地を確認しながら、ヒューゴに罠の設置をしてもらう。
「この間とは違う場所ですね」
「魔物も学習するんだ。ずっと同じだと見破られる」
「へえ。頭脳戦ですね」
地面に罠がセットされる気配。オレは目を閉じてその一連の音を聞いていた。本当に手先が器用なのだろう。何度か設置するところを見せただけだというのに淀みがない。
「終わりました。もう戻りますか?」
「そうだな。戻ろう」
白木の杖を先導させて、来た道を戻り始める。
もしもヒューゴが侵入者Xだとして、オレを殺す気ならいくらでもチャンスはある。夜を待つ必要もないし、なんなら今襲われてもオレには抵抗する術がない。
逃げようにも、オレは走ることすらままならないのだ。
一人暮らしは危険だ、と言っていた兄の言葉が今は耳に痛かった。
こういう事態は想定していなかった。
オレの歩調に合わせて森を戻り、家に入って時間を確認するとすでに夕方になっていた。今日はオレが食事を作り、二人でテーブルを囲む。
昨日まではほっとしていた時間が、どこか緊張感を伴っている気がする。
オレは窓がある辺りに顔を向けた。
また夜がやってくる。
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