オレのいる暗闇の世界

ハルカ

文字の大きさ
上 下
3 / 19

しおりを挟む
何度も立ち止まって位置を確認しながらヒューゴを引っ張って小屋にたどり着いたと同時に、屋根を雨の音が打ち始めた。

部屋に置いてある時計の頭を押さえる。鐘が三つ鳴り、それから少し間を空けて二十回鳴らされる。三時二十分。目が見えないオレのために、兄が見つけてきてくれた時間を鐘の音で知らせてくれる時計だ。

オレは泥と葉でおそらくぐしゃぐしゃになっているはずのヒューゴの服を脱がせた。勝手に裸にさせるのは気が引けるが、まあこちらは目も見えないし、相手も気を失っている。気にする必要もないだろう。
それから濡らした布巾で思いつく限りの場所を拭い、背後から両脇に腕を回してヒューゴを引っ張り、自分が使っていないほうの部屋の寝室のベッドに寝かせた。

それらの仕事を終えると、しばらく動けないほどに疲れていた。
あのまま置いていっても良かったのかもしれないが、族の急襲に巻き込ませまいと手を引っ張ってくれたヒューゴに、それでは余りにも薄情だ。

オレはふらふらと立ち上がり、着ていた服を脱いで先ほどヒューゴの服を脱がせたあたりに放った。どっちみち、洗濯をしないことにはどうにもならない。
水を浴びてから自分の部屋のベッドに倒れこむ。ようやく人心地つき、やってきた睡魔に逆らわずにオレは目を閉じた。



目が覚めた俺は、再び時計の頭を叩いて時間を確認した。
七時十分。昼寝にしては随分長いこと寝てしまった。
男はどうしたのか。男を寝かせた部屋に入り、ベッドの上を手探りで探す。すると、温かい人肌に触れた。反応しないところを見ると、まだ寝ているらしい。

そのままにしておくことにして、オレはリビングに戻った。昨日兄が置いていった干し肉とドライフルーツを出してきて軽い食事を取る。
これでは兄の思うつぼだが、外は雨の気配がする。泥だらけで戻って来て、さらに雨に濡れる勇気はなかった。しかも、自分のルール故取り置いた野菜もないのだ。

族に追われている、とヒューゴは言った。
穏やかな国だが、やはりはみ出し者はどこにでもいるのだ。取り逃がしたヒューゴを執念深く探しに来るとは思えないが、それほど離れていない場所に族が出没する可能性があるというのは念頭に置いておく必要がある。
押し入られたらオレには抵抗する術がない。
やはり、兄の言うとおりに大人しく庇護下に入るのが一番簡単なのかもしれない。
しかしそれでは・・・

考え込んでいるオレの耳が、ガタン、というかすかな音を拾った。
顔を向けて音の出所を探る。ヒューゴが起きだしたのか。それとも外から聞こえてきたのか。
しかしそれっきり、耳を澄ましても何の物音も聞こえてこない。
雨の音だけだ。
オレは再びリビングテーブルに肘をつき、降りしきる雨に打たれているであろう庭の野菜たちに意識を向けた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

勇者よ、わしの尻より魔王を倒せ………「魔王なんかより陛下の尻だ!」

ミクリ21
BL
変態勇者に陛下は困ります。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

アルファだけの世界に転生した僕、オメガは王子様の性欲処理のペットにされて

天災
BL
 アルファだけの世界に転生したオメガの僕。  王子様の性欲処理のペットに?

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

白雪王子と容赦のない七人ショタ!

ミクリ21
BL
男の白雪姫の魔改造した話です。

束縛系の騎士団長は、部下の僕を束縛する

天災
BL
 イケメン騎士団長の束縛…

無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~

白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。 そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!? 前世は嫌われもの。今世は愛されもの。 自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!! **************** というようなものを書こうと思っています。 初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。 暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。 なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。 この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。 R15は保険です。

処理中です...