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何度も立ち止まって位置を確認しながらヒューゴを引っ張って小屋にたどり着いたと同時に、屋根を雨の音が打ち始めた。
部屋に置いてある時計の頭を押さえる。鐘が三つ鳴り、それから少し間を空けて二十回鳴らされる。三時二十分。目が見えないオレのために、兄が見つけてきてくれた時間を鐘の音で知らせてくれる時計だ。
オレは泥と葉でおそらくぐしゃぐしゃになっているはずのヒューゴの服を脱がせた。勝手に裸にさせるのは気が引けるが、まあこちらは目も見えないし、相手も気を失っている。気にする必要もないだろう。
それから濡らした布巾で思いつく限りの場所を拭い、背後から両脇に腕を回してヒューゴを引っ張り、自分が使っていないほうの部屋の寝室のベッドに寝かせた。
それらの仕事を終えると、しばらく動けないほどに疲れていた。
あのまま置いていっても良かったのかもしれないが、族の急襲に巻き込ませまいと手を引っ張ってくれたヒューゴに、それでは余りにも薄情だ。
オレはふらふらと立ち上がり、着ていた服を脱いで先ほどヒューゴの服を脱がせたあたりに放った。どっちみち、洗濯をしないことにはどうにもならない。
水を浴びてから自分の部屋のベッドに倒れこむ。ようやく人心地つき、やってきた睡魔に逆らわずにオレは目を閉じた。
目が覚めた俺は、再び時計の頭を叩いて時間を確認した。
七時十分。昼寝にしては随分長いこと寝てしまった。
男はどうしたのか。男を寝かせた部屋に入り、ベッドの上を手探りで探す。すると、温かい人肌に触れた。反応しないところを見ると、まだ寝ているらしい。
そのままにしておくことにして、オレはリビングに戻った。昨日兄が置いていった干し肉とドライフルーツを出してきて軽い食事を取る。
これでは兄の思うつぼだが、外は雨の気配がする。泥だらけで戻って来て、さらに雨に濡れる勇気はなかった。しかも、自分のルール故取り置いた野菜もないのだ。
族に追われている、とヒューゴは言った。
穏やかな国だが、やはりはみ出し者はどこにでもいるのだ。取り逃がしたヒューゴを執念深く探しに来るとは思えないが、それほど離れていない場所に族が出没する可能性があるというのは念頭に置いておく必要がある。
押し入られたらオレには抵抗する術がない。
やはり、兄の言うとおりに大人しく庇護下に入るのが一番簡単なのかもしれない。
しかしそれでは・・・
考え込んでいるオレの耳が、ガタン、というかすかな音を拾った。
顔を向けて音の出所を探る。ヒューゴが起きだしたのか。それとも外から聞こえてきたのか。
しかしそれっきり、耳を澄ましても何の物音も聞こえてこない。
雨の音だけだ。
オレは再びリビングテーブルに肘をつき、降りしきる雨に打たれているであろう庭の野菜たちに意識を向けた。
部屋に置いてある時計の頭を押さえる。鐘が三つ鳴り、それから少し間を空けて二十回鳴らされる。三時二十分。目が見えないオレのために、兄が見つけてきてくれた時間を鐘の音で知らせてくれる時計だ。
オレは泥と葉でおそらくぐしゃぐしゃになっているはずのヒューゴの服を脱がせた。勝手に裸にさせるのは気が引けるが、まあこちらは目も見えないし、相手も気を失っている。気にする必要もないだろう。
それから濡らした布巾で思いつく限りの場所を拭い、背後から両脇に腕を回してヒューゴを引っ張り、自分が使っていないほうの部屋の寝室のベッドに寝かせた。
それらの仕事を終えると、しばらく動けないほどに疲れていた。
あのまま置いていっても良かったのかもしれないが、族の急襲に巻き込ませまいと手を引っ張ってくれたヒューゴに、それでは余りにも薄情だ。
オレはふらふらと立ち上がり、着ていた服を脱いで先ほどヒューゴの服を脱がせたあたりに放った。どっちみち、洗濯をしないことにはどうにもならない。
水を浴びてから自分の部屋のベッドに倒れこむ。ようやく人心地つき、やってきた睡魔に逆らわずにオレは目を閉じた。
目が覚めた俺は、再び時計の頭を叩いて時間を確認した。
七時十分。昼寝にしては随分長いこと寝てしまった。
男はどうしたのか。男を寝かせた部屋に入り、ベッドの上を手探りで探す。すると、温かい人肌に触れた。反応しないところを見ると、まだ寝ているらしい。
そのままにしておくことにして、オレはリビングに戻った。昨日兄が置いていった干し肉とドライフルーツを出してきて軽い食事を取る。
これでは兄の思うつぼだが、外は雨の気配がする。泥だらけで戻って来て、さらに雨に濡れる勇気はなかった。しかも、自分のルール故取り置いた野菜もないのだ。
族に追われている、とヒューゴは言った。
穏やかな国だが、やはりはみ出し者はどこにでもいるのだ。取り逃がしたヒューゴを執念深く探しに来るとは思えないが、それほど離れていない場所に族が出没する可能性があるというのは念頭に置いておく必要がある。
押し入られたらオレには抵抗する術がない。
やはり、兄の言うとおりに大人しく庇護下に入るのが一番簡単なのかもしれない。
しかしそれでは・・・
考え込んでいるオレの耳が、ガタン、というかすかな音を拾った。
顔を向けて音の出所を探る。ヒューゴが起きだしたのか。それとも外から聞こえてきたのか。
しかしそれっきり、耳を澄ましても何の物音も聞こえてこない。
雨の音だけだ。
オレは再びリビングテーブルに肘をつき、降りしきる雨に打たれているであろう庭の野菜たちに意識を向けた。
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