上 下
290 / 735
常山公爵

290話 リハビリ

しおりを挟む
僕は半年も寝たきりだったようで、正直起き上がる事すらままなりません。

筋肉を使っていなかったので、力が入りません。手を動かすのですら体力を相当使います。

結局自分で歩く事が出来たのは、僕が目覚めてから1月以上も経ってからでした。

そもそもの初めは・・・・眩しすぎて、眼が光に慣れるのに3日かかってしまい、目を使っていなかったので、慣れるのが大変でした。少しの明かりですら刺激が強いのです。
妻と名乗る女性達に介抱をしてもらい、ベッドから体を起こした状態にしてもらいましたが、腕もまともに上げられずという体たらく。


箸を持つのに更に3日かかるとか。

箸がこんなに重いとは、信じられないような衝撃です。大きなスプーンは数秒しか持ち上げられませんでした。

この間、ずっと誰かが付き従ってくれています。その、かわるがわるですが、全員妙齢の女性です。
僕は正直、結婚相手以外の人には触れてほしく・・・・というか、触れる事によって色んな感情をその女性達に抱いてしまうのを避けたかったのですが、一人では何もできず、相手に全てしてもらっています。

僕が明らかに触れてもらうのを嫌がっても、嫌な顔一つせず下の世話までしてくれて。

僕がそんな事をしてもらわなくてもいいよとか、僕は将来を誓い合った女性以外にはそんな事をしてもらいたくない、そう言って断っても、
「私の事は気にしなくていいい・・・・介護士と思えばいい。」
と言って僕の介護をずっとしてくれるんです。介護士、仕事?

ある日僕は一人の女性に、
「どうしてここまでしてくれるの?僕は何も返してあげられないし。申し訳ないけれどそのつもりもないよ?」

そう言っても、
「別に見返りを求めている訳ではないですよお?」

ある女性には
「感謝こそすれ、僕の気持ちは変わりませんから。もういいですから。」

そう言って断ろうとしても、
「せめて其方が歩けるまではこうさせてほしいのだ。」

どうしてこの妻と名乗る女性達はここまでしてくれるのでしょう。僕は彼女らに何かしていたのでしょうか?

僕は最初の2週間はこんな気持ちで過ごしていました。

2週間経って、僕の態度も気持ちも変わっていないのを知ってか知らずか、皆変わりなく介護をしてくれます。
この頃になると、僕は一人で物を食べる事もできるようになりましたが、歩けずひたすらベッドの上。
正直時間を持て余していたのですがそんな折、女性達は僕の様子を見てくれ、適度に話し相手になってくれてます。

気が付けば僕は、誰かと話をしている間、その相手の手を無意識に握っていました。
気が付いた時に放そうとしましたが、何だか優しく握り返してくれるんです。

意識が戻ってから3週間が経ち、僕はだんだん記憶が戻ってきました。
だけど何かを思い出せない。大事な何かを思い出せずにいるようで、もどかしいんです。

僕はかわるがわる世話そしてくれる女性を、じっと見つめます。

時には何か言いたそうにしているようですが、僕は思いだそうとしますが、何も思い浮かびません。

4週間目に入った時、僕は気が付きました。
この、目の前にいる女性達は、僕に対して無償の愛を捧げてくれているんです。

そう、彼女らは一度も見返りを求めてきません。
ですが、このままでいいわけがありません。

そして暫くして僕は歩けるようになったので、ベッドを変える事に。
もっと大きいベッドを希望しました。

流石にまだ歩けると言ってもほんの数分。

そんな折、どこかで見たような気がするのだけど・・・・思い出せない・・・・友郁と同じ黒い髪の女性。あれ?今誰かの名前を思い出したような気がしましたが、思い違いでしょうか?
「順平さん、食事ですよ?」

僕を順平と呼ぶその女性。誰だったかな?
僕はそれを聞くのが怖くて一度も聞けずにいたけれど、思い切って訊ねてみます。
「ええと、君は誰?」
一瞬その女性はびくっとなりましたが、
「森江泉と申しますわ。」
「そうでしたか、ご丁寧にどうもありがとうございます。ええと、後ろの方はどなたでしょうか?」
「才村友郁です、順平さん。」
「森江さんと才村さんですね。ええと、その、以前お会いした事ありましたっけ?どうにも記憶があいまいで・・・・」

??
2人は顔を見合わせています。

「順平さんはその、倒れるまでの記憶はありますか?」

??
倒れる?何だっけ?



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

W職業持ちの異世界スローライフ

Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。 目が覚めるとそこは魂の世界だった。 橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。 転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

処理中です...