859 / 1,195
外伝 女神のチョンボで大変な事に 口田 士門
アルフォンシーナさんと癒しの力
しおりを挟む(んー……何だか温かい)
とても、優しい温もりに私の身体が包まれている───幸せ!
(これが……本当の幸せ)
───ずっとずっと私の心はどこか満たされないままだった。
お母さんの顔色と機嫌だけを窺って生きていたあの頃。
伯爵家に引き取られてからは「使えない」「ダメな子」「役立たず」散々、罵られた。
少しでも褒めて貰えるようにと頑張ったけど、なかなか思うようにはいかなかった。
全ての記憶が繋がってから、私にとっての幸せだった時を思い出そうとすると、そこにはあの男の子───カイザルがいる。
(初めてのお友達……)
愛とか恋とかはよく分からなかった。
それでも、私はカイザルと会っていたあの短い日々が楽しくて大好きだった。
(ありがとう、カイザル───)
「……眩し…………朝?」
そんな幸せな気持ちで私は目を開ける。
陽の光がかなり眩しい。
もしかしてこれは結構いい時間なのでは?
(今、何時かしら? どうして誰も起こしてくれな───)
「ん?」
そこで自分の身体に巻きついている腕が目に入った。
「ひっ! 腕……人間の腕、よね?」
最初に私は自分の腕の確認をした。間違いなく私の腕──はここにある。
「これは…………ハッ!」
そこで、ようやく昨夜のことを思い出した。
初夜が延期になったはずなのに、カイザルは部屋に戻らず私をベッドに押し倒して──
(たくさんキスをされた気がする! それで、私……頭の中がトロンとして……)
「え……まさかの寝落ち?」
そうとしか思えなかった。だってそこから先の記憶が無い。
そうなるとこの腕、それとこの温もりは───
(一晩中、抱きしめてくれていたのかしら?)
私を包むカイザルの温もりが、とにかく“私のことを大好き”と言ってくれているみたいで幸せな気持ちになれた。
「うっ……ん…………」
「は! カイザルもお目覚めかしら?」
私は慌てて後ろを振り向きカイザルの顔を見ようとした。
「…………コ、レット…………シェイ、ラ……」
「…………」
すごいわ。ベッドの上で私を抱きしめながら、二人の女性の名前を寝言で呼んでいる。
とっても不誠実な発言のはずなのに、ただの一途になっているという……
私はそっとカイザルの頬に手を触れる。
そしてそこに自分の顔を近づけてチュッと彼の頬にキスをした。
「カイザル───ありがとう」
シェイラを強く想ってくれて。
そして、コレットを見つけてくれて───
────
「……ん? コレット?」
「───おはよう、カイザル」
どうやらカイザルの目も覚めたらしい。
だけど、少し寝ぼけているのかどこか焦点の合わない目で私をじっと見る。
「可愛い可愛い俺のコレットがいる……」
「カイザル?」
「夢の中でもコレットが俺の腕の中にいたのに、目が覚めてもコレット……」
「……コレットです」
私がそう答えると、カイザルがへにゃっと笑った。
「──!?」
これまで見たことのないその笑顔? に私は大きく戸惑った。
(……もう! 本当にカイザルがわけ分からないわ!)
小説では、愛してもいない私を娶りお飾りの妻として冷遇するはずのカイザル……
今はこんなにヘニャヘニャの笑顔を見せている。
小説と現実は違うのだと、すでにたくさん実感させられてきたけれど……
(……あの妙に無口な日々はなんだったの?)
そのことも聞きたいと思っていたのに、まだ聞けていなかったことを思い出した。
「ねぇ、カイザル!」
「ん~? コレット?」
「……っ」
カイザルがへにゃっとした笑顔のまま私の名前を呼ぶ。
ちょっと今聞いても大丈夫かな? と思ったけれどやはり忘れないうちに聞いておこうと思った。
「……どうしてあなたずっと無愛想で無口だったの?」
「……無口?」
「私の記憶の中のカイザルも、それに昨夜のあなたもよく喋る人だったわ」
「……よく喋る?」
「なのに、結婚してから……いいえ、顔合わせの時もね? あなたはびっくりするくらい無口だった。どうして!?」
私が勢いよく訊ねると、カイザルはしばらく考え込んでから、ボンっと顔を赤くした。
「え……」
何故ここで顔が赤くなる?
「そ、そ、そそそれは……」
「それは?」
躊躇うカイザルに私はグイッと迫る。
「……」
「カイザル!」
「う! ………………から」
ようやくカイザルは観念したのか、ポソッと言った。
「シェイラが……」
「シェイラ? どうして私?」
「────シェイラが言ったじゃないか!」
「ん?」
私は首を傾げてカイザルの次の言葉を待った。
「しつこい男や口うるさい人は嫌われる……」
「え!」
「男の人は少し無口でミステリアスな人がカッコイイと!」
「…………あ!」
そう言われてカイザルとの会話を思い出した。
あの頃は“ミステリアス”がよく分からなかったけど確かにその話をしていた。
───よく分からないが、男は無口な方がカッコイイ……というわけか
───そうみたい
───ふーん……
(も、もしかして、あの時のカイザルの「ふーん……」は……興味のないふーんではなく……)
「え! そ、それで……?」
「……」
私がびっくりしてカイザルの顔を見たら茹でダコになったカイザルが頷く。
そして必死な顔で私に言った。
「───す、好きな人にはカッコイイと思って貰いたいじゃないか!」
「!」
「シェイラ……いや、コレットに少しでも俺をカッコイイと思って、それで俺を好きになってもらいたかったんだ!!!!」
(────やだ、可愛い!)
そんなカイザルの言葉に私の胸が盛大にキュンとした。
カイザルが望んだカッコイイではなく可愛い……でだけれど。
「それであんな態度を?」
「…………ミステリアスだっただろ?」
「……」
いや、ただのコミュ障だったわよ……とは言えない。
だけど、なんて不器用な人なの……そんな無理しなくても私は───
「……カイザルのことが好き」
「え?」
「無口だろうとお喋りだろうと関係ないわ? 私はあなたが好きよ」
「コレット……」
カイザルの目が大きく見開かれる。
「シェイラも…………あなたが好きだったわ、カイザル」
「シェイラ……も?」
「ええ! 毎日毎日あなたに会えるのが楽しみだったわ───」
と、そこまで言ったらカイザルがギュッと私を抱きしめ、あっという間に唇が塞がれた。
「んっ……」
(カイザルは可愛いけれど、手が早い……)
なんて思った。
───
そんな熱いキスをこれでもかとたくさん贈られた後にカイザルは私の耳元で言った。
「いいか、コレット。医者の許可がおりたら覚悟しておいてくれ。俺を煽ったのは君だ!」
────と。
今度は私が茹でダコになって頷く番だった。そして───
「ちょっ……カイザル……擽ったい」
「だめ?」
「んん……ダメじゃない、けどぉ……!」
何故かとっくに朝のはずなのに誰も部屋に起こしに来ない。
なので、カイザルからのキス攻撃が止まらない。
お互いの気持ちを確認しあえたことから、カイザルの中に遠慮という物が無くなった気がする。
(は、話を変えるのよ……)
イチャイチャな雰囲気じゃない話に! そうすれば……
と、そこで私はもう一つ浮かんだ疑問を訊ねることにした。
「そ、そうよ! カイザル」
「んー……?」
「あ、あなたがシェイラにくれようとしていた、た、誕生日プレゼントって何!?」
12
お気に入りに追加
4,382
あなたにおすすめの小説
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる