45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ

文字の大きさ
上 下
749 / 1,177
外伝 リュークとエリザヴェータ

スライムに取り込まれつつある

しおりを挟む

「言っておくけど、私は将校オフィシエ57人から推薦されて、将校オフィシエになったからね」

「「なっ!57人!!」」

 まぁ、驚くことも仕方がない。普通はそのようなことは無いらしいから。

「おい、何をした!俺たちですら、2ヶ月かかってやっと騎士シュヴァリエになったんだぞ!」

「ゼクトデュナミス。ここで騒ぐのはよくない」

 そうだね。ザインの言うとおりだ。ザインは何かと突っ走るゼクトの諌め役だ。恐らく神父様がゼクトを一人にしておくと問題を起こそうとするので、ザインをつけたのだろう。

「だが、あの弱いアンジュだぞ!訓練もサボって最低限しか参加しなかったアンジュだぞ」

 あ、それはバイトしていたから朝の聖水の作成作業と教会の清掃以外の訓練の免除を神父様から許可をもぎ取っていたし、どうしても出ろと言われた時の戦闘訓練は面倒だから手を抜いていたからね。

「リュミエール神父に色目使っていたアンジュだぞ」

「恐ろしいこと言わないでもらえる?」

 なぜ、私が神父様に色目を使わなければならないのか。当たり障りなく接することに苦心しても、決して媚を売った覚えはない!

「だったらなんで、リュミエール神父の部屋によく出入りしていたんだ!」

「それはお説教と反省文という名の経済学の論文を書かされていたから」

「リュミエール神父とよく出掛けていたよな!」

「ボードゲームで神父様に勝てばケーキを奢ってくれるという報奨物のため」

 ん?今思えば、何かと神父様に課題を出されていたな。

 ゼクトは私が将校オフィシエになることが気にいらないらしい。いつもながら、よくわからないことで、突っかかってくる。私が決めたことじゃないのに、ここで騒がないでほしい。

「ねぇ。これ以上騒ぐと、神父様に説教してもらうよ。ここに神父様が来ているからね」

 すると、ゼクトはピタリと文句を言うのを止め、ザインのところまで戻っていき私に背を向けた。
 やはり、神父様が怖いのは皆同じらしい。だけど、私を後ろ目で睨んでくることに変わりはなかった。


 その時、この聖堂の鐘が鳴り響いた。音楽でもかなでるように音階が違う鐘が鳴り響く。聖典に書かれている聖女の祈りの一節の音階だ。儀式が始まるのだろう。

「ザインメディル・フラヴァール!」

 ザインの名が一番初めに呼ばれた。
 一人一人名を呼ばれ、聖女の石像に誓いの言葉を言うだけの儀式だ。

 普通の騎士団なら王から剣を承り、剣を捧げる儀式もするそうだが、いない人物が騎士に向けて剣を掲げるわけにはいかないので、言葉だけを捧げるだけだ。

「ゼクトデュナミス・エヴォリュシオン!」

 5分ぐらいの間隔を開けてゼクトの名が呼ばれた。
 何度かゼクトの名を聞いたことがあるけど、いつもながら全く聞き取れない。私の病気は成長しても治ることはなかった。

「アンジュ!」

 なんだか家名がないと味気ないな。そう思いながら、金の装飾がされた扉の前に行き、祭壇側から開けられた扉をくぐって、進んでいく。そこは、人、人、人に埋め尽くされた空間だった。その視線が一斉に突き刺さる。そして、ざわざわとざわめきが沸き起こる。

 聖女至上主義の狂信者共め。黙っていろ。全身を嘗めるような気持ち悪い視線を向けてくるな。

 私は祭壇の中央上部に設置してある。手を組んで天を見上げている女性の像の前に立つ。どこの聖女像も同じ姿をしている。決して剣を捧げる騎士を見ることはない。

 その前に跪く。そして、飾りである腰の剣を抜き、目の前に掲げ、左手を剣身に添える。息を吸い、決まりきった文言を言う。

「我が剣は魔を払い。我が盾は闇を払い。我が身は天使の聖痕を化現されし、聖なる者を命をかけて守らん」

 心にもないことを誓わされるつまらない儀式だ。そして、私の名を呼んだ同じ声で階級の授与の言葉が示される。

「この者に将校オフィシエの階級を与える」

 この言葉に合わせて拍手がされ、私は立ち上がり、踵を返して狂信者共がいる方に向けて一礼する。

 これで終わり。顔を上げると私の正面上段から見下ろす白い王と視線が合った。ああ、彼の周りのモノたちは聖堂の中でも顕在なのか。

「この場を借りて皆に報告がある」

 いつの間にか私の隣にはルディが立っていた。え?気配を感じなかったのだけど?

「私、シュレイン・ルディウス・レイグラーシアとアンジュは一年後に婚姻することとなった。これは国王陛下に許可をいただいた婚姻だ」

 ザワザワとざわめきが大きくなる。所々から『あの虐殺の王弟が』とか『死神が』とか聞こえてくる。ルディの痛い二つ名は貴族の間でも有名なようだ。

「王家に白銀の色を入れる婚姻だ。この場では婚約をしたという報告をさせてもらう」

 ん?その言い方だと悪いように捉えられないだろうか。私の疑問は拍手の海にかき消されてしまった。


 私はルディに手を引かれ、祭壇前から連れ出された。待ち時間が長いわりには、誓いの儀式は直ぐに終わってしまった。まぁ、長々と説法を解かれても耳から耳へ通り抜けていくだけだから、これで良かったと思おう。

 無言で長い廊下を歩いていると、私とルディの行く道を遮る者がいた。ゼクトなんたらかんたらだ。

「おい!やっぱり卑怯な方法で将校オフィシエになってるじゃないか!」

 何をいきなり言い出すのか。私は呆れた目をしてゼクトを見たのだった。

しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...