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第二章

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まあ、あの馬鹿王子も役には多少立ってくれていたことは認めるけどね。あいつ、何の意図があるのか知らないけれど、ラルフ兄様の愛情を奪って行ったくせにラルフ兄様には全く見向きもしなくてさ。逆に僕にばかり言いよってきたんだよね。

ああ、念のために言っておくけれど。僕にもあいつにもお互い恋愛感情なんて全くないよ。それだけは言い切れる。僕もラルフ兄様以外興味ないし。僕が見たところあの馬鹿王子だって絶対ラルフ兄様のことが好きだったはずなんだ。腹は立つけれどこっそりラルフ兄様のことを見る目は恋している目だったからね。忌々しい。

けどその馬鹿王子の行動のおかげで、僕としては得してたんだけれど。ラルフ兄様は素直で愛らしいから馬鹿王子に嫌われてるとショックを受けてて落ち込んでたけれど。いや落ち込んで愁いを帯びたラルフ兄様もまた色っぽくてそそられたけれどさ。それどころか次第に馬鹿王子に愛されるようになった、と思われているおかげで僕のこと憎み始めたんだよね。

だってさ、僕のことを憎むことでラルフ兄様は僕の存在を強く意識してくれるんだから。嫌悪の感情は決して無感情ではないのだから。好きの反対は嫌いじゃないんだよ。好きの反対は無感情。何とも思わなくなること。嫌いという感情は強ければ強い程、逆に相手を意識することになるんだよね。ときには愛情よりずっと強く。

仲良くしている風を見せつけている僕と馬鹿王子の姿を見て泣きそうになるのを堪えながら睨みつけてくるラルフ兄様のなんと可愛らしいことか。

苛められたってなにされたって僕は一向に構わなかった。ラルフ兄様に構われていることが嬉しいだけだったしね。だから、ラルフ兄様が馬鹿王子との婚約を解消したと聞いて物凄く嬉しかったのに。次に言われた言葉はショックを受けてしまうほどの衝撃だったんだ。この家から、この国から出て遠くに行くという事実に、ハンマーで頭を殴られたような衝撃を感じた。

何故?
どうして突然?
折角これから漸くラルフ兄様を僕だけのものにしようと思っていたのに。

けれど、いくら止めてもラルフ兄様は冷たい視線を向けて突き放すだけで。僕を置いて出て行ってしまった。いつもならラルフ兄様の冷たい態度はご褒美でしかなかったけれど、流石に今回のことはかなり堪えてしまった。側に居られれば良かったんだ。憎まれたって恨まれたって、側に居てくれればそれでよかったのに。

駄目だよ。
こんなのは絶対に認められない。
だって、ラルフ兄様は僕だけのものなんだから。
他の誰にも渡せはしないんだ。

走り去っていく馬車を見送りながら、僕はこぶしを握り締めてにやりとした笑みを浮かべる。

だから、絶対に逃がさないからね。
どこに居ようと、必ず探し出すから。
そしてその時こそ、僕だけのものにしてあげる。
身も心もね。

だから。

「覚悟しててよね。ラルフ兄様」

不敵な声が僕の口から静かに零れ落ちた。



「ぶあっくしゅん!」
「おや、風邪ですか?ラルフ坊ちゃま?」
「いや。そんなはずはないんだが。だがなんだろうな、物凄く嫌な寒気がした気がしたから風邪かもしれない」
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