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第一章
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途端に俺の顔に浮かんだのは醜く歪んだ笑み。
ああ、そうか。
俺は今までどうして、そんな簡単なことに気がつかなかったんだ。
邪魔なら消してしまえばいいじゃないか。
「ふっ、ははっ!そうだ、そうだよ!簡単なことじゃないか!」
邪魔ものは消せばいいんだ。
あいつさえいなくなれば、グレイシス王子だってきっと俺のことを愛してくれる。
あいつがいるから、あいつさえいなければ。
そう思ってしまえば、もう頭に思い浮かぶのはそのことだけだった。ルイスを殺す。いつもいつも俺の邪魔ばかりして、俺の欲しいものを無邪気に奪っていく同じ顔の悪魔を殺す。そうすれば、きっと俺は幸せになれるんだと。その場に他の誰かがいて聞いていればどっちが悪魔だと眉を顰めるようなことを考えて、俺はテーブルの上に置いてあったステーキを切る用のナイフを手に握りしめた。
眠っているところをこれで喉を突き刺してやればいいんだ。
一撃で仕留めてやる。
これで俺は幸せになれる。
あいつさえいなければ、俺は幸せになれるんだ。
あいつさえ、ルイスさえいなければ。
そうしてにまりとした笑みを浮かべる。けれど、その瞬間。窓の外で激しい雷の音が鳴り響いた。それと同時に少し明るくなった俺の部屋の窓に映ったのは、あまりにも醜く恐ろしい化け物のような表情の俺の顔だった。それを見た次の瞬間俺は。
「ひぃっ!?」
恐ろしさの余り、次回悲鳴を上げて背後に下がり手に握りしめていたナイフを足元に落としてしまう。
なんだ……なんだ、あの醜い化け物は?
まさか、あれが今の俺の顔、なのか?
あんなに醜い顔をしていたのか俺は……?
そう考えると、心の底からすぅーっと冷えていくのが感じられた。クレイン公爵家の双子は宝石のように美しい美貌の持ち主だと謳われていたのに。俺はいつからあんな表情を浮かべるようになっていたんだ。
それに、俺は今さっき何を考えた?
あいつを、ルイスを、憎む余りに亡き者にしようと考えてはいなかったか?
『ラルフ兄さま!大丈夫です!』
俺の大事な半身。瓜二つの容姿をしていて、不思議となんでも分かり合えてしまう大切で愛しく思っていた双子の弟を。今のように釜鳴が鳴り響いて部屋が停電状態になり、怖くて怯えて泣く俺の手をぎゅっと両手で握りしめて。
『僕がラルフ兄さまを護ります!だから大丈夫ですよ!』
本当は自分だって怖くて泣きたいのを、俺が泣いているからってじっと我慢して、笑顔で俺を励まして安心させてくれた。健気で愛しい俺の弟を。
――俺は、殺そうとしていたのか。
そう自覚した途端、俺は力なく床の上に座り込んでいた。自分の情けなさを痛感して。ルイスはいつだって俺のことを一番に考えて、俺の応援をしてくれていたのに。俺は嫉妬に駆られてルイスにつらく当たり続けても、それでも俺のことを慕って笑顔で接してくれていたのに。それでさえ、俺には鬱陶しく感じられて、なおきつく当たってしまっていた。
そうか。
そうだったんだな。
今はっきり自覚した。
グレイシス王子が俺に見向きをしなかった理由。
こんな醜い表情を浮かべるような人間が愛してもらえるわけがないじゃないか。グレイシス王子は正しい真実を見抜く目を持っている人なんだから、会った時からきっと見抜かれていたんだ。俺がこんなにも浅はかで、愚かで、醜い人間であるということを。
「は、はははっ……」
俯いた俺の口から微かに乾いた笑い声が零れる。
こんな人間、愛してもらえなくて当然じゃないか。
ああ、そうか。
俺は今までどうして、そんな簡単なことに気がつかなかったんだ。
邪魔なら消してしまえばいいじゃないか。
「ふっ、ははっ!そうだ、そうだよ!簡単なことじゃないか!」
邪魔ものは消せばいいんだ。
あいつさえいなくなれば、グレイシス王子だってきっと俺のことを愛してくれる。
あいつがいるから、あいつさえいなければ。
そう思ってしまえば、もう頭に思い浮かぶのはそのことだけだった。ルイスを殺す。いつもいつも俺の邪魔ばかりして、俺の欲しいものを無邪気に奪っていく同じ顔の悪魔を殺す。そうすれば、きっと俺は幸せになれるんだと。その場に他の誰かがいて聞いていればどっちが悪魔だと眉を顰めるようなことを考えて、俺はテーブルの上に置いてあったステーキを切る用のナイフを手に握りしめた。
眠っているところをこれで喉を突き刺してやればいいんだ。
一撃で仕留めてやる。
これで俺は幸せになれる。
あいつさえいなければ、俺は幸せになれるんだ。
あいつさえ、ルイスさえいなければ。
そうしてにまりとした笑みを浮かべる。けれど、その瞬間。窓の外で激しい雷の音が鳴り響いた。それと同時に少し明るくなった俺の部屋の窓に映ったのは、あまりにも醜く恐ろしい化け物のような表情の俺の顔だった。それを見た次の瞬間俺は。
「ひぃっ!?」
恐ろしさの余り、次回悲鳴を上げて背後に下がり手に握りしめていたナイフを足元に落としてしまう。
なんだ……なんだ、あの醜い化け物は?
まさか、あれが今の俺の顔、なのか?
あんなに醜い顔をしていたのか俺は……?
そう考えると、心の底からすぅーっと冷えていくのが感じられた。クレイン公爵家の双子は宝石のように美しい美貌の持ち主だと謳われていたのに。俺はいつからあんな表情を浮かべるようになっていたんだ。
それに、俺は今さっき何を考えた?
あいつを、ルイスを、憎む余りに亡き者にしようと考えてはいなかったか?
『ラルフ兄さま!大丈夫です!』
俺の大事な半身。瓜二つの容姿をしていて、不思議となんでも分かり合えてしまう大切で愛しく思っていた双子の弟を。今のように釜鳴が鳴り響いて部屋が停電状態になり、怖くて怯えて泣く俺の手をぎゅっと両手で握りしめて。
『僕がラルフ兄さまを護ります!だから大丈夫ですよ!』
本当は自分だって怖くて泣きたいのを、俺が泣いているからってじっと我慢して、笑顔で俺を励まして安心させてくれた。健気で愛しい俺の弟を。
――俺は、殺そうとしていたのか。
そう自覚した途端、俺は力なく床の上に座り込んでいた。自分の情けなさを痛感して。ルイスはいつだって俺のことを一番に考えて、俺の応援をしてくれていたのに。俺は嫉妬に駆られてルイスにつらく当たり続けても、それでも俺のことを慕って笑顔で接してくれていたのに。それでさえ、俺には鬱陶しく感じられて、なおきつく当たってしまっていた。
そうか。
そうだったんだな。
今はっきり自覚した。
グレイシス王子が俺に見向きをしなかった理由。
こんな醜い表情を浮かべるような人間が愛してもらえるわけがないじゃないか。グレイシス王子は正しい真実を見抜く目を持っている人なんだから、会った時からきっと見抜かれていたんだ。俺がこんなにも浅はかで、愚かで、醜い人間であるということを。
「は、はははっ……」
俯いた俺の口から微かに乾いた笑い声が零れる。
こんな人間、愛してもらえなくて当然じゃないか。
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